第21話 氷解した距離感

きっかけは単なる興味だったし女装趣味自体、興味なんてなかった。


「ねぇ、どうしてあのとき私の制服を着たの?」


「そ、それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


年末まで後数日という機関の間に過去の清算をしなければいけないのか、というほどの状態。今、僕と伊澄はスッキリと整理された姉の部屋で問い詰められていた。


「大学生だった頃さ、久しぶりに実家に帰った時に部屋の掃除をしてたんだよね。ほら、母さんとか基本は自分自身で整理整頓しなさい、って言ってたじゃん?だからある時に部屋の掃除をしていたんだよね。そしたら奇麗に畳んでいたセーラー服の違和感に気付いたんだ。これは私が畳んだやつじゃないって」


当時の記憶が思い出されてくる…

あの時、ふとした疑問を抱いていた。それはスカートってどんな感じなのかということで、18年間履いたこともない物でもあったし単純に興味が出たからだ。自分自身で購入してもいいと思っていたけど、田舎で買いに行ける店など顔見知りしかいないので断念するしかなく、ネット通販も考えていた最中、一つ思い浮かんだ。


『姉さんのセーラー服があったはず…』


卒業をしたら制服を寄付する活動があったのだが伊澄は思い出として寄付することもなく、家で取っておく選択を選んでいた。

大学生の伊澄は、地方である実家を飛び出して都会の大学へ上京、姉が部屋に入ることも帰省するぐらいで心配はいらない。あとは母親の動向を気にするぐらいだったので、簡単に作戦は遂行されていった。


「やっぱりそうなんだね、、、制服に海人ぐらいの短い髪の毛がくっついていたから、すぐに察しがついたんだ。まぁ年頃でもあったしね。でも今日久しぶりに出会って少し思ったんだ。もしかして海人って女装でもしているんじゃないかって」


「髪質も変わったし、肌とかも綺麗になった。それに女子が使うような匂いがしたんだよね。シャンプーとか変えたんでしょ、ほんと上京して私も髪の毛染めたり夜遊びを覚えたりしたけどさ、ここまで変わるなんて思いもしなかったよ」


会わない日々を長く過ごしていると、こうも変化に気づくのかと改めて実感する。いや昔のままの記憶で止まっているのか、だからこそ当時の記憶の対比で見比べているのだろう。


「色々とごめんなさい。姉さんの言う通り、女装をしてる・・・別に男が好きになったとかじゃなくて変わりたいなんて思ってさ。せっかく、上京して大学生になったわけだし、けれど何をすればいいか分からなかったから」


「その時に出会ったのが女装でメイクとか肌のケアとかもやるようになったんだ。だから、その制服を着たときはただの興味本位で・・・すみませんでした」


2人しかいない部屋で姉さんに土下座をした。許してもらおうなんて虫のいいことは考えていないけど、これが一番正しい選択だと思ったし、自分の洋服を誰かが勝手に着るなんて下手したら心的ダメージが残る案件だ。しかもそれを弟がやっているのだから尚更だろう。

数分間も沈黙が続き、堪えていたのであろう笑い声が聞こえ頭を上げる。そこには優しい顔をして口に手を当てている伊澄の姿があった。その様子からして彼女が怒っているように見えなかった。


「別に気にしてないよ、本当のこと言ってくれてありがとうね…あ、そうだ!私のクローゼットにある洋服とかセーラー服あげるよ!」


「え!?ちょっと、それってどうゆう・・・」


「言葉通りの意味だって!一回洗濯だせば綺麗な状態だし着れると思う。サイズも多分入ると思うから丁度いいんじゃない?毎回買っていたらお金かかっちゃうし」


「あとさ、時間がある時にでもいいから一緒に買い物でもいこうよ。海人がこっちにきてそういうのやったことがないし」


「うん、行こう。僕も女装して洋服とか見てみたいな」


「ふふ、楽しみになってきた…!」


カミングアウトをしてからなぜかノリノリになる伊澄。

だけどそれが嬉しくて二人の間にあった縮まらない距離が少し短くなった気がした

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る