第11話 カラフルな色合いで

(あー気分が上がらねぇ、、、どうしたもんか)


『女装した姿、私も見たい!』なんて言われてから時間は過ぎ帰宅した時間は夜の九時頃を回っていた。新田さんと食事をして彼女からの発言が、こうもカミングアウトにつながるとは思わなかった。


「女装なんて見せたくないんだけどな。なんか緊張するしそれに、、、」


周りにバレるんじゃないか、という考えが頭を巡らせる。新田さん自身、そういったことはないと思うし、秘密にしてくれるだろう。

けれど、懸念点として頭から離れないのだ。

どんなに信頼できる人であっても、口約束なんていつ破棄されるか分からない。その人が仲の良い友人・付き合っている人に話していけば約束なんてないようなものだ。そのうち、僕の耳にも入って来るだろう。


(気は乗らない。けれど、この約束を破ったらこっちのほうがリスクを被るんだろうな、、、頭が回らない)


考えながら歩いていると、いつの間にか家についていた。

次に会うのはいつぐらいだろう。日にちはまだ決めていない。僕は玄関の鍵を差し込む前に、大きくため息をつき玄関の扉を開けた。




数日後、僕は新田さんと会い都内のレンタルルームに向かった。互いに連来を取り合い互いの休みが合う日を選択し、彼女のほうがレンタルルームを予約した。

正直、『どこでやるか』なんて考えもしなかったから数千円を払えばある程度そろっているレンタルルームはかなりお得な気がする。


「お、おーい!こっちだよ~おはよ!」


「おはよう、新田さん。相変わらず朝からテンション高いね」


「そりゃそうだよ!初めてだし、こうやって君島くんと出かけるのってさ!」


(出かけるといっても食べ物を買って、向こうで女装するだけじゃないか)


あまり出かける、というイメージもわかないが彼女にとっては今日は楽しみだったのだろう。期待を壊さないように、彼女についていくことにした。

到着するまでに近場のファストフードでポテトなどを購入、互いに食べられる分だけを買って歩いていくと目的地に着いた。外装は至って普通のアパートのようなもので新しくできたものだからか、汚れも見当たらず綺麗だった。


「こっちだよ、早く中に入ろ?」


鍵を開けて中に入る。部屋の広さはおおよそ大きめの1Kといったところだろうか、家具やソファー、ベットなども落ち着いた色合いで雰囲気がいい。多分、僕の家よりも広いし整っているだろう。


「よし、それじゃあどうしよっか。先に着替えるか、もしくはご飯食べるか。私としては女子会をしたいんだけどな~」


それは食べるよりも先に女装をしろ、ということだろう。彼女の答えは前から決まっていたようだ。


「わかった、女装するよ。でも、メイクは関してはあまり上手くできなんだ。どうすればいいかな?」


「あれ?この前の写真は自分でメイクした写真じゃないの?誰かにやってもらった感じ?」


「・・・まぁ、そうだね」


女子高生にやってもらいました!なんて口が裂けても言えない。身内や友達ならまだしも、コンビニでたまたま知り合った女子高生にメイクをしてもらったなんて言葉、言えないからだ。


「そっかぁ、まぁ君島君がそこまで綺麗なメイクできないと思うし。いいよ、やってあげるよ~」


そう言って少し大きめのメイクポーチを取り出す。中からは多くのコスメがあり、こちらの目から見ても『普段使いようではない、あらかじめ女装させる為に持ってきた』ものに見えた。


「それじゃあ、洋服に着替えてきてね!ウィッグはまだ大丈夫だよ、とりあえず塗ってからね」


そう言われて、脱衣所に向かい洋服を脱ぐ。着替えるのは前回買ったくすみピンクのワンピースだ。色々と買ってみたが結局のところこれしか着たいものがない。


(正直、自分の股間が女性の洋服を着て興奮しなくなったのは慣れてしまったからなのだろうか)


最初のころは性的な興奮を抱いていたが、ここ最近はそういった思いもわかず私服を着るような感覚で着替えている自分に何とも言えない感覚になる。


「着替え終わったよ~、こんな感じかな」


「おお~可愛いね!君島君は体のラインが少しだけ細いからよく似合っているよ」


褒められているが、正直あまり嬉しくない。いや、嬉しい。自分の努力を認められている感覚で悪い気はしなかった。


「それじゃあメイク始めるね。今回は、ピンク系で攻めてみよう」


椅子に座りメイクが始める。今回は服もピンク、メイクもピンクとピンク一色でおこなうらしく自分自身、ケバくならないか心配であったが、こっちはメイクなんぞ出来もしないのでお任せするしかない。


「眉毛、少しだけカットするね。アイブロウは明るい茶色で、、、アイメイクは少抑えたピンクで・・・」


着々と自分の顔を工事する新田さん。一体、どんな仕上がりになるのだろうか。


「君島君は艶があるほうがいい?それとも、しっとりした方がいい?」


「え、、、そうだなぁ。艶がるほうで」


答えた後、唇に何かが触れる。リップだ、唇の上を綺麗になぞられていく感覚が伝わる。


「できたよ、はい鏡。見てみて」


「!?かわいい!なにこれ、、、」


自分の顔があまりにも違いすぎて思わず声が出てしまう。

上崎さんにやってもらった時のナチュラル感とは違って、今回のは女性というより女の子という感じもメイク。

全体的な白地の顔に映えるようなピンクのアイメイクで、それに合わせるような薄茶色の眉毛。唇も艶のある明るいピンクで、渋谷や原宿にいそうな可愛い女の子だった。


「それじゃあ、ウィッグも付けたことだしはじめよっか。女子会♡」





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