第19話 メリークリスマス!
12月24日 クリスマスイブ
この日は街を歩けば、カップルに集団に固まっている同性同士で溢れていた。
そしてその明るく楽しそうな人たちの影で働くサラリーマンやケーキを売りまくろうと声を掛けているコンビニ店員に予約処理の追われているフライドチキンの店員さんも今のクリスマスイブを過ごしている。
そんな日の中で、僕はもはや恒例の待ち合わせ場所となっているカフェで上崎佳澄を待っていた。
(思ってたけど皆んな待ち合わせで使っているんだな)
店内は男女1人のお客を見かけるものの先ほど眺めているのはスマホで服装からしても待ち合わせしているに違いなかった。普段よく見る服装と比べても、こ綺麗になっているためそれがよく分かるようになった。
「あ、お待たせ〜ごめんね!少し待たせちゃった」
「お疲れ様、今さっき来たことろだからそんなに待ってないですよ」
待ち合わせに到着した彼女は良い意味で女子高生には思えなかった。
白色を基調としたニットワンピースに黒目が濃いタイツ、靴は少し高めのヒールを履いているのだろう。
目線は僕と同じくらいで元々良かったスタイルはなおのこと綺麗に見えた。
「とりあえず、ご飯系はお家に着いてから配達してもらう感じでいいかな?お金は私が持つし」
「ん、上崎さんがいいならそうしよう」
突然の来訪になったわけで彼女なりのお礼なのだろう、ここは素直に甘えて僕の家に向かうことにした。
⭐︎⭐︎⭐︎
「お邪魔しまーす。んー、やっぱり海人くんの部屋って綺麗だよね。普段から掃除してるの?」
「週に2回はやってるよ。それでも、汚くなるけどね」
1kという広いとは言えない部屋だが、あまり物を買わないミニマリストに分類される僕としては部屋が綺麗なのは当たり前な気持ちがあり、さらに今回は前もって上崎さんが部屋に来ることも重なり普段より綺麗に掃除をしていった。
「とりあえず、手を洗ってきて。その間にグラスとか出すからさ」
「ん、りょーかい」
皿やコップを用意して彼女が先程頼んだ商品を待つ。ピザにチキンなどこの時期定番の物をいくつか頼んでいた。
正直、2人で食べられる気はしない。
(もし残ったりしたら明日以降の朝飯やらに回そう。節約だ)
言い方は悪いがタダ飯でもある。その恩義には甘えておきたい。
「海人くんって結構、お洒落な食器持ってたんだね〜この前来た時とかは見かけなかったのに。新しく買ったの?」
「前回は僕の女装を手伝ってくれたじゃないですか。だから出す機会無くて」
「確かに、そういえば今日は女装しないの?」
彼女は僕の姿を見てふと疑問を投げかける。僕と彼女の共通したものといえば女装だ、今の僕の格好は冬用の黒いダウンにジーンズとニットという出立ちで、可愛らしさとは間反対の格好だった。
「あ、そういえば。どうしたら良いですかね….?」
「女装して!また可愛くなろうよ!今日はクリスマスなんだから!」
理由としてはあまり理解出来ないが、この前買った洋服を着たかった事を思い出す。ちょうど良い機会だと思い、ピンク色の紙袋とコスメが入ったメイクポーチを持って洗面所に向かった。
くすみピンクのワンピースのボタンを開けて腰を入れ上に上げた後、腕を通す。男なら絶対に着ない膝上程度のスカートにフワフワとした裾フリル、袖にも黒色のフリルが付いており、これを着ているとちょっとした女の子の気持ちになれる。
セットで買ったニーソックスも履く。ピンク色が黒色のおかげで甘過ぎる感じも抑えて、バランスよい見た目だ。
(さすがに気合い入れすぎかな…でも、着てみたかったものだしな)
彼女とは長い付き合いだ、今更引かれることなどないだろう。
僕は女装を始めてから、改めて他人からの目線を考えたことがある。それに対しての答えは「どうでもいい」という事だった。街中で、髭面の筋骨隆々なおっさんがセーラー服を着ていたとする、皆んなはその時は凝視して「なんだアレ…」など、不快的で嘲笑するような視線を向けるだろう。
けれど本格的な女装をしているのであれば無駄は剃るしダイエットだってする。服装やコスメにも気をつけてウィッグだって枝毛がない自然な物を選ぶ。多少は男性の骨格なのだから不自然を感じるだろう、けれど翌日までその事を人は覚えているだろうか?
夜見かけた「女性としては少し不自然な人」など今朝見た夢と共に消えて無くなる。その程度だと気づいたのだ。他人は案外、無関心なのだと。
そう考えると、今こうして向き合ってくれる人というのは有難いし受けて入れてくれる。そんな彼女に対して、僕は女装姿を曝け出すことができるのだ。
「お、お待たせ…着替えてきたよ」
「んー……ん?おお!!ちょー可愛いじゃん!なにそれ、新しく買ったの?」
怒涛の質問責め。たしかに彼女と初めて女装した時はカジュアルな服装だったけど今はロリータ系のガーリーな服。素材も大型展開しているお店ではなくて、しっかりと作られているからこそ彼女は目を惹かれたのだ。
「知らぬ間にこんな可愛い洋服を買っていたとは…」
「ははは…まぁ、偶々ネットサーフィンしてたら見つけた感じだよ」
「店舗で購入したの?それとも通販」
「店舗で買ったよ。新宿にあるお店でね、店員さんも優しかった」
「そっかー」と考え込む、きっと彼女自身も見たかったはずだ。だからこそ次に来る言葉は想像できる
「じゃあ今度、一緒に見にいこうよ!私もそのお店行ってみたいし!」
「…うん、一緒に行って上崎さんもお揃いで着ようよ」
「あー、それは‥.考えとくね」
そんなやりとりをして笑っていると、玄関のチャイムが鳴る。きっと頼んでいた宅配の食事が届いたのだろう、互いにお腹が減っていた。
「はーい、行きますよ〜。あ、その前にさ」
「ん?どうしたの?」
「メリークリスマス!今日は一緒にいてくれてありがとうね!」
そう言って彼女は玄関まで向かっていった。
彼氏彼女と一緒のクリスマスじゃなくてもいい。
こういった関係性の聖夜も悪くないとTVに映るクリスマスソングをみてそう思った
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