第24話 人それぞれ

『ねぇ、あれって男じゃない?』


『ホントだwきもw』


店を出てすぐに自宅まで走って帰った。ロングスカートが足の動きを制限してくるし履いているパンプスのおかげもあってか、かなり走りづらい。汗が流れてメイクもきっと落ちているだろう、ウィッグもズレている気がする。かなり醜い姿のはずだ。普段なら足を止めて鏡でも見るはずだが、そんな事よりも今すぐその場から消えたかった。


家に着き急いで鍵を閉めると力が抜けたからか、その場でしゃがみこんでしまった。

乱れた呼吸と外から吹く強い風の音しかなく、玄関は外気の温度が流れ込んで熱くなった体もすぐに冷めてくる。


「はぁはぁ・・・なんで今に限ってこうなるんだ」


今まで何ともなかったのに、遂に自分が男であるということがバレた。

いや、バレることはそこまで気にしてはいない。それ以上に自分の女装趣味が第三者から否定されたことがショックだった。

何ともなかったのに自分のメンタルがボロボロと崩れていく感じがする。カミングアウトをしてきた中で出会った人、全てが肯定してくれた。

上崎さん、新田さん、姉さんと数は少ないけど自分が勇気を出してカミングアウトした人たちは皆、優しく受け入れてくれた。

だからこそ、他の人たちもきっとそうだと思っていた。言わないだけでそこまで邪険にされないそう思っていた。数時間前までは・・・


「受け入れられない人にとっては不快なものなんだろうね~・・・」


まるで夢から目が覚めたような気がする、結局のところ、僕はイロモノ枠の気持ち悪いカテゴリーの一種だったのだ。


☆☆☆


「ねぇ、元気ないけど大丈夫?せっかくの春休みなんだからもうちょっと元気出しなよ」


定期試験も終わり、僕は新田さんと新宿まで買い物に出かけていた。最初は女装をして女子同士の買い物というコンセプトでいこうと言われたけど、僕自身そんな気持ちも湧かなくて普段通りの男の格好。彼女は最後まで納得せずにいたが粘り強い説得の結果、了承を得ることができ今に至る。しかし、昨日の今日という出来事が楽しむ気持ちに待ったをかけている状態で、先ほどからうわのそらな状態だった。


「ねぇ、やっぱり今朝のこと怒っている?そんなに気にしているんだったらごめんね。私ももしかしたら、女の子同士で買い物でもできるんじゃないかって一人で盛り上がっちゃったからさ。でも、どうして君島君の方から断ってきたの?普段ならノリよく快諾してくれるイメージがあったのに」


たしかに彼女の言う通りだ。普段だったらそんなお願いまたとない機会だし一人外出と違って仲の良い友人が近くにいる、安心して買い物も楽しめるはずだ。だからこそ普段との違いを感じた彼女はお昼を回っている今でもそのことを不思議がっていた。


「ちょっと場所を変えよっか。ここじゃなくて話しやすいところにでもさ」


☆☆☆


「そっかぁ、そんなことがあったなんてね。にしてもそのJK共、許せなくない!?」


「・・・まぁ彼女達からしたら僕のような存在は怖かったんだと思うんだよね。やっぱり自分たちよりも年上な男が女装なんかしていたんだから」


「優しいんだね、君島君は。でも、、、少しは自分の感情に素直になってもいいんだよ」


「確かにさ、キモいかもしれない。多感な年ごろの時にそういった姿をした人を見かけたらもしかしたら自分たちが襲われる危険性だってあるしね。よくTVに流れる変質者みたいにとらえるかもしれからさ」


「けれど、それは心が汚れている人。邪な感情を抱いている人がやることだと思っている。君島君はそんなことしないでしょ?一つの趣味でもあるしライフスタイルなんだから思い悩まないでいなよ」


彼女からの励ましは、至極真っ当な言葉であった。人それぞれという世の中で僕自身の異性装をライフスタイルの一つと認識してくれている、だからこそ周りの空気に流されず貫いていることを勧めてくれて、何か心に響いたのだろう。自分の目頭が熱くなりこぼれていく。


「ちょ!こんな所で泣かないでってば~!なんか私が泣かしたみたいじゃん!!」


小さい声で「ありがとう」と呟いたけど彼女には届いたであろうか。

きっと届いてないだろうと思うが伝わってなくてもいい。ただ、何気なく語ってくれたその言葉で僕は少し吹っ切れたのだった



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