第22話 正月明け

「おぉ!これが山梨県のお土産ってわけね。ぶどうが有名なんだね~」


年が明けて1月7日、僕は上崎さんに連絡をしていつもと同じようにカフェで話をしていた。約束をした通りお土産を紙袋に入れて電車で移動、待ち合わせ場所で数十分待っていると彼女が現れた。

彼女の姿は、少し元気がないように思えたけど考えてみると今は1月。追い込みの時期であるし徹夜するほどに勉強をしていたのだろう。


「いや~連日あまり眠れなくてね、夢でも大学受験に落ちる夢を見ちゃったりして最悪なわけよ。甘いものも食べすぎちゃって肌とか体重管理とか乱れちゃったわ」


自称気味に笑ってくるもお土産に対して「ありがとうね」と話し鞄にしまう。ブドウ味のクッキーが彼女のストレス解消の何か役立てるに役立てられればなんて密かに思う。


「そういえば年末の時に電話くれたけどお姉さんにカミングアウトしちゃったんだ」


「うん、まぁ昔僕がやったことが原因だったし。謝罪を込めて全て話しちゃった」


12月31日の夜、年末の挨拶も込めて彼女に電話をした。今年、大きく変わることができたのは彼女と出会えたから。出会うことがない世界線を考えたときもあるが、きっと日々の生活を惰性で暮らしているのだろう。バイトも勉強もすべての事柄に関して退屈しながら暮らしていたのではないだろうか。


「まぁ、わだかまりが解決したのだったらよかったじゃん。きっとお姉さんも胸がすっきりしたと思うし、海人君も色々とほしいものをいただけて良かったじゃな~い?」


「ま、まぁ!もらえる物をもらえてよかったけどさ!」


こちらの意図を分かっているせいか、ニヤニヤした表情でこちらを眺めてくる。その質問のおかげで頼んだカフェオレを飲むペースが速くなる、あと数口飲んだらなくなってしまうほどに。

たしかに実家から帰る日、姉さんと一緒に東京に帰る事になり二人で着なくなった洋服を持って帰ることに。決して真実を語ることもせず「友達の妹が洋服が欲しい」と話してほとんどの洋服を持って帰ることに。ワンピースやスカート、着なくなった下着類や学生服まで・・・持って帰るときに「誰かにばれたらどうしよう」なんて思いつつ自宅に持って帰ることになった。


「ほんと彼女なんかできたら浮気を疑われるぐらいレパートリーが増えたよね~学生服か、それじゃあ今度制服デートでもしちゃう?楽しみ方が増えたよね~」


「制服デート・・・って!完璧にコスプレじゃないですか!恥ずかしいですよ・・・」


「イヤイヤ、普段から女装とか男性モードでコスメをじろじろと眺めているんだし今更感があると思うんだけど・・・って冗談冗談。そんな驚いた顔をしないでよ」


(心臓に悪い・・・でも確かにその通りかもしれないのかな)


自分にとって当たり前の生活になったものの未だにそれを嫌悪する人は存在する。女性しかいない場所に男がいるという状況が嫌というものだ、男性が怖いからコスメ専門店などで買い物をしていたのに・・・

大体が他のお客さんに興味がない。それは理解しているけれど、思いやる心は忘れてはいけない。まだ「自分たちの存在は、浮いてしまう」ということを


「まあ、そこは色々と調整しておくよ。制服デート楽しみにしている。てか、その前に神崎さんが大学に合格しないと楽しむことができないよ。現状、どんな感じなの?

?順調?」


その言葉を聞いた時、一瞬の間が開いた。何か触れてほしくないものがあったのだろうか。彼女は落ち着いた後、こちらに心配をかけないように「大丈夫、順調だよ」とだけ話した。

夕方になり、駅まで送ったあと電車に乗り外を眺める。僕は彼女の悩みがチラチラと光る街並みに転がっていないもんかと見つめていた。


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