第43話 抗議に行くに!
おサエと葬式に出た村人達は吾作の家に戻ったが、誰も自分の家に帰ろうとはしなかった。
家の中は狭いので、おサエと中のよかった女衆やお母さんとおタケがおり、他の男衆などが外にいた。
そんな家の外にいた権兵衛と彦ニイは、こんな会話をし始めた。
「なあ、彦ニイ。またおったの、見たかん?」
「ああ、見た。やっぱりありゃ侍だなあ」
すると、
「わしも見た」
「わしも見た」
周りからも続々と目撃談が出てきた。その中で長三郎が、
「実はわし、後をつけて、家突き止めてきたに」
と、得意げに言ってきた。
「何? ほんとか! ほんなん今から行くかん? まあわし頭きとってきとって!」
それを聞いた彦ニイがいきりたち、周りの男衆も賛同し始めた。しかし権兵衛が説得に入った。
「だめだて! 相手は侍なんだら? 逆にやられるてっっ! ほれに行くんなら庄屋さんと話してからにせんか? 元々明日、隣村の庄屋さんトコに行くんだし。いきなり行ったら、危ないて」
そのもっともな意見に彦ニイは、
「あん~……」
と、明らかに不満そうであったが、権兵衛の言う通りなので、黙って従うと言った。しかし周りの男衆は違った。
「わし、何か今回の事、吾作の事っつーか、村の事バカにされたみたいで、何かムカついとるんだわ! ほいだて行きたいわ」
「ほだ! わしも似たような事考えとった! 庄屋さんの報告も大事だけど、やっぱ行きたい!」
みないきりたち、権兵衛は困ってしまった。
そんなやり取りが行われるとは全く知らない家の中のおサエは、お母さんやおタケが帰らないし、家の外にも人は残っているしで、気が気ではなかった。
(こんな状態で間違って吾作が家に顔を出したらまあ大混乱だわ。みんなそろそろ帰ってもらった方がありがたいんだけどなあ……)
おサエは自分の事を想ってそばに居てくれてるのは分かってはいるんだが、やはりハラハラが止まらない。かと言って、それを表情にも出せず、とりあえずお母さんの用意してくれたご飯をつまみながら話を聞いていた。
するとお母さんが、
「なあおサエ。あんたこれからどうするだん? ついにこの家、あんた一人になっちゃったじゃんかあ。新しい婿さんでも入れるんか?」
と、おもむろに聞いてきた。それを聞いた姉のおタケが怒った。
「お母ちゃん? 何を言い始めるだん? 吾作の葬式が済んだトコだらあ!」
「ほんだって先の事考えたら心配だもんで~……」
「だからと言って今せんでもいいだらあ~!」
おタケはお母さんの返事にブチ切れた。そのやりとりを聞いておサエは、
「……うん。ありがと。でも今はおタケの言う通りにしといて」
と、静かに言った。
そんな時、外にいた彦ニイが障子を開けて家の中の人達に声をかけてきた。
「なあ、今からみんなで今日来とった侍のトコまで抗議に行かんか? みんなで抗議すれば、侍も何もせんと思うで」
そんな話になっていると思っていなかったみんなは、
「え? 侍?」
「みんなで行くの?」
家の中の女衆は、どうしていいか分からずどうする? どうする? と、話し始めた。そんな中、
「私、行く! 与平じゃたいして文句も言えんだらあし!」
と、おタケはすっかりその気になった。
「いやいや、やめときん! 明日にしりんっっ」
お母さんは止めに入ったが、いきりたったおタケは誰も止められない。そして、
「おサエはどうなん? 私らみんな行くで!」
と、言い始めてしまっていたので、
これはヤバい!
そう思ったおサエは、
「わ、私行くわ。お姉ちゃんは残っときん。私の旦那の事だし」
と、言うしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます