第36話 通夜当日の朝
さっそく通夜の準備をする為に、吾作は布団に入って死んだフリをする事になった。
とはいっても吾作は日が上ると、簡単に死んだように寝てしまうので、そこはあんまり心配をしてはいなかった。
それよりも問題は日が沈んだ後、しっかり目を覚ましてしまう事であった。
吾作は目が覚めた時に全く動かないでいれる自信が全くなかったのである。
それと和尚さんがいなくても仏具からも光が発していて、痛みを伴う可能性があった。
これはどうしたものかとみんなで考えた結果、仏具を縁側に置き、吾作は部屋の奥で、あまりに痛々しい遺体だから、みんなに見せたくないという事にした。
そして、葬式の後のお墓の準備もする事にした。
吾作は、葬式後、ちゃんと棺桶に入り、葬式の次の日ぐらいまではそこで寝る事となった。
墓の場所は、間違って朝日や夕日がささる場所では、吾作が燃えてしまう可能性がある。
なので村の墓地からは離れた木の多い茂った草むらの辺りに無理矢理作る事にした。
「何でその場所?」
と、聞かれた場合も、
「吾作は人ではなくなってしまったから」
と、いう言い訳も考えた。
かくしてその日の朝から、吾作達のお芝居が始まった。
おサエは、夜中起きてから全く寝ていなかったが、家の掃除をして、通夜に備え始めた。
和尚さんには、とりあえず一回帰ってもらって、少し休んでから、一度家に来てもらい、通夜の段取り(の芝居)を、村のみんなの前でしてもらう事にした。
与平には、朝になったら村中に、
『吾作がどこかで矢に撃たれて死んだ』
と、いう話を言って回ってもらう事と、今朝方みんなで決めた事を、庄屋さんに伝えてもらうようにした。
こうしてそれぞれが帰り支度を始めた時に、
「あ、ごめん与平。そこのイノシシいらん?」
吾作は少し前に自分が血を吸って死んでしまったイノシシの死骸を指さした。
「え? これ食って大丈夫だかん? わしらも化け物になっちまうとか、ないかん?」
与平は怖気ずきながらも、
「庄屋さんなら食うかもしれん」
と、言いはじめ、まあまあ重いイノシシの死骸を背負って帰って行った。
そして朝になり、吾作はいつものように布団に入った。
「ほんじゃ、おやすみなさい」
吾作はおサエにあいさつをすると、速攻で眠りに入った。
そのいつもの目がギンギンに開いた寝顔を見ながらおサエは、今日の事も心配だけど、吾作の様子がホントに心配だと思った。
そしてその顔に白い布を被せると、しばらく見入っていたが、家の片付けを始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます