第20話 結果と初め

 あのライブからだいぶ時間が経ち、阿久津健志を取り巻く環境は大きく変わった。


 まず、今回の炎上騒ぎに便乗して、阿久津健志に誹謗中傷のコメントを書いた人がもう二人いたこと。阿久津健志の元彼女と元上司である。有馬真司は、ものすごい勢いでSNSやyoutuberなどに散らばっている阿久津健志に関するデータを収集し、環奈先生と連携を組んだ。その結果、二人が追加で訴えられて、それがあの二人なわけである。


 結局、二人は、阿久津健志に土下座をし、許しをこうた。


『健司……お願い!前科があれば、就職もできなくなって人生終わっちゃう……私たち、付き合ってた中でしょ?』


『阿久津くん……もう二度とこんなことしないから……許して……平社員になったばかりなのに……』


 二人には共通しているところがある。


 それは


 謝る立場になっても、土下座をしても、阿久津健志のことを全く理解しようとせず、自分らの醜いところをひた隠しにして、あたかも、彼がなんの罪もない自分らを迫害する悪い人であるかのように持っていこうとした点。


 もちろん、阿久津健志は示談を持ちかけてきた二人の話を聞くが早いが、心底ゴミを見るかのような表情で去った。なので、あの二人は前科持ちになってしまった。


 彼をいじめてきた四人の話をしよう。

 

 あのライブがあってから、大手新聞社などが一斉に記事を作成し、阿久津健志に関わる炎上騒ぎを取り上げた記事が数日間トップニュースになった。TVは言うに及ばず。紙媒体だろうが、ネットだろうが、阿久津健志とイジメというキーワードは、おそらくほとんどの日本人の目に入ったのではなかろうか。


 阿久津健志は優しい人なので、もちろん、チャンスを与えた。しかし、金剛真斗は


『くそ!なんで俺がこんな扱いを受けなきゃなんないんだよ!くそ!阿久津!全部お前のせいだ!!!!』


 全然反省していない。


 青山京介は


『あははははは!ペットだったくせに!思い上がるな!全部お前のせいだ!!昔みたいに奴隷みたいに俺たちに利用されれば問題はなかったのに!全部お前のせいだ!』


 まだ現実を見ていない。


 けれど、女性陣は違う反応を見せた。


 まず、金剛唯


『阿久津さん……私たちが悪かった……私たち……阿久津さんに嫉妬して…

…昔みたいにひどいこと言っちゃった……毎日毎日記者が押しかけてきたり、他のyoutuberたちが脅迫したりするんだ……だから子供もずっと家にいてるよ。けど、阿久津くんは私よりもっとひどい思いをしたよね……だから、これは当然の報いよ……真斗はまだ全然身の程弁えてないけど、これだけは言わせて。ごめんなさい』


 青山瀬奈もまた


『もう二度としません……私たちはどうなっても構わないけど、子供に被害が及ぶのは見てられないの……昔、ひどくイジメてごめんなさい。きっと阿久津くんは昔から辛い思いをしたんでしょうね……本当に口は100個あってもいいわけできないわ……ごめんなさい……もちろん、こんな謝罪じゃ阿久津さんは納得しないんでしょうね。だから、どんな裁きでも受けるわ……でも、子供だけは……』


 やっぱり守るべき存在ができると、人は成長するものだ。男二人と違って、金剛唯と青山瀬奈は、心のこもった謝罪をした。 


 結論からいうと、金剛唯と、青山瀬奈は自分らの夫と比べてそんなに積極的に犯罪に加担した訳ではないので、執行猶予付きの有罪判決。金剛真斗と青山京介は、手口があまりにも悪質だったこともあるし、最後の最後まで自分らの過ちを認めなかったので、有罪判決を言い渡され、刑務所で服役中である。


 この一連の事件を見た早苗ちゃんの両親はyoutuberに対する認識を改め、阿久津健志との恋愛もyoutuberを続けるのも許可してくれた。

 

 日本全土を震撼しんかんさせたこの事件のおかげて、早苗ちゃんのyoutubeチャンネルのチャンネル登録者数は200万人を超え、阿久津健志の運営するへびりんごチャンネルは150万をとっくに超えて久しい。

 

