第7話 上がりこんだ彼女
「お邪魔しまーす。おお!これが大学生の一人暮らしの部屋なのね」
どうしてこうなった、なぜ彼女は僕の家に上がっているのか。
きっかけは前の時間に彼女と買い物をしたことにある。互いの休日が合わさったある日、僕たちは電車に乗り新宿へと遊びに来ていた。
今回は、僕の悩み相談と女装用品の購入が目的だったけど、気づけば彼女の荷物持ち状態となっており彼女が買った物が8割としたら、僕の購入した物2割ほどで当初の目的が大きく変わっていた。
僕自身、がっかりしており『いつも通りか』なんて思っていたが、彼女のほうから僕の自宅の場所を聞いてきたのだ。最寄り駅までの距離を伝え近いことを話すと彼女は僕の家に行くなんて言い出す。当然、驚いたし上げようとは思わなかった。
しかし、彼女から『せっかく買ったのにつけなきゃ意味がない』という至極当然なことを言われて、押されるがまま場所は僕の自宅になった。
「姿見ある・・・お、ちゃんと服はハンガーをかけているんだ。いいね~」
「あ、ありがとうございます。とりあえず何か飲み物出すからそこに座ってて」
初めて人の家に上がると、その人が普段どういった環境で過ごしているのかとすごく気になり、あたりを見渡す、なんてことはよくあると思う。現に今、彼女は家の中を見渡したりクローゼットを開けたりしていた。
(あまり人を招き入れないからこういった時って、何を話せばいいか分からん。しかも異性なんて経験ないし・・・!)
きっと彼女は、そういったことに対しての悩みはないのだろう。先ほどから部屋を眺め終わると、スマホを開き買った物の写真をどう奇麗に映るか、スマホを傾けて須高錯誤をしているようだった。
「はい、これ。オレンジジュースだけど。だいぶリラックスしてるね」
「まあね。友達の家でよく遊ぶし人の家に行くのも慣れた感じ。あ、ジュースありがとう」
これが陽キャというやつなのだろうか。それとも、僕自身が人とあまり接点を持たないだけなのだろうか。考えこんだら深い闇に落ちこんでしまう気がして彼女の隣に腰を掛けた。
「・・・よし、旨く写真が撮れた。それじゃあ、今度は悠馬君の番だね」
「???どういうこと?僕、写真とか取るつもりないけど。見る人いないだろうし」
「いや、違くて。あの、海人君の家に来た意味を忘れたの?買ったものを着てあわせようってことよ」
あ、そうだった。彼女を家に招きいれた事に頭がいっぱいで、本来の目的を忘れていた。今日は僕が前回と今日買った服やコスメを合わせる日だった。
「忘れてた、、、さっき話していたのにもう忘れるなんて」
そう言うとオレンジジュースを飲む上崎さんはケラケラと笑っていた。そんなに可笑しかっただろうか。そこから、ひとしきり笑い終わった後、彼女は話を進めていった。
「よし!時間ももったいないからはじめよっか。この前買ったやつを持ってきて。後は普段使っているスキンケア系もね」
「は、はい、、、今持ってきますね!」
そこから彼女に言われたとおりにスキンケア用品、前回買ったワンピースやスカートにブラウスなどをリビングに集めた。
「これだけあれば十分かな?ウィッグとかはある?あった方がいいんだけど」
「あります、これなんですけど大丈夫ですかね?」
「亜麻色のセミロングね・・・少し明るいと思うけど大丈夫だと思う。これでいこっか!」
ようやく始まる本格的な女装。もう一人の自分は、いまこれから生まれてくるのだった。
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