第14話 悩み悩んだ答え
人と久しぶりに会うと何を話した方がいいかわからなくなる。本当は話すネタなんてたくさんあるのだろうけど、いつの間にか互いに距離を取った関係性だと気まずい雰囲気のほうが勝って今みたいに会話に発展しないでいる。
そして今まさに、その状態で10分ほど沈黙が流れていた。
「あのさ、、、、久しぶりに会ったんだから話すことないの?」
「正直、話したいことはたくさんあったんだけど、いざ、会ってみたら忘れちゃって・・・元気そうで良かったよ」
「なにそれ(笑)付き合っていた元カレみたいなセリフじゃん(笑)」
頑張ってひねり出した言葉に思わず、彼女は噴き出して笑った。久しぶりに見た笑顔にこちらも緊張がほどけていく。それがきっかけになったのかおかげか、ここ最近に起きた出来事を互いに話していった。彼女の方は受験勉強に関することがほとんどで
「志望校に受かるかわからない・面接は何とかなりそう・塾に行くのがめんどくさい」など、受験生が抱いている悩みを話していった。
かという僕は彼女からの質問に答える形で、最近の出来事や女装についての話だけだったが、彼女は僕の話す内容に1つ1つリアクションを見せてくれて年下だとは思えない対応だった。
「そっかぁ~色々とあったんだね、、、にしてもベットまで行ったのに何もしないのは童貞力がすごいわ(笑)」
「そ、そこは笑わなくていいんじゃないかな!僕自身、結構緊張してたんだし」
「まぁ、いい経験になったんじゃない?次の機会に挽回をすればいいと思うよ。きっとチャンスはあると思うからさ」
たった一歳の歳の差。しかも、彼女は女子高生で歳下というのにその言葉を言う姿が、様になっていた。まるで、言い慣れているかのようで。
(本当に歳下なんだろうか…もしかして留年して同い年とか…!?)
馬鹿らしい事を考えてしまうが、それだけ僕から見た彼女というのは良い意味で歳不相応だった。
「そういえばどういった大学に受けようかなとか思っているの?普通の大学に行くのか、それとも専門的なところに行くのか」
少し気になったことを聞いてみる。今まで、彼女の夢というかやりたい事を聞いたことがなかった。ふとした疑問のように彼女に問いかけてみると、考え込むように黙り込んだ。
「・・・あまり思いつかないんだよね、それが。自分が一番なにがやりたいのかなんて思いつかなくて…海人くんはなんで大学生になったの?」
(僕もつまずいたことのある悩みだ・・・)
返答ができず黙り込む。自分自身も一年前に感じていた悩みが蘇る。去年の僕も自分を変えたい一心で上京する道を選んだが、何をやりたいかは最後まで思いつかなかった。
卒業して上京をすればきっといいことがあるのだろう、何か変わるのだろうなんて思っていたけど別に就職したって良かったのかもしれない。大学に行きたい理由なんて今思い返せば特になかった。
「大学とかって四年もあるじゃん?だからこそ、時間を無駄にしたくなくて。進学したいのは決まっているのだけど、それでも何がしたいのかわからないんだ」
彼女は少し困ったような顔をして僕に向ける。もう受験なんて目と鼻の先だ、進路なんて決まっていなければどこにも行けない可能性だってあるだろう
「・・・僕自身も特にやりたいことはなかったんだ。上京すればきっと変わると思っていたから。けれど、思っていたものとは違ってた。ずっと落ち込んだ生活だったんだけど、こうやった上崎さんに出会えることできたし女装にも出会えた・・・」
「だから、入ってみて何かしら出会えることってあると思うんだ。どこに入るかを考えてもいいと思うけど、入った場所で見つける選択もあると思う」
もし、就職なんてしたら彼女や女装とは出会えなかったかもしれない。今の大学に入って悩み悩んで見つけようと努力していったおかげなのだ。そういった感謝も含めて思っていたことを彼女に話していった。
顔を上げて様子をうかがう。ポカンとした表情が、いつの間にか柔らかい笑顔を作っていた。
「なにそれ、アドバイスになってる?・・・でも、そうった考えもありなのかもね」
「うん・・・僕はそうやって見つけることができたから」
「よーし、それじゃあ海人くんのことを信じて頑張るとしますか!あ、せっかくだから何か奢ってよ、お腹すいちゃってさ!」
悩みが晴れた彼女の顔は明るく、僕が憧れていた表情をしていた
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