第7話 癖の強い税理士親娘と憎ったらしい部長
柿原税理士事務所
「と、言うわけで、これを申請すれば税金が格段に安くなるぞ!」
「は、はい……」
「だから健志くんは……俺の娘と結婚しないといけない!」
「い、いや……それは……」
「なんだ、その反応は!?自分の口で言うのもアレだが、明美ちゃんはマジで美人だぞ!健志くんも付き合い長いから我が娘の魅力はよく知ってるだろ?」
「それはもちろん知っていますけど、僕、彼女いますので……」
「ぬああああああああにいいいいいいいいいい!?!?!?!?!?!?!」
税理士の柿原先生は大声で叫んだ。すると、一人の綺麗な女性が急にドアを開ける。
「お父さん!どうしたの!?」
「健志くんに彼女ができたあああああああああああああ!!!!!」
「なんですとおおおおおおおおおおおおおお!?!?!?!?!?」
「……」
柿原先生の娘である柿原明美さんは手持ちの書類が落ちたことにも気づかずに、戸惑っている。親娘の様子を深刻そうな表情で眺めている阿久津健志は、いそいそと席を立って、出口めがけて足速に足を動かす。けど、何か思い出したのか、急に踵を返して、口を開く阿久津健志。
「今日は本当にありがとうございました。おかげさまで、今年はだいぶ節税できそうです!これからもよろしくお願いします!」
そう言ってから、猛スピードで柿原税理士事務所を後にした。
「今日の健志さん急に格好良くなったから、不思議に思ったけど、まさか……彼女ができてたなんて……」
「明美ちゃんよ!まだ諦めるには早い!所詮恋人だ。奪っちゃえ!」
「お、お父さん……あんた税理士でしょ……なのに奪えって……」
「男女関係に税理士もクソもない!あんないい男はそう簡単に見つからん……明美ちゃんも税理士だから、全然いけるで!今日はもう閉店じゃい。早く作戦を練ろうではないかい!」
「う、うん……」
そんな会話が交わされることも知らずに、阿久津健志は買い物をするため、デパートへと赴くのであった。
「はあ……はあ……」
息切れしながら、オフィス街を歩く阿久津健志。
「全く……本来ひとりでもできる仕事なのに、3人がかりでやってもこんなに遅れるなんて……取引先の会社から文句言われまくりだったじゃない!」
「す、すいません……」
「うう……」
「会社辞めたい……」
街を歩いていると、阿久津健志は見慣れた人の姿を発見した。それは、仕事をやめるきっかけとなった上司の神谷由美という女。30代前半にして部長という地位にありつけた恐ろしい女。
阿久津健志の頭は、会社で働いていた時の辛い記憶でいっぱいだった。
『阿久津くん、まだなの?どんくさい』
『こんなの一人でも十分できるじゃない!』
『残業代?ろくに働きもしないくせに図々しいったらありゃしないわね』
『ろくに成果も出せてないのにボーナス?首にならないだけマシだと思いなさい』
『休む?今の仕事も全然終わってないのに、本当に頭がおめでたいね!』
極めつけは、
『阿久津くんみたいな考え方だと、どこ行っても成功できないよ』
毎月残業300時間に週六日勤務。地獄を彷彿とさせる激務にやつれ果てて結局潰れてしまい、会社を辞めてしまったのだけど、今の阿久津健志は違う。
今の彼は成功した人生を歩んでいるのだ。
阿久津健志はふむと頷いてから、あの憎ったらしい神谷部長と新しく入ってきたらしい社員3人のもとへと歩く。
「神谷部長、久しぶりです!」
「へ?どなた様?……もしかして阿久津くん!?」
「はい!」
「え?この人が阿久津さん……」
「すごいイケメン……」
「会社辞めたい……」
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