歩みだした男の娘

Rod-ルーズ

第1話 始まりの出会い

22:00

夜のコンビニに来る人は大まかに分かれている。

仕事から疲れたクタクタのサラリーマン、お酒が足りなくなって買い足しにきた陽キャ気質の若いカップル。そしてコンビニの前に屯ろする若い集団(多分、大学生か高校生だと思う)


そんな博物館のような空間の中で、僕はそれらには属していない者だった。


「いらっしゃいませ〜」


やる気のない店員がマニュアルの如く声を出す。流石に夜中の為か、店内にいる客の数はまばらで2〜3人ほど。しかも、サラリーマンしかいなかった。


「あの、これください」


やる気のない店員がレジに立つ。ノロノロとやっており、少し苛立ちを覚えるが許容範囲だろう。しかし、レジ打ちの最中、何かに気付いたのだろうか、こちらをじっーと眺めてくる。


ゆったりとしたグレーのニット、そして膝が隠れる長さの黒色のレザースカート。髪の長さはセミロングの長さで見た目は完璧に女性だった。だが、隠せていなかったのは"声"だった。


男性のような低い声。裏声を出しても、声の高低差は誤魔化せないだろう。そんなマスクで隠した目は、あまり整っていないアイメイクだった。


そう、この客は"女装した男子大学生"だった。


・・・・・・・・・・・・・・・


青年の名前は外崎悠馬(ゆうま)

今年の春から大学生になり、地方から上京してきた所謂、おのぼりさんだった。

友達もおらず、地方から上京してきたのは自分一人という状態、大学で新し友人を見つけようにも、あまりコミュニケーションが得意ではなかった為か、一緒に授業や食事を共にする人は作ることができたが、心から気を許せる者は出来なかった。

一人暮らしの1Kアパート。大学が終わり、そのままスーパーのバイトに通う日々が続き、友達など作れる気配がないまま9月を迎えてしまった。


(なんか、高校の時と変わらないなぁ・・・なんで、わざわざ上京してまで大学に進学してきたんだろう・・・)


今の生活と変わらない高校時代。いじめや独りぼっちではなかったが、今と同じように校内では仲が良かったが、放課後に遊ぶことは少なくバイトに行って帰宅する、今の生活とほとんど変わらなかった。自分自身、そのことが嫌で変わりたくて努力し、都内のそこそこ有名な大学に進学をしたのだ。


しかし、現実は抱いた夢と大きく剝離し変わらない日々。

(二十歳になったら、少しは変わっているのかな・・・高3の時も同じことを言ってたっけ)

人はすぐには変われない、そんなことを思いながら、動画を眺めていると一つのタイトルに目が留まった。


『20代のおっさんが地雷メイクをしてみました(笑)』


「何だ、これ。ただのおっさんが女装する動画じゃねーか」


なんでこんな動画がお勧めにきたのだろう、不思議でしょうがない。今まで見てきた関連で出てくるのはよくあるが、今までそういった類の動画は見てこなかったし興味もなかった・・・


けれど、その時の自分は惹かれるかのように動画をクリックしていた。最初に出てきたのは、髭が薄く肌の色も若干白い男性が現れた。見た感じ、女性らしさもなく、男性という性別がはっきりと分かるほどだった。


『今日は巷で有名な地雷メイクっていうものをやっていきたいと思います!一応、レクチャーとかはしてもらったので頑張っていきましょう!』


そこから男性投稿者が1つ1つ使っていく化粧品を紹介していく。

ファンデーション、リップ、アイブロウ・・・次から次へと紹介していきいつの間にかテーブルの上に大量の化粧品が並んでいた。


『とりあえず、こんな感じです。まぁ使わない物も出てくると思いますけど笑それでは早速、始めていきましょう!!まずは洗顔からですね!』


いつの間にか見入っていた。何せ、始まる前の顔と完成した顔があまりにも違っていたからだ。洗顔を終えると顔にチューブ状の茶色いものを顔に塗っていく。下地クリームというやつで全体的に塗り、その上からファンデーションで厚くしていく。


(うわ、すげぇ…髭とか全然見えなくない…)


化粧の凄さ恐るべし…

そこからアイメイクに取り掛かる。今回は地雷系ということもあり、ピンクと黒を織り交ぜたメイクらしい。

俺は、いつの間にかその動画が気になって途中途中でスマホで使ったコスメについて調べていっていた…


『はい!皆さん出来上がりました~どうですか、可愛くないですか??』


動画終盤では、完璧に都心にいそうな可愛いロリ系の顔になった。ウィッグや洋服の影響もあるだろうが、見た目は完ぺきに女の子。


(これだ・・・これをやってみよう・・・)


そこからすぐにネットで同じ化粧品とウィッグ、そしてワンピースやスカートを購入していった。なぜ、ここまで行動できるのか、良くわからないが、新しい自分になれる可能性がすぐそこにある気がしていた・・・


(いやー、あれから結構勉強したな。まさか、あそこまで地雷系のメイクが難しいなんて思いもしなかった)


それからの日々は試行錯誤だった。届いた洋服は微妙にサイズがきついし、メイクも見た通りやっては見たが全然うまくいかなかった。化粧を塗り鏡を見てみたら、そこにいたのはただのオカマのようで、外に出ればすぐに変質者で通報案件だっただろう。


(まぁ、あの時に比べたらだいぶメイクもよくなってきたし、自分に合う服装も少しわかってきた。でも、一度はロリ系の洋服を着てみたい・・・)


変にニヤニヤしていたのが伝わったのか、店員さんの目が怖い・・・すぐに会計をして早く出ようと思い支払いを行った。


(そういえば、さっきからいる女子高生。こんな時間に何しているんだろう・・・補導されないのかな?)


先ほどからお菓子コーナーを物色している茶色のセミロングほどの女子高生。午後10時を回っているのにも関わらず、一向に店を出る気配がなかった。それに、何回か視線も合い、何故だが見られているような気がしていた。


(まぁ、気のせいか。早く帰ろ・・・)


初めての外出女装で気になるだけだろう。そう思い込んで店を出ると、女子高生も同じタイミングで店を出てきた。


(ん、後でもつけているのかな・・・)


彼女のことが気になり、後ろを向く。向いた先には彼女が堂々と立っておりこちらを眺めていた。


「ねぇ、どうして女の子の格好をしているんですか?変態さん?」


思いがけない出会い、そのことが待っているのに気付くのはまだ先の話。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る