 そんな阿久津健志は、相変わらずいつもの編集室でスクリプトを書いている。けれど、いつもと違うところがあるとすると


「阿久津さん!ここと、こことここ、間違ってますよ!あ、友梨奈、私にその書類ちょうだい」

「は、はい!桐生さん!」


 桐生渚きりゅうなぎさ。阿久津健志が以前勤めてた会社を辞めた三人のうち一人(会社やめたいと口癖のように言った女性)である。残業代を会社に請求する件がきっかけで、しばしば連絡を取り合う仲になり、しっかりしている子だったので、そのまま雇ってこの編集室で働いている。


「健志!エンコーディング終わったから、最終チェックお願い!」

「おお、真司、めっちゃ早いじゃん!」

「そりゃ、急にチャンネル登録者数が150万超えたから張り切るっしょ!」

「あはは……ありがとう!」

「俺、次の動画作るから、ノートパソコンで確認してくれ」

「うん!」


 へびりんごチャンネルの一本の動画の平均再生回数は200万回。講演会の依頼や、書籍出版、他のyoutuber達とのコラボやTV出演など、彼は以前にもまして多忙である。


「健志さん忙しいですね」

「ですね。私の彼氏ですから」

「……」


 税理士の明美先生と早苗ちゃんがソファーに座ったままお茶を飲んでいる。


「明美先生はなんで私のダーリンのところに来ましたか?ひひ」

「そ、それは……たまたま顧問先企業がここと近かったからですよ!」

「本当にそれだけ?」

「……」

「気持ちは隠しちゃダメですよ。それに、私と健志くん、別に結婚している訳ではないので、奪うのも先生の自由です」

「ん!早苗さん……そんなこと……」

「でも、私、絶対奪われない自信あるから。ひひひ」

「……」


 二人は顔を赤く染めて、一生懸命働いている阿久津健志の姿を見る。


「阿久津さん、こことここ表現ちょっと不自然だから、直しておきました」

「う、うん!……やっぱりすごいね。こんな短時間で……」

「まあ、あんなブラック会社なんかに時間割くより阿久津さんと一緒にいた方がより生産的でいいですから」

「き、桐生さん……近い!胸当たってるし!」

「へへへ。当ててるんですよ」


 桐生渚が阿久津健志を誘惑するところを見た早苗ちゃんと明美先生は、目を見開いて、お互いを見つめる。


「どうやら敵、増えたみたいですね、先生」

「そうね。二人で争っている暇なんかないわ」


 と、闘志を燃やしながら、握手する二人。


「ねえしんちゃん……私全然仕事できてないよ……うう……新しく入った桐生さんめっちゃ仕事うまいし」

「よちよち、ゆりちゃん。大丈夫だよ。ゆりちゃんもちゃんと役に立っているから!あと、ゆりちゃんは健志のかわいい妹だから、この編集室の永久欠番だよ!」

「うう、しんちゃん!」

「お、おい!健志が見てるぞ……こんな大胆なスキンシップは、誰もいない時に……」


 と、言いつつ、阿久津健志の方に顔を向ける有馬真司。が、阿久津健志は明るい表情でサムズアップする。


「あはは……健志、気づいているんだね」


 と、有馬真司が微苦笑混じりに言った。


 今まで阿久津健志は辛い人生を歩んできた。虐められたり、都合よく利用されたり、ブラック会社で使い潰されたりと。だが、今の阿久津健志は、チャンネル登録者数150万超えのイケメン解説者。


 大手雑誌やTV、大学など、彼を必要とする存在は数え切れず。そして、他のチャラチャラした感じのyoutuberとは違って、阿久津健志は真面目で優しい。それゆえ、良からぬ目的を持って近づいてくる人や団体も多い。だが、彼には力になってくれる心強い同僚やファンがいる。


 一つ、問題があるとすれば、


 早苗ちゃんと明美先生と桐生渚。


 一人の男をかけた血生臭い女達による争奪戦がこの場で始まろうとしていた。










 やっと終わりました。


 後味の悪い感じで終わりましたね。色々考えさせられる結末だと個人的には思います。


 4万字以上の小説を完結させるのはこれが初めてです。書き始めも大事なのですが、やっぱり、全ての伏線を回収することも大事だと思いますね。


 最初は受けそうな小説を書くんじゃなくて、「書く」という習慣を身につけるためにひたすら書こう!というノリで始めたのですが、だんだんとスキルが身につき、「もっと読んでもらえるような小説を目指そう!」となり、今に至るわけであります。


 次は青春ラブコメの長編小説を書こうと思います。


 これからも、よろしくお願いします!


 最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!


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会社を辞めて解説系ユーチューバーを始めて大成功したら、なぜか女たちが誘惑してくるんだが なるとし @narutoshi

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