第16話 好きなものはかごの中へ~

今でも女性用品を購入するときは緊張する。

心臓はバクバクするし冷や汗も出て最高に緊張する瞬間だ。今では、買いなれたおかげか胸の動機は収まりつつある。レジに持っていけば『プレゼント用で』なんて言えば、気持ちも少し楽になる。


そして、男性のお客さんや従業員がいるタイミングで持っていけば尚更負担は減る、そうやって今まで乗り越えてきたが今回は、始めて一人でコスメを買った時のように緊張している。


「時間帯をずらしてきたけど、やっぱり緊張するわ、、、」


昨日見ていたお店は、駅ビルに入っているお店ではなく新宿駅から少し歩いたところにお店はあった。ビルの二階に展開されており、外からでは見れないようになっているが店の名前はピンクの文字でハッキリと書かれており、店の存在感を表している


「Fancy dream…なんかいかがわしいお店に来たみたいだ」


地図を見返すも場所自体はあっている、どうやらここで間違いないらしい。僕は階段をのぼり二階目指した。着くとそこにはピンクの文字で書かれた立てかけの看板がありそこには


『ようこそ!いらっしゃいました!是非とも可愛いが詰まったお洋服を見ていってください!!』


なんて書かれており文字のシルエット的に書いた人は女性だろうと思う特徴がある。数分を置き、お店の雰囲気に少し躊躇しながらも扉を開けた。


「いっらしゃいませ~!あ、来店のご予約をされていた君島様でしょうか?」


「あ、はい。そうです」


店員さんは僕より少し歳が上だろうか、小柄な黒のワンピースを着た女性の店員さんがやってきた。着ている服装はお店で売っている物だろうかロリィタ系に感じられる。


「メールでお伺いしましたけど、お客様がご試着されるということでよろしんですよね?」


「あ、はい!あの来てからこうゆうことを言うのもアレですけど、男性の客でも大丈夫なんですか?」


一番の懸念はそこだった。もしかしたら試着はNGかもしれない、女性客をターゲットにしているお店で男である僕が試着したら売り上げにもかかわのではないだろうか、と悶々と考え込んでいたが店員さんの答えは意外なものだった。


「別にそこまで心配されなくても大丈夫ですよ~。基本こういったお店にくるお客様って女性の方でも若い人もしくは少し変わったタイプですし。男性のお客様単体だとまず来ないじゃないですか。男性が来店すると、買うことが目的で来られる人が多いんで何回も試着されずに終わったりするんですよ~」


「だから安心してください!」と言い、店内を案内される。まるで対応に慣れているかのようで各洋服のサイズやトレンド、人気商品を説明された。


(上崎さんの言った通りかもしれない、女装って市民権をとっくに持っているんだな・・・)


「お客様的に好きな色合いとかありますか?うちで人気なのがピンクと黒、あとは水色とかは人気の商品ですね~」


「どの色合いも好きですけど、僕はピンクが一番好きですね。可愛らしいのが大好きなので」


「なるほど、、、少々お待ちください~!」


何か閃いたのか奥の方に戻っていく。僕は彼女が戻ってくるまでの間、店内をもう一度見渡してみた。

ピンクでフリルが多いワンピースにスカート、黒色だがしっかりと胸にはくすみピンクのリボンがついているもの。ソックスやピンク色の光沢を放っているローファーまで揃っている。


(来る前までは怪しすぎて、行くか迷っていたけど多分一日中過ごせそうかも・・・)


「お客様~お待たせしました!ピンク系のお洋服をお探しとのことだったので、体格的に着れそうな物をお持ちしました」


そう言って店員さんは、少し大きめな紙袋をこちらに渡してきて奥の試着室へ誘導した。


「色々と組み合わせとかを考えてしまっていたら時間を使ってしまって、、、多分お客様好みを一式そろえて見たので、ぜひ着てみてくださいね!」


そう言って試着室のカーテンが閉められた。なぜ、あんなにもノリノリだったのかよくわからないが中身が気になり早速着てみることに。

袋から取り出すと、そこには膝上のまでのくすみピンクワンピースが入っていた。襟を占めるボタンには黒のリボンが結ばれており、全体的な可愛さを締めるように思える。そして合わせるかのような黒のソックスで太ももの部分は白色のフリルがついており可愛さにぬけがない。

靴も先ほど見ていたのと同じようなピンク色のローファーに肩掛けの小ぶりな黒バック・・・


(うわぁ・・・凄い。ホントに僕の好きなものしか揃っていない。少し話をしただけでここまでわかるなんて)


見る前は着ようか迷っていたけど、答えはすぐに決まった。僕は紙袋を丁寧にかごの中に入れて、着てきた上着を脱いでいった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ご利用ありがとうございました~、お洋服お似合いでしたよ!」


「いえいえ、こちらこそありがとうございました。色々とお話させてもらって」


結局、用意してくれた洋服一式と数点を買い物かごに入れて購入。金額として4万円ほど消えていったけど、気持ち的にあまり痛くない出費に感じた


「あの!また来ますね、、、今度は女の子らしい姿で」


「はい!是非いらしてください!お待ちしています!」


(来てよかった、新田さんにも何かお礼しないとな。また女装してって言われたら大変だけど)


その後、帰りの電車であからさまに女性用と分かる紙袋をどう隠して持ち帰るかを悩んだお話はまたどこかで。。。。

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