フェアリーテイルの収集法

 翌朝。呪い避けの小屋に報告に行けば、魔法医は「やっぱり」という顔をしていた。

 学生たちは納得してない顔をしていたが。


「妖精がいるってわかっている場所で、むやみに薄着の人に声をかけるべきものじゃありません。この手の話は普通に子守話として語られている内容です」


 アルマは暗に「常識知らず」と罵っているのだが、彼らはわかってない様子だった。


「だが、わからないだろ。だって……あんなに可愛かったのに! それが人間じゃないなんてさ……」

「とにかく。人に声をかけるのをどうこうは人の趣味趣向ですのでこれ以上はなにも言えませんが、せめて妖精がいるってわかっている場所ではむやみな声かけはお控え願えますか?」


 これまたアルマは「後はもう知らん。次妖精に燃やされても助けないから」と暗に言っているのだが、彼らはそれぞれ顔を見合わせるばかりだった。


「せっかくの旅行だったのにな」


 それで終わってしまったのに、アルマは小屋を出てから、それはもう、ルーサーが心配になるほど怒り狂っていたので、ルーサーは慌てて彼女を宥めなければならなかった。


「アルマアルマ、もう落ち着いて。僕たちはやるべきことはやったんだしさ」

「ええ。ええ。わかってる。わかってます。フェアリーテイルもまともに理解しようとしない人たちには、これ以上なにを言っても無駄だってことくらいは!」

「僕たちみたいに、一般庶民出身だったら、知らない場合だってあるでしょ?」


 そもそもルーサーにしろアルマにしろ、オズワルドに召喚されなかったら知らなかった知識が多いが。それでもアルマは怒っている。


「だって! 彼らどう見たってどこぞの豪商の家の息子よ! ナーサリーが面倒見てる輩じゃない! それで知らないって、どうかしてると思うわ!」

「聞こえるよ、これ以上は大声で怒ることじゃないよ」

「もう!」


 さんざん怒ったあと、アルマも切り替えて、ふたりでブレックファーストを食べられる店へと出かける。

 既にオズワルドの校外学習に来ている学生たちで、どこの店も観光旅行の季節から外れていてもなお盛況のようだった。

 その中で、ひと際いい匂いを放つ店へと向かうと「アルマー」とアイヴィーが手を振っているのが見えた。


「席いる? ここちょうどふたり分は座れるけど」

「ありがとう。すぐ買ってくるから」

「ふたりとも、あの妙ちくりんな依頼終わった?」

「一応ね」


 どうもアイヴィーもジョシュアも、あの学生たちの事件の顛末をさっさと予期していたようだ。関わらないの一点張りだったのも、関わっても本人たちが悟らないとちっとも解決しないとわかっていたのだろう。

 ルーサーはそう切ない思いを抱きながらも、ブレックファーストを買いに出かける。


「すみません、ブレックファーストをふたり分。あと紅茶をふたつ」

「かしこまりました」


 トレイに乗せられて出てきたのは、こんがりと焼けたトーストが二枚、皿にはベーコンエッグにベイクドビーンズ、ブラッドプディング、マッシュルームのソテーに焼きトマトと、定番中の定番のものがこんもりと乗せられていた。

 あと紅茶をマグカップに一杯分をそれぞれもらい、元来た道に戻りはじめた。

 基本的にブレックファーストは夜までなにも食べなくてもかまわないほどにたっぷりと出される。これからフィールドワークに出かける者としてはちょうどいい量だった。


「それで、ふたりは既に物語収拾のめどが立ったの?」


 アルマはベーコンエッグを切り分け、ベーコンと卵を一緒にフォークで突き刺しながら尋ねた。それにアイヴィーは「まあね」と言いながら、既に空っぽのトレイの上で唯一中身の残っている紅茶をマグカップで飲みながら頷いた。


「割と今回は子持ちの親に聞けばすぐに収拾できるから楽だったわ」

「なるほど。ジョシュアは?」

「俺かい? まあまあだな。まあ、俺の場合は妖精に嫌われるからなあ」


 錬金術師は魔法の関係上、妖精が嫌う鉄から切り離すことはできない。妖精に嫌われて当然であり、逆に言ってしまえば妖精の物語の息づくこの地において無傷でここを後にできる人間でもあった。

 ルーサーは「そうなんですね」と言いながら、ブラッドプディングを頬張り、ふと尋ねた。


「そういえば、僕たちは今のうちになんとか逸話収拾しないといけないけど、どうすればいいの?」


 地道に人に尋ねて集めるしかないが、無作為に人に尋ね回ることもできない。そもそも昨日の騒動の原因である学生たちに尋ねたところで、彼らはミラーランドの外から来た観光客だ。ろくな情報がない。

 それにアルマはあっさりと答える。


「昨日妖精に会ってきたところでしょ。エインセルの情報を集めていけば、おのずと収拾は完了するわ」

「ああ……そっか。僕たちは妖精そのものに会ってるから……」

「ええ」


 意外とショートカットで収拾できそうなことに、心底ほっとしながら、ふたりはブレックファーストを平らげると、トレイを返して出発することにした。

 昨日の遅れを取り戻さなければいけなかった。

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