第6話 目が覚めると
夕方になり、おサエのお母さんが家に来た。
「吾作~。調子はどうだん? まだ起きれんかん?」
部屋に上がるのがめんどくさかったお母さんは、土間から吾作に声をかけた。しかし吾作は全く身動き一つせず、返事もしない。
「吾作? 寝とるの?」
吾作に声をかけたがやはり吾作はピクリとも動かない。
「まあ、疲れてよう寝とるだな。まあええわ。帰ろ」
お母さんはボソボソ言いながら家を出て帰って行った。
日が暮れて、おサエが畑仕事から帰ってきた。
「おサエちゃん! おかえり!」
目を覚ました吾作が大声で言った。
自分でもびっくりするくらい大きな声だったので、当然おサエもびっくりした。
そして吾作は普通に布団から飛び上がった。これには吾作本人もびっくりした。
「おお! わし! 元気戻っとる!」
「ほ、ほだねえ。ちょっとびっくりしたけど」
おサエの顔はほころんだ。
「ほ、ほいじゃお粥さん作るでちょっと待っとりん♪」
土間にいたおサエはそのままニコニコと夕食の準備を始めた。
そうして夕食が出来たが、いざお粥が目の前に来ると、全く食欲が出ない。
それでもと思った吾作はお粥を一口、サジにすくって口に持っていった。しかし口に近づけるにつれて吐き気をもよおし、仕方なくサジに乗ったお粥をお椀に戻した。
そんな状態なので、おサエも心配になり、吾作も(何で?)と、困ってしまった。
それに元気になったと言っても、自分でも分かるぐらいに痩せてきて、肌の色も青白くなってしまった。
「ちょっとでもいいでご飯食べれん?」
おサエは心配して聞いたが、やっぱり吾作は食べれんかった。
そのかわり、何かが無性に飲みたくなってきた。ただ何かが分からない。でもやたら喉が乾いてる。
それで吾作は水を飲めばいいかと思い、水を飲みに土間へ行って口に含んだ。
ブー!
吾作はその場で吐き出してしまった。
水じゃないみたい。じゃあ何だ?
吾作は考えると、生暖かく、真っ赤な物が頭に浮かんだ。
血だ。
吾作は血が無性に飲みたくなってきている事に気がついた。
(え? 血? 血なのかん?)
そう考えていると近くにおサエが心配そうな顔つきでやってきた。
「大丈夫かん? どしたの?」
そのおサエの顔を見た時、吾作はふいにおサエの首筋に口をつけたくなった。
そこには薄く青白い血管が見える。
そしてその中には生暖かい真っ赤な血がドクドクと流れている。
吾作にはその流れている感じも読み取れた。
飲んだらとっても美味しいんだろうなあ~。
吾作は思わずおサエの両肩を掴むと、おサエの首筋を噛もうとした。
「何? どしたの? 吾作?」
おサエは何の疑いもなく聞いてきた。するとその声で吾作は我に返り、両手をおサエから離した。
「い、今、わし、何した?」
吾作の頭に昨日のあの男に首筋を噛まれた事がよぎった。吾作はひどく動揺した。
「わし、わし、あの男と同じになっとるっっ!」
わなわなと震えた吾作は叫びながら慌ててそのまま家を飛び出してしまった。
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