第67話 年月が流れて

 吾作とおサエが廃寺に住んで数十年の時が流れた。


 その間におサエは階段を使ってよくふもとの村まで行き、新しい友達も出来て、吾作はその村のネズミ退治や油虫退治、雑草を抜いたりなど、手伝える事があれば何でもした。


 こうして村にも馴染んで、吾作は【化けオッチャン】と、あだ名まで付けられたが、吾作はこれを気に入っていた。

 おサエも【化け母ちゃん】と、呼ばれるようになった。おサエもそのあだ名を気に入り、ふもとまで下りては村の人達と仲良くしたり、子供達の面倒を見たりした。


 おサエには子供ができなかったが、決してこの生活に後悔をしておらず、吾作といっしょに過ごせる時間をとても大切にした。


 しかし幸せな時だけではなく、大雨などの水害で作物が獲れない時は、イナゴを吾作が大量に捕まえてきてみんなで食べたりもしたが、あまりに大きな飢饉があったりすると、吾作は何とか村の人達が助かるようにと努力もしたが、救えない命もいくつもあった。


 それでも吾作は生きていた。姿形、何一つ変わらないまま、吾作は元気な青年のままだった。

 しかしおサエは年老いた。気がつけば肌はカサカサになり、髪も白髪になり、顔もしわが増えた。

 おサエは自分が歳を重ねるのに吾作が老いない事に、最初の数年は気がつかなかったが、自分の手のしわや、水に写った顔を見ると、


(自分は年老いていくが、吾作は変わらない)


と、心の中で思う様になっていった。しかしそれを声には出さなかった。


 その間にも自分のお母さんが亡くなり、庄屋さんや和尚さん、そして同世代の権兵衛や彦ニイなど、仲良くしてくれた村のみんながどんどん亡くなっていった。

 その葬式に出る度に、おサエにも時間がない事を切実に感じた。そして畑仕事をするのも辛くなり、ふもとの山まで下りる事も少なくなり、あまり家から出なくなった頃、吾作との別れが近づいている事の恐怖が襲ってくるようになっていった。


(もう私は婆さんだ。吾作は何も言わんけど、こんな私のそばにおって不満はないんだろうか? それに私はそんなに長くない。その時吾作は、どうするんだろうか?)


 そんな事まで思うまでになった。しかしそれからしばらくして、おサエは立つ事も出来なくなってしまった。

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