第8話 やっと生まれたもう一人の自分


「メイクする前に大切なのはスキンケアなんだよね。まぁ、いつやっていると思うんだけど今回は丁寧にやっていこ」


本格的に化粧をするのは今回が初めてだった。彼女と会い、約束をした日から今日まで一応、スキンケアは怠らずにやってきた。だからこその女子顔負けの肌を持っているのだが、実際に肌の上から塗る場合、ケアをしているのとしていないとでは、大きな違いがあるらしい。今回は、普段使っている物と今日買った物を使用していくことにした。


「そうそう、手になじむ感じで、、、塗って。あまり擦るようにやったら肌が傷ついちゃうから優しくやってね」


(ここまでしっかりとやるほどなのかね。普段はもう少し雑にやっているんだけど)


教わっている手間、言い返したりはしないが、ここまで丁寧にやる必要もないと思っていたが、洗顔→化粧水→乳液と順を追って顔に塗っていき鏡を見ると、普段よりも顔色がいい僕の顔がそこにあった。


(え!?普段使っているやつなのに全然違う感じ・・・何がそこまで違うんだろう)


「驚いた?丁寧にやればこれぐらいは出せるんだよ。それと、今日の買い物で少し値段が張る洗顔買ったじゃない?あれのおかげかもね!」


机を見ると、そこには買ったばかりの洗顔フォームが置いてあった。新しいものを買おうと教えてもらった時にお勧めされたやつだ。

2000円ぐらいしたけど、まさかこんなにも良いものだったとは。やはり、市販の安いものよりも少し値段の張る物がいいのだろうか。


「洗顔は終わったことだし、化粧していくんだけどその前に洋服に着替えてきて」


「え、なんでですか。このまま、メイクしてもいいと思うんですけど」


「服に着くんだよ色がね。女性物服って体のラインをしっかり見せるため服とかもあるし、何よりも買ったばかりの服に色付けたくないでしょ」


確かにそうだ。一人で女装しているときはあまり気にせずに着替えていたけど、比較的高値のレディース用品はメンズ服のように替えが利かなかったりする。彼女に言われたとおりに、脱衣所まで行き服を着替えていった。


今日買った袋をさっそく開ける。中にはピンクよりも少し暗め、くすみピンクという色合いのワンピースを取り出す。全体的にシンプルなデザインで首元には黒のリボンで留められるようになっており、腰には女性特有のウエストを強調できるような細めのベルトが付いていた。


「・・・よし、着よう」


服を脱ぎ下着だけになった後、スカート側から頭を被り腕と頭を通す。着る前はきついのではないかと思っていたが、伸びる素材だったおかげか、スムーズに着ることはできた。


(確かウィッグはメイクが終わってからだったはず、、、とりあえず前髪だけは上げていこう)


ウィッグと頭に付けるウィッグネットを持ちリビングに戻る。着ている間に、彼女は使用するコスメをきれいに並べていたようだ。


「よし、さっそく塗っていこう!先ずは下地のクリームだね、コレを塗ってからファンデーション・コンシーラーで髭の部分とかを隠すって感じかな」


そう言って手の甲に下地クリームを付けて、均等に塗っていく。ある程度、塗り終わるとファンデーションで上塗りする。スポンジが顔にあたる感じが、なんともいなかった。


「今回のアイメイクなんだけどナチュラルにいこ。アイメイク自体は結構、コツが必要だし最初はうまくいかなかったりするから覚えていこうね」


そう言ってアイライナーを手に取る。果たして、上手くなっていくのだろうか。

部屋の中では、BGMで流している音楽しか音はなく目の前には真剣は表情で僕の顔にメイクする彼女がいた。


「、、、こんな感じかな!はい、鏡見て!」


手鏡を渡されて顔を見てみるとそこには、少し幼さはあるがしっかりと女性のような顔立ちがあった。目立ちすぎないアイライナーに、少しピンクかかったアイシャドウ。眉毛もダークブラウンのようで女性のような見た目に変身できた。


「す、すごい、、、これが僕なの…?」


「驚愕してくれて何よりだよ。あと残っているのはリップとチークかな。それらを塗り終わったら、ウィッグを被って完成だね!」


そこからはあまり時間はかからず、暗めの赤色のリップとピンクのリップを塗り合わせ、艶のある唇が完成。チークもメイクに合わせるような薄いピンク色に合わせていき、いよいよウィッグを被る。


「すごい・・・普通に女の子じゃん。めっちゃ可愛い・・・」


姿見に映った姿は、背丈はアレにしてもおしゃれが好きな女性のようで街に繰り出しても溶け込むことが出来そうな姿だった。


(なんか、すごい感動しているんだけど、、、これがもう一人の自分なのかもしれない)


ずっと見続けていたもう一人の姿。少し当初とは思っていたものは違うけど何故か心地が良かった。


「写真とろ!せっかくの記念撮影!」


4回もシャッターが鳴る。カメラに映った姿は、不器用なりにも女性らしい表情を見せる姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る