第12話 それを選択しない理由

「このお菓子、超おいしくない?私、見つけたらほぼ毎回食べてるな~」


「そ、そうなんだ。僕もこの味好きかも…」


彼女に女装趣味がバレてから数日後、彼女にメイクを施され女装をした姿で女子会を開いていた。

事の経緯が発展しすぎて理解が追い付かないのは僕もそうで、なぜ女子会まで発展しているのか不思議でしょうがない。

真実を知ったことにより興味本位で『女装した姿を見たい』なんて言われるのかな、と思っていた。

けれど、それがこうも互いにジャンクフードを食べあって女子のように会話しているとは思いもしなかったからだ。


「君島くん、かたいよ~普段よりもなんか片言だし(笑)もしかして緊張してる?」


「まぁ、そうだね。普段よりも緊張しているかも、、、女性の恰好ってまだ慣れていないからさ」


「いや~慣れたらそれはそれで困るんじゃない?(笑)」


いつも通りの口調で話しているつもりではあるが、それでも普段とは違う言い回しや言葉が詰まる様子は、やはり気付くのだろう。先ほどから緊張しっぱなしで買ってきた飲み物を飲むペースが速い。何か、動いていないと緊張が和らがないようだ。

トイレを行く頻度が高くなる僕を見て、彼女はケラケラ笑っている。


(でも、女装して分かったことがあるな。こんなにもリップが落ちるなんて)


ストローを見ると発色の良いピンクの口紅の跡がくっきりと残っている。そう、可愛らしいものではあるが体の外側で一番水分を含んでいる部分でもあり、接触も多い事から気がつくと口紅が落ちていたりする。


「あ、君島くん。リップ落ちちゃってるよ!洗面所にでも行って塗り直してきなよ!」


「え、あぁ!ちょっと行ってくるね、、、」


こうやって彼女の指摘で席を外す。それが何回続いていた。しかし、抱えた悩みはそれだけじゃない。


(トイレがやりづらい、、、スカートをめくってパンツを脱いで、、、かなり手間)


ズボンであるがゆえにそこまで苦労を味わったことがなかったが、洋服の違いでこうもやりづらさが生まれるものなのだろうか。スカートの裾に飛び散らないよう、慎重に上げ下げを行う。


「はぁ、、、スカートって結構、弱点多いんだね」


「え?そうかなぁー?あまり気にしたことがないかも。履きなれたってのもあると思うんだけどね。でも、可愛いからいいじゃん!」


良いものには必ずリスクが伴う。メリットしかないものなんてない。

判断基準が『可愛いかor可愛くないか』という思考に自分自身のやりやすいか、やりにくいか という思考が男女の違いなんだろうなと感じつつあった。


「んー!もう、お菓子食べちゃったね!買ってきたもの全部なくなっちゃったよ」


「ほとんど新田さんが食べちゃったけどね、どうする?新しく買ってくるのも少し早いけどお開きにするのもいいんだけど」


「んー、そうだね~。少し場所をかえよっか。ベットのほうに行こ?」


「ん?いいけど」


彼女に言われリビングから寝室のほうに移動する。ベット自体はあまり大きくないようでシングルタイプ。一人で寝るようなものでシーツ自体も質素なものだった。


「あんまりよさげなベットじゃないけど、寝るのには申し分ない感じだね」


「ねぇ、どうして場所を移したの?リビングでもよかったんじゃない?」


「そっかぁ~、君島くんはそういうことに気づかないんだ、、、」


彼女は何かを察した感じで少し考え込む。一体何を気付いたのだろうか


「外崎くんってさ、もしかして童貞でしょ?しかも女性経験がない感じの」


「うぇ!?急にどうしたの・・・」


「いや~、正直ここまで察しが悪いとは思わなかったんだけど普通、男女がベットまで行ったら色々と察するじゃん?それへの反応が薄すぎて、もしかして!と思ったんだけど(笑)」


「やっぱりそれが当たった感じかな?当たってる?」


なにも言い返せなかった。女性経験の無さ、それが仕草となってバレてしまうなんて

興味がないわけではないけど、どうしても一歩踏み出せなかったし付き合うこともなかった。


「、、、正解だよ。彼女もできたことないしエッチだってやった事もない」


「そっかぁ、、、あのさ、もし良かったら卒業させてあげようか?」


「え?」


「童貞を卒業させてあげるってこと。私も好きな人とやりたいってのが第一なんだけど君島くんだったら、嫌いでもないし別にいいよ」


試されている。けれど、僕自身彼女とはそうい、ったことに対して湧くものがなかった。


「ごめん、僕自身その気がないっていうか…もちろん、新田さんが嫌いとかじゃないんだ!いつも優しくしてくれるし、今日みたいに女装を手伝ってくれて女子会みたいな今まで経験の無いことをさせてくれたからさ」


本音だ。恋愛感情や性に足しての感情は特段なかったが、彼女とのやり取りや雰囲気は好きで嫌いになれなかったのだ。


「そっかぁ~私もしかして振られた感じ?ふふ、そんな感じだよね」


「ごめんね、でも今は・・・」


「大丈夫だよ、うん…気にしないで」


こうして彼女との女子会は終わった。駅までの道のりは互いに言葉数は少なく気まずい雰囲気が最後まで続いていた。


(もし、好きな人が出来たら女装はどうなるんだろう…それをわかってくれないのなら僕はそれを辞めるのだろうか・・・)


鞄の中に入った洋服を見て電車に揺られ続けた


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