第37話 通夜に皆さんやってきて
日も登ってしばらくすると、おサエのお母さんや、姉のおタケ、その子供達がすぐに駆けつけた。
「吾作が亡くなるなんて全く思わんかったで、あんたも辛いだらあ」
お母さんはおいおい泣いた。姉のおタケも、
「あの吾作がホントに死んじゃうなんて思わへんかった。私、与平が化け物になってからの吾作の事を、あんまりよく思ってなかったもんで、会いに来んかったけど、来ときゃよかった」
やっぱり涙を出しながら訴えてきた。おサエは、
(与平は言わんかったんだっ。まあ、知らん方がお芝居せんでいいから、いいかもしれんけど~……でも、ちょっと申し訳なくなるなあ……ほいでも、与平は吾作の事、よく思ってなかったんだ~っっ……)
と、思いつつ、
「みんなありがとね」
と、礼を言う事しか出来なかった。お母さんとおタケは、
「あんた、吾作が死んじゃったんだから、泣いとりゃいいんだよ。無理せんでもええで。全部、私らがやったるで」
と、気を使ってくれた。
おサエにはその心遣いが少し痛かったが、家の事をやってもらうとバレるかも知れない。
「大丈夫。いろいろ動いてる方が今はいいで」
おサエはそれっぽい理由をつけて断ると、
「そんな気丈に振る舞ってっっ!」
と、更にお母さんはおいおい泣くのだった。おサエは二人のその様子を見て、
(お母さんとおタケにホントの事を話した時、二人は許してくれるんだろうか?)
と、心配になってきた。
そんな事をしてる最中にも、権兵衛や彦ニイなど、村の人達がどんどん来てくれた。ネズミを退治したり、田植えの件があったというのもあるとは思うが、こんなに村中の人が来てくれると思ってなかったおサエは、
(これはホントの事を話す時は、一軒一軒土下座せんといかんわっっ)
と、内心ヒヤヒヤしながらその場を取り繕っていた。
そんな中、おサエはこの家を遠くからじっと見ている一人の侍らしき人物を見つけた。
その侍は、家に近づくでもなし、離れるでもなしと、だいぶ長い時間同じ場所でこの家を観察でもしているかのようにじっと見ている。最初は特に気にもとめていなかったが、さすがにあまりの長い時間その場所から動かなかったので、おサエだけでなく権兵衛や彦ニイも気がついた。
「なあ、さっきからあの侍、こっち見とるよなあ」
「ほなんだわ。わしも気になっとった」
通夜に来ていたみんながヒソヒソ話し始めると、
「わし、声かけてきたろうか?」
と、長三郎が言い始める始末。
「あ、やめて! 何かあるといかんで」
おサエは慌てて長三郎をおさえた。
ちょうどその話が終わった頃に庄屋さんが、慌てながら駆けつけた。庄屋さんは吾作の家に着くなり、お焼香もしないと吾作の所まで駆け寄ると、
「吾作! 吾作~!」
と、叫び始めた。これにはおサエをはじめその場にいた全員がびっくりし、庄屋さんに注目した。庄屋さんはそんな事はお構いなしで、
「わしが、わしがいらん事頼まんかったら、こんな事にはならんかったのにっ! すまん! 本当にすまんかった~!」
と、大声で横になっている吾作に謝った。そしてすぐにおサエの元にやってきて土下座をした。
「本当にすまんかった! こんな事になるなんて、本当に思わなかったんだわ! わしは、謝っても謝りきれんぐらい悪い事をしてしまった! 本当にすまんかった~!」
「そ、そんな、庄屋さんが悪かった訳ではないのでしょう? こんな事はおやめくださいっ。みんなが見てますしっ。お気持ちだけで、充分です」
おサエはヒヤヒヤしながら庄屋さんをなだめた。すると庄屋さんはおサエに小さな声で、
「こんなんでええだらあ♪ 後で話があるで、夜になったらまた来るわ」
と、ささやき、
「吾作~っっ」
と、また泣きながら立ち上がり、その場にいた村人達に向かってもう一度土下座をした。
「すまん! わしが、ワシがいらん事を頼んだがためにこんな事になってしまった! みんながはらわた煮えくり返っとるのは分かっとるが葬式の次の日、隣村の庄屋のところへ抗議しに行く! もし、もし良かったらみんなもついて来てくれんか! みんなの意思をあいつらに見せたいんだわ!」
庄屋さんは大声で参加を募った。
「わしは行くに」
「わしも行く!」
その場にいた権兵衛や彦ニイが声をあげ、それ以外にも、わしも行く! わしも行く! と、村人達が声をあげた。それを見た庄屋さんは、
「ありがとう! ほしたら葬式の次の日の朝、わしの家に来てくれ! 待っとるに!」
と、村人達に伝えた。その時、先程から家をずっと見ていた侍がどこかへ歩いて行った。彦ニイは庄屋さんに耳打ちをした。
「あいつ見たかん? さっきからずっとここを見とったに」
「ああ。おったな。あれはあやしいわ。ほんでも放っときん。どのみち隣村の庄屋のトコへ行けば分かるだら」
庄屋さんは話しかけてきた彦ニイに冷静になるよう言った。そして庄屋さんは何回か皆に頭を下げると帰って行った。
それを見たおサエは、
(うわ~、何かすごい芝居だったわ~)
と、呆気に取られて庄屋さんを見送った。
そんな訳で、本来なら通夜は夜にやるものなのだが、この日は突然の吾作の訃報という事もあって、ほとんどの村人が日中に訪れて、日が暮れる頃にはたいして誰も来なくなっていた。
なので吾作の通夜は日が沈む頃にはさっさと終了して、さっさと家の戸を閉めて人が来ないようにした。
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