第42話 お葬式当日

「おサエちゃん! 朝だよ! 起きれる?」


 明け方、慌てて家に帰ってきた吾作は、布団に潜っているおサエを起こしにかかった。おサエは疲れきっていたのか中々目を覚さない。吾作は仕方がないので何回か身体を揺すると、


「ん~っっ! まだ寝てたい~!」


 おサエは寝ぼけながらも、何とか起き上がるのであった。それを見届けると吾作は、


「ほんじゃ寝るでね」


と、ロウソクの火を確認すると、布団に入って寝てしまった。


「今日も大変だわ~っっ」


 おサエは嘆きながらも何とか布団を畳むのであった。


 日が登る頃には、和尚さんや庄屋さん、家族のみんなも集まって、吾作の葬式が何事もなく行われた。


 吾作の遺体を入れる棺桶は、間違って吾作が日に当たって燃えてしまうといけないので、家の土間に無理矢理置いた。


 そして村のみんなが見ている中、不自然に吾作の遺体から離れている仏具一式の前に和尚さんが座ると、でたらめなお経らしきものを唱え始めた。

 そのでたらめなお経らしきものを聞きながら、おサエの親族は当然気づくこともなく、おいおいと泣いていたが、さすがに全部芝居と分かっているおサエは全く泣けなかった。しかし、


(泣いたフリぐらいしないと周りの人から疑われるかも)


と、思い、とりあえず下を向いて顔に時折り手を当てて、涙を拭くような芝居をしていた。


 そして、この日もあの侍が、昨日と同じ少し遠い場所から、じーっと吾作の家を眺めている。

 しかも、昨日よりも深妙な面持ちに感じる。それを村人達は、また見て見ぬふりをしていた。


 そのうちお経も終わると、吾作を棺桶に入れる事になった。

 江戸時代の棺桶は樽のような形をしていて、亡くなった人は体育座りのような格好でおさまるのが普通なので、吾作も例に違わず体育座りのように与平や権兵衛達が折りたたみ、棺桶におさまった。

 その様子を何気なく見ていたおサエだったが、ふと、


(本当に吾作が死んだらこうなるんだ。何か本当にいなくなっちゃうみたいでやだな)


 そんな事を考えた。すると急に寂しさが込み上げてきて、涙がぼろぼろ流れてきた。

 これを見ていたお母さんや、姉のおタケも一緒になってわんわん泣いた。


 そうして吾作の入った棺桶は、村の墓地の中でも全く日の当たらない場所が選ばれ、そこに埋められた。

 おサエはその一部始終を見ていたが、一度出た涙はおさまらず、


(これ、ホントに一日で済めばいいけど。でもずっと一人だったら、ホントに嫌だ!)


と、思いながら、他の人がいなくなってからも、その墓標の前から動かなかった。

 その姿がまた村人達の涙を誘って、


「何でこんな事になっちゃったんだらあ」

「まあ、見とれんわっっ」


 などと同情されたのであった。


 そうして葬式は無事に終わった。

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