第2話 海岸の大きな木箱
ふだんは物静かな海なのだが、その日は波が高く、風もいつもより吹雪いていた。その波打ち際には何やらいろんな物が波打ち際にうちあげられている。
大きな木の柱もあれば、小さいがとてもきれいな柄の布きれ、木箱、ガラスのコップなど、吾作たちが見たことのないような物がゴロゴロある。
そして沖の方に大きな船の先端のような物が斜めに立ち上がって見えた。
「あ、あれ? 船じゃないかん? こ、こりゃ大変だ! 船が沈んだんだわ!」
吾作とおサエは波打ち際まで走っていった。しかし、何をしていいのか分からなかったのでオロオロするだけで、二人はほぼ立ち尽くしていた。
するとその中に人が入れそうなとても大きな長方形の木箱が流れついていたのだが、なぜかそれが不自然に少しだけ動いているように見えた。
「?」
二人は疑問に思いながらその大きな木箱に近づいてみると、不思議な事が起こっている事に気がついた。
木箱の下の方は海に浸かっているので、波が行ったり来たりしているのだが、それにしても底の方で何かがうごめいているように見える。
それをよく目を凝らして見てみると、大量のカニやらヒトデやらウニやらがなぜか木箱の底やら横にいて、その生物達がまるで力を合わせて一生懸命に木箱を動かしているように見えたのだ。
「ええ!」
二人は声を出して驚いた。するとそこにいた生物たちは慌てて四方八方に逃げていく。
「何?」
「どういう事?」
二人はその不思議な光景に顔を見合わせたが、当然何がなんだか分からないので、その木箱に更に近づいて周りをぐるぐると周りながら観察をはじめた。
本当に人が一人入ってもおかしくないぐらいその大きな木箱は、特に装飾がしてある訳でもなく、板を釘で打ちつけて合わせた物で、色も塗られていない。
上の部分もフタをかぶせただけの簡単な作りになっているように見える。
しかしそんな質素な感じなのに、船が沈没したせいで少し傷ついてはいるものの、かなりしっかり作ってあるようで、穴は空いていないようだった。
そんなしっかりした木箱を二人が、
「何が入っとるだねえ?」
「あんないろんな奴らが寄って来て、何か美味いもんでも入っとるんかねえ?」
などと話しながら観察していると、木箱の中から小さな声が聴こえたような気がした。
「ワ、ワタシを、ヒカゲに~、ツレテッてクダサーイ」
最初は気のせいかと思った。しかし、
「ワタシを、ヒカゲに、ツレテッて、クダサーイ」
やはり片言の変な日本語がやはり聞こえる。
「きこえた?」
「きこえた!」
二人は顔をまた見合わせた。そこで吾作が、木箱に向かって聞いてみた。
「な、中におるんか?」
「ワタシをヒカゲにツレテッて~!」
今度はしっかり変な日本語が聞こえる!
「こりゃあかん! 今、出してやるでな!」
吾作は急いで木箱の上蓋に手をかけて開けようとしたその瞬間、
「オオ! タイヨウダメ~!」
木箱の中から、かなり慌てた様子の声が聞こえたので、わあ! と、吾作はびっくりしてその手を離した。
そしてしばらくすると、
「ワタシをヒカゲにツレテッてクダサーイ」
そのへんちくりんな声は語りかけてきた。
二人は顔を見合わせ、何かよく分からないけどその大きな木箱を運ぶことにした。
木箱は砂と波にのまれてかなり重く、しかも二人の足も砂と波にのまれるので本当に動かすのが大変だった。
しかしそれでもかなりの時間をかけて、近くの小屋に一生懸命、ずりずりと押しながら何とか無事に運ぶ事ができた。
小屋と言っても漁師さんが漁で使う網などの道具を置いておくための小屋で、作りも適当、入り口がないどころかその面の壁は最初からなく、広さも三畳ほどしかなかった。
それでも奥行きはそれなりにあったので、なんとかニ人はその大きな木箱を小屋の奥まで押し込んだ。
木箱を押し込み、ほっとニ人が一息ついていると、木箱の中から、また片言が聞こえてきた。
「イイ?」
その言葉を聞いた吾作とおサエはその場でへたり込みながら返事をした。
「え、ええよ。日陰についたに。ここなら日は当たらんで」
「オオ! アリガトウゴザイマース!」
その返事の後、その木箱のフタが少し開いて、青白い肌に異様にギョロっとした両目が二人を見た。
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