第9話 知られた内緒話

早く来た教室には人がまばらで、お昼の講義に比べて静かでいい。

眠さもあるが、1限の授業が好きなものもあって秋の履修にも必ず入れている。


「大学で、自分の女装写真をみる時間は1限ぐらいなんだよね、、、」


この前、上崎さんを家に招き入れて女装したことを思い出す。

あの日は、自分の閉じこもった殻にヒビが入ったような感じで楽しかった。ちなみに、今見ている写真は彼女とのツーショットを撮った後にとられた写真で、

『せっかく綺麗な姿なんだから色々な姿を撮ろうよ』なんて言われてポーズした写真だった。

内股や女の子座りなどで口元もアヒル口など可愛くポーズして写真を撮った。普段なら決してやらない事だろう。ただ、普段とは違う自分になったせいか気分が上がっており、彼女の悪乗りに乗っかっていた。


(今思うと結構恥ずかしかったな~///次に会った時にいじられるかな?)


彼女とは、もうすぐ中間考査が始まるらしく会えていない。彼女も三年生だ、勉強は大切だろう。自分が高校生の頃を思い出して、ふと引っかかる事があった。


(受験とか大丈夫なんだろうか・・・上崎さんのことまったく分からん)


買い物をしたりカフェに出かけたりと彼女と会う機会はかなり多いが、彼女の詳しいことは知らなかった。彼女がどこの学校なのか、将来何をやりたいのか全く分かっていない。


「今度話してくれたりするのかな・・・」


「ん?どうしたの?」


普段、この時間帯にはいないはずの人物。新田志保がそこにいた。


「え!?新田さんどうしてここに!!1限はとっていなかったはずだよね・・・」


驚いた。いったいどうしてこの時間帯にいるのだろう。彼女自身が時間を間違えることは見たことがない。だからこそ、なぜこの教室にいるのか分からなかった。


「いやー、午後の講義で必要なレポートを書きたくってさ。内容としては、もう書き終わっているのだけ少しでもいい文章が書ければいいなぁって思ってさ。パソコン室で作業してたわけよ。で、少し落ち着いて自販機で飲み物を買おうかな~って思ってたらさ、外崎くんを見かけたから声を掛けたのよ」


「な、なるほどね。出来ればもう少し早く、声を掛けてほしかったな・・・」


「あははは!ごめんごめん。なんか見てたの??見られちゃいけない系とか~?」


「学校でそんなもの見るわけないじゃん。普通にチャットを見ていた感じだよ」


『なんだ~ちょっと期待していたのに』なんて呟く新田さん。どうやら、僕の写真は見ていなかったらしい。


(良かったバレなくて…この趣味に関してはあまり知られたくない)


「・・・ねえ。今日の夜、空いてる?君島くん今日は3限までだけどさ、ご飯食べたいなって」


「あぁ。新田さんは5限で終わりだっけ。いいよ、行ける」


「ほんと!うれしい!じゃあ、終わったら一階の講堂で待ち合わせで!よろしくね!」


そうして彼女は教室から出ていく。時刻はすでに8:30 授業開始まであと30分だった。


一日の授業が終わり、彼女を待つためカフェで時間をつぶすことにした。窓側の席に座り、ぼぉーと外を眺める。街を歩く同年代の学生を見て、自分のように隠したいこと持っている人は、どれほどいるのだろうか。

僕のような個人的な問題・家族、経済的な問題・・・たくさんあるけどどうなのだろう。


「女装趣味を持っています・・・なんて言えるわけがないよ」


打ち明けて楽になりたい心情と隠し通し傷つかない選択肢で迷いが生まれる。自分自身の選択が、この先の学生生活にかなりの影響を与える可能性を秘めているからだ。

カフェオレを飲み外を眺める。ため息を一つこぼした瞬間、新田さんからメッセージが届いた。どうやら、授業は終わったらしい。

ぬるくなったカフェオレを流し込み、講堂へと向かった。


「いや~このお店の夜限定メニュー一度でもいいから食べてみたかったんだよね!超おいしいよ!」


言われた通り、授業が終わると彼女が行きたがっていたカフェに行くことにした。なにも、夜限定とされるビーフシチューを食べたかったらしく、満面の笑みでほおばっている。


「君島くんのそれは、期間限定のメニュー?」


「いや、これはお店の定番メニューだよ。アクアパッツァ、好きでさ」


互いに好きな料理を注文し、ゼミの話や互いに選択している講義についての話などたわいもない世間話が広がった。


「そういえば君島くん、最近なんかいいことあった?」


「???どういうこと?」


「いやさ、最近楽しそうに見えていてさ。言い方悪いけど前は何か考えているかわからないぐらい暗かったからさ」


(みんな気付いているんだ、、、昔の僕と今の姿を)


「そんな大きいことはないよ。ただ、気持ちが少しいい方向に切り替わっただけ」


「いやいや~!めっちゃあるじゃん!たとえば女装をしている事とかさ、、、」


手が止まる。一瞬何が起こったのかわからなかった。なぜ彼女がそのことを知っているのか?

上崎さん以外、誰も知らない。その秘密をなんで新田さんは知っている、、、?


「新田さん、、、どうしてそれを知っているの?」


「ふふふ♪いろいろと聞かせてよ、可愛い女の子に変身した経緯をさ」




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