第18話 クリスマス空いてますか?
12月になっても街の雰囲気はあまり変わる事はない。変わるとしたらクリスマスまで残り5日間とか、年末ぐらいだろうか。12月の頭の時期なんて普段の日常と対して変わりはない。
僕たちが今日来ているいつものカフェも、中の装飾から店内BGMまで、普段と同じだった。
「単刀直入に聞くけどクリスマスって空いてる?」
神妙な顔持ちで何を言われるのかと思ったら盛大な落差のある質問。お笑い芸人ならその場で倒れるボケでも入れているぐらいだろう。しかし、何故彼女が僕にその話を持ちかけてきたのかよくわからない。彼女のことだから、きっと予定も入埋まっていて楽しい聖夜を過ごすのかなぁと思っていたのにこうして少し困り顔を作って相談をされるとは思ってもいなかった。
「今のところ空いてますよ。バイトいれるぐらいですかね、当日予定もないんで」
あまり人に話したくない真実だが彼女なら別に言ってもいい気がして普段と同じ口調で話す。
「そ、そうなんだ。相変わらず暇しているんだね…それならさ!」
彼女はテーブルから身を乗り出す勢いで話を始める、かつてここまで熱い上崎さんを見た事はなかっただろう。
「一緒にクリスマスを過ごしてくれないかな!」
「へぇ?」
それから彼女から説明を受けてことの経緯を知る。まず、元々は学校の友達と24日の予定はあったらしい。しかし、突然の模試なり願書なりで急に友達との約束はドタキャン。悪く言うつもりもなく、しょうがない他の人を探そうと思ったものの自分のプライドが邪魔してか、話しかけられずにいた。
家族の方も娘がいないと思っていたもので自分を除いたメンバーでご飯を食べに行くとの事で自分だけ1人寂しく聖夜を過ごすことになってしまうことを恐れたのか、トーク画面で見かけた僕に連絡をかけてきたらしい。
「僕に話が来た経緯はあまりいいものじゃないけど、とりあえずお疲れ様」
「そこは本当にごめん、キャンセルが重なり合っちゃってさ。海人くんしかいなくて…」
言葉が詰まったせいか頼んだ飲み物に手を伸ばす。女性は表情の変化が豊かでその場その場で使い分けるのが上手い。だからこそ、これは僕を騙しているのではないかなんて意地の悪い事を頭の片隅に浮かんでしまうことにため息が出そうになるが、今回の様子を見るに彼女はかなり困っているようだ。
(今までお世話になっていたしな…)
断ることなんてない、いや断れない。そう直感が僕を動かした。
「いいよ、予定空けとくね。」
「え、本当にいいの!?」
「だって、ずっーとお世話になっていたしさ。これくらいお礼させてよ」
上崎さんの顔が、明るくなる。僕は結構、この表情が好きで大人びて澄ましていることが多いけど実は、高校生特有の澄んだ笑顔を出せるのが好きだった。
「それじゃあ、場所なんだけど海人君の家でもいい?食べ物とかは私が買ってくるからさ。部屋だけ綺麗にしてくれればいいよ!」
「ほんと?それじゃあお願いね、僕も少し部屋の掃除しておくよ」
ありがとうー!なんて言いながら、買った飲み物を一気に飲み干す。
「楽しみだなぁ〜」なんて言いながらスマホに打ち込んでいる、きっとカレンダーに予定を打ち込んでいるのだろう。
(さてと、クリスマスまで日にちはあるし部屋でも綺麗にしておきますか)
いらないものは捨てよう、紙皿やコップなんかも新しく買ってもいいかもしれない。ちょっとした、リア充になれたような気がして背中がむず痒くなるが、少し変わった気がした今に口元が緩んだ。
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