第5話 変わり始めた日々
夢を見ていた。大学に進学する前の記憶、高校生の記憶だろうか。
いつも暇すぎる毎日を送り退屈な学生生活。自分の居場所がなかった訳ではないが、何処か居心地が悪かった。周りの友人たちは、楽しそうに青春を謳歌しているように見えて羨ましかった。それに比べて自分は、心其処にあらずな状態で宙ぶらりんな状態で境界線を引き距離を取っていた。
9:00 prrrrrrrrrr…
「目覚めが悪いわ・・・」
時折、昔の思い出を思い出すことは、皆あると思うが、僕の場合は寝ている夢で見ることが多い。出てくるときは大抵、疲れている時だけなのだが女装という趣味を手に入れてからは見ることは少なくなってきた。
(ここ最近は見たことなかったけど、何かの暗示なのかな)
夢は、見る内容によって将来起きることの暗示や自分の精神状態に関する内容だったりする。昔の記憶、特に学生の時の夢なんてのは警告夢に分類される。ちなみに学年別に意味は違っており、高校生の頃の夢を見るというのは、「自分の楽しかった時代への渇望」らしい。スマホで夢占いを調べ意味を見たら笑えてしまった。
「楽しかった思い出なんてあるわけないだろ・・・」
夢の内容なんて忘れよう。今日もやることは沢山ある。まず、大学に行き夕方まで講義を受ける。終わったらバイト先の本屋に直行して、上崎さんと買い物したときに買った洋服を合わせる。もちろん、メイクの練習も忘れてはいけない。
だいぶ充実した生活、高校生の時と比べてだいぶ日々の生活が楽しくなってきた。あの時(高校生の頃)への渇望なんてないだろう、そんなことを思いながら家を出た。
「外崎くん。この前の課題やってきた?ほら、ゼミで出てた課題のことなんだけど」
「あぁ、レポートのことでしょ?この前終わったよ、先生がこの前の授業で説明した心理学の話のことを書いたかな」
大学の昼休み。僕は食堂でたまたま会ったゼミメンバーでもある新田志保(しほ)と食事をしており、課題について話し合っていた。
彼女は数少ない大学内で話し合える女友達の一人で、茶色のロングヘアでおしゃべりではないが、人当たりのよい話し方で気さくな彼女。自分のスタイルを気にしているせいかワンピースを着ていることが多く、ゆったりという言葉が似合っている。
「そっかぁ~、私も先生の内容で書いちゃった!かぶってないといいね笑」
「そうだね、もしかぶっていたら怪しまれるかもしれないもんね」
あまり異性と話さない僕であるが、彼女はとても話やすく、こちらも思っていることを話せる。同じ授業をとってはいないため頻度は少ないのだが会えば必ず話していた。
(先日はゼミがなかったし、一週間ぶりかな。それまで間、異性と話したのが上崎さんだけとは、自分のコミュ障は改善されていない気がする・・・)
「どうしたの??何か考え事でもしてた?」
「ん?いや、別に何でもないよ。ちょっとぼぉーっとしていただけ」
「そっかぁ!ならよかった…そういえば話変わるけど外崎くんってなんか垢抜けたよね。前まではなんか暗いというか、雰囲気というか少しアレな感じだったんだけど」
「そ、そうかなぁ?多分、大学生活に慣れてきたんだと思うよ」
「んー、なんだろう瘦せたのかな、あとは肌が前よりもきれいな感じがする。唇も前より艶がある感じだし…もしかしたら、外崎くん女装なんてしたら似合うかもね!」
「!?」
冗談だけどさ!なんて笑いながら話すが、隠している女装趣味がバレてしまうのではないか、と鼓動が止まらなくなる。
上崎さんとの秘密、これはほかの誰にも話していない。もしばれたら何か終わってしまうのではないか、と感じてしまうからだ。その後、お昼が終わるチャイムが鳴り彼女とも別れた。
(ヤバい、バレるかもしれなかった・・・みんな気付いているのかな?)
今まで何も気づいていなかったが、もしかしたらバレているのではないかって思えてしまう。劇的なビフォーアフターは誰しも気付く。そんな自分自身に起きている変化にやっと気づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます