第8話 復讐②−1
会社を辞めてイケメンになった阿久津健志を見て戸惑う神谷部長。だが、彼女は抜け目がない。
「あら、見ない間にだいぶ変わったね。平日なのにその格好だなんて、仕事してないのかしら?」
「いいえ。僕、働いてますよ」
「へえ、でも私服姿でしょ?バイトか何かかな?」
「……」
阿久津健志は視線を落として口をキリリと引き結んだ。自分がyoutuberだということはなるべく言わないようにしているので、思わず頭をちょっと下げてしまう阿久津健志。
そんな彼の様子を見た神谷部長は、ほくそ笑む。どうやら彼を、退職してからろくに仕事も見つからずバイトを転々としているフリーターだと捉えたらしい。
神谷部長は、広角を吊り上げて口を開く。
「阿久津くん、久しぶりに逢ったわけだし、会社に行かない?積もり話もあるし」
阿久津健志は物憂げな表情を浮かべて、神谷部長と後ろに控えている新人3人を交互に見ている。そして何かを決心したように引き締まった顔で答える。
「はい!」
というわけで、取引先からボロクソ言われた4人と阿久津健志は会社へと向かう。5人は応接室に入り、それぞれのお茶を一口飲んだ。最初に口を開いたのは神谷部長。
「田中くんは、会社で働いてないよね?」
「は、はい……」
「やっぱりね。私がいつも言ったでしょ?田中くんのような考え方だとどこ行っても成功できないって。きっとパートとかバイトをしながら生活しているんでしょうね……」
思いっきり見下す態度で問い詰めるように言う神谷部長に阿久津健志は直視できずにいる。相変わらず視線を落としていた。
「こそこそ(部長ひどくない?阿久津さんにとんでもない量の仕事を押し付けておいて)」
「こそこそ(本当……3人でやっても全然回らないほどなんだから……)」
「こそこそ(マジで会社やめたい)」
新人3人は阿久津健志と神谷部長を交互に見ながら小声で話した。
「ちょっと!なにこそこそしゃべっているの!?」
「す、すみません!」
「ごめんなさい!」
「マジで会社やめ……申し訳ありません!」
3人は座った状態でぺこぺこと頭を下げながら神谷部長に謝る。
「まあ、それはそうとして、阿久津くん。君は無責任に会社を辞めた。仕事もろくにせず、逃げたの」
「……」
「でもね、私もそこまで鬼じゃないからね。阿久津くんにはチャンスを与えてあげる」
「……」
思い詰めた表情で唇を噛み締める阿久津健志に超上から目線でまた話を続ける神谷部長。
「もう一度、ここに来て働いて。仕事を投げ出して逃げて会社に被害を与えた君の失敗を
「……給料はどんな感じなんですか?」
「給料?まあ、交渉次第であはあるけど、前と似たり寄ったりでしょ?ていうか、早速給料の話をするなんて、図々しいにも程があるわね。自分の立場わかっているの?」
「こそこそ(鬼だ)」
「こそこそ(完全に鬼だ)」
「こそこそ(辞職届、今すぐ叩きつけちゃおっかな?)」
阿久津健志は今だに思い詰めた顔をしている。何かを必死に我慢するような表情。それに引き換え、神谷部長は顔色ひとつ変えずに阿久津健志の顔を正確に捉える。
数秒間、沈黙が流れる。
この沈黙を破ったのは、
阿久津健志の笑い声だった。
「ぷっ!ぷははははははははは!!!!!……くくく……ああ、お腹痛い……」
「な、なんで笑うの!?」
「ご、ごめんなさい……僕、神谷さんがこんなに面白い方だとは思いませんでした」
「なに?!」
どうやら阿久津健志は今まで笑いを必死に堪えていたらしい。一通り落ち着くと、彼はまた話す。
「だって、僕を雇うなら、最低でも毎月○00万円以上は払ってくれないと、採算が取れません」
「は、はあ!?なに馬鹿なこと言ってるのかしら?それ、以前君がもらった年収の数倍でしょ?」
「はい。だから採算が取れません」
「気でも狂ったのかしら?」
「だって……」
そう言ってから、阿久津くんは、持ってきたカバンから、確定申告書を取り出した。そして大事なところは隠して、支払った税金が書いてあるところを神谷部長に見せつける。
「僕の一年分の所得税って、神谷さんの年収より高いんですよね……それほど僕稼いでますから、少なくとも毎月○00万円以上はもらわないと、採算が取れません。前もらった給料くらいしか払ってくれないと、ボランティア活動をした方が生産的だと思いますよ……あはは」
追記
次回を早く投稿したい気分ですねw
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