第19話 人はそう簡単に変わらない

 阿久津健志は無邪気な笑顔をカメラに向けながら言う。


「おお!本当にかけるの?」

「うん!お陰様でだいぶ安定してきているから!まあ、向こうが電話に出てくれればの話だけど」

「1000回以上かけてきたから、すぐ出るんじゃない?あ!もしかしてあの加害者たちもこのライブ見てるんじゃない?」

「どうかな。とりあえずかけてみる!」


 と、言って阿久津健志は堂々と自分の携帯を数回タッチして金剛真斗の携帯に電話をかける。すると、


「も、もしもし」

「あ!金剛さん?僕だよ!今まで電話に出られなくてごめん!」

「い、いいえ。むしろこちらこそ、すみません」

「え?金剛さん!?なんで急に敬語になっちゃてる!?」

「い、いや……それは……」

「別にいつもの調子でも全然いいよ。僕、もう気にしないから!」

「そ、そういうわけには……」

「うん?」

「それより、今のライブ……やめてくれ……あと、裁判も取り消してくれ……今、色々やばいんだ……」

「うん?なんで?」

「今、俺たちの個人情報が特定されてて……脅迫を受けてるんだ!くそ!事業も台無しになってるし!警察からは出頭要請通知書が来てるんだ……だから、やめろ!」

「うん……」


 阿久津健志は困ったようにコメカミに手を当ててはしばし考える。やがて、いいアイディアでも思いついたのか、目を見開いてからまた携帯をいじる。しばらくしたら、携帯から音声が流れてきた。


『……さん、どんな行動をするのかは君の自由だけど、それによってもたらされる被害に対して責任を負うのも君だよ。あはは』

『ふ、ふははははははははははあああ!!!阿久津くんの分際で!クズで奴隷でペットで道具の分際で!調子に乗るな!!!くそ、クソクソクソクソ!!!!あああああああああああああああああああああ!!!俺を怒らせるなんて、お前、覚悟しろ!ただじゃ済まないから!!!ああああ!全部バラしてやる!もう遅いよ。お前の過去全部バラしてやる!!!!!!!!!!!!』

『言ったでしょ?どんな行動をするのかは君の自由だと』

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 早苗ちゃんは急にドヤ顔を浮かべては、視聴者たちにサムズアップする。


「金剛さん。答えはすでに言ったよ」

「……そ、それは京介のやつが勝手に喋ってるだけだろ!くっそ!俺とはなんの関係もないんだよ!」

「それは裁判所が判断する問題だと思うんだ」

「ああああああああああああああああああ!!!!!くそ!阿久津!お前!殺してやる!くそ雑魚風情が!殺す!殺す!!!!!!!!!!!!!!!」

「あはは……金剛さん、今30万人以上の人たちが見てるから、気をつけた方がいいと思うよ」

「ん!くそ!!!!!!!!!!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 金剛真斗は発狂しながら電話を切った。切ったと言うより、携帯を投げつけたことでおそらく電源が強制的に切れたのだろう。


「すごいね!!へびりんごさん大丈夫??」

「うん!昔の僕ならビビったと思うけど、今の僕は大丈夫。ライブが終われば、早速弁護士さんのところに行くから」

「その方が良さそうね。でも、一人だとやっぱり心細いから、視聴者の方々も一緒にへびりんごさんを守ろうね!」


 早苗ちゃんが視聴者たちに探りを入れると、ものすごい反応で返してきた。


『犯罪者のくせに何偉そうに裁判を取り消せだ?図々しいにも程があるだろ!』

『全然反省してませんね。潰しましょう』

『へびりんごさんを守りましょう!』

『あの犯罪者たち、もう終わっているね』

『何キレてんだ?わけわかめw』

『あいつら完全に人生終わっているね。もしここで謝罪したら最悪の事態は免れたはずなのに』

『おそらく、今日中に記事出るんじゃないの?』


 などなど、金剛真斗らに対するものすごいバッシングが飛び交っていた。


「あ、もうそろそろこんな時間か……僕から言いたいことはこれで全部です!話を最後まで聞いてくれてありがとうございました!」

「えええええ?健志くん!もう終わらせる気?一番大事なことがまだ残っているでしょ!?」

「一番大事なこと……ん!」

「ふふっ……思い出したみたいね」

「うん……」


 急にカメラから視線を逸らして下を向く阿久津健志。そんな可愛らしい彼の反応を見た早苗ちゃんは、妖艶な表情を浮かべた。そんな思わしげな早苗ちゃんの顔を見た視聴者たちは、『まさか、あの二人って』『おいおいマジかよ……』といった、当惑したようなコメントを寄せる。


 阿久津健志は、何かを決心したように顔を上げた。それから、早苗ちゃんを抱き寄せて……


「なゆぽんちゃんと僕・へびりんごは付き合っています!!!!!!!!!」


 そう叫んで、素早くライブ放送を終了させた。


 暫くの間、二人っきりの撮影スタジオに静寂が訪れる。その沈黙を突き破るのは


「健志くん、素敵よ」

「早苗ちゃん……」

「もし、健志くんがあのクズどもと同じ人生を歩んできたら、誰も健志くんを守らなかったと思うんだ」

「……」

「でも、友梨奈ちゃんも真司くんも環奈ちゃん先生もファンの方々も、そして私も健志くんを心配して、健志くんを守りたがっている」

「僕はそんな大層な人間じゃないよ」

「ううん。健志くんは素敵な人だよ!!私が今まで会ってきた人の中で一番優しく一番魅力的で一番いい男なの!」

「……僕も早苗ちゃんのおかげで、僕の持っている価値を見直すことができた。この恩はいつか必ず返すから!」

「私だって……健志くんのおかげでyoutuber続けられてるからお互い様よ。私こそ健志くんに恩を返さないといけない立場だから!」

「ははは……じゃ、返しあっちゃおうか!」

「ふふふ……そうね、ずっと返しあっちゃおうね……健志♡」


 二人は、心ゆくまで互いの愛を確かめ合うのであった。








追記


次回で最終回です


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る