第18話 大炎上!!!!!

カミングアウト当日


 広いマンションの中のある部屋で二人の男女がスマホのカメラに向かっていろんなポーズを取っている。


「なんだか照れちゃうな……」

「いいって!今のうちに慣れたほうがいいよ!」

 

 早苗ちゃんは基本親からyoutuberをやることを反対されているので、マンションを借りて、そこを撮影スタジオとして使っている。阿久津健志はこれまで数回かここに寄って、撮影を手伝ったたりイチャイチャしたりしたけど、なゆぽんチャンネルに直接出演するのは初めてだ。しかも、カミングアウト。


 予約してあるyoutubeのタイトルを見ると、「へびりんごチャンネルについて重大なお知らせがあります」


 現在、ツイッターやyoutubeでは、この話題で持ちきり状態である。単なる歴史解説チャンネルのへびりんごなのだが、規模も大きいし、何しろ、早苗ちゃんが突っ込んできたから、炎上は収まらずますます拡大している。そこで今日のライブときた。すでに20万人ほどの視聴者たちが待機中である。


「健司くん、準備はいい?」

「う、うん!僕、変じゃないよね?」

「真面目イケメンくんだよ!」

「ははは……」

「そろそろ時間ね!」

「おう!」


 設定時刻になり、モニターは阿久津健志と早苗ちゃんが仲良く座っている姿を映した。


「みんな!こんにちは!ライブやるのは久しぶりだけど、20万人もみてくれてありがとう!」

「……」


 あっという間に、コメントは荒れた。「隣にいる男は誰?」とか「なゆちゃんが男と一緒!?」とか、ものすごい勢いでコメント寄せられていくのをみた阿久津健志は冷や汗をかく。


「あ、やっぱり気になるよね?ふふふ。んじゃ、自己紹介をしてもらおうか!はい!」

 

 と言って早苗ちゃんは両人差し指で阿久津健志を指し示しながら言った。


「あはは……皆さんこんにちは!僕は、へびりんごと申します!今、僕のチャンネルのことで炎上騒ぎになっているけど、この場を借りて皆さんに伝えたいことがあって、出演させていただきました」


 すると、ライブチャットがまた激しく反応する。「ええ!?マジでへびりんごさん?」とか「思ってたより若くてイケメン!」とか「早苗ちゃんの交渉力すげー!」と言った、ポジティブな内容がほとんどだった。胸を撫で下ろす阿久津健志は続ける。


「最近、ネットで僕の個人情報を堂々と公開して避難したり、昔話を持ち出して、僕に誹謗中傷する人がいて、すごく辛い思いをしました」

「うんうん。私はずっと見てきたからわかる。へびりんごさん、食欲も無くなってたよね?」

「うん……でも、すごく恥ずかしい話ではありますが、あの人たちが流した情報は概ねあっています。名前も年齢も出身校も……そしてイジメを受けてきたことも……」

「へびりんごさん、辛かったよね……よちよち」


 と、唇を噛み締めている阿久津健志の頭を早苗ちゃんが優しく撫でてあげる。そんな彼女の表情を見た阿久津健志は、急に小悪魔っぽく笑った。それを見た早苗ちゃんも一緒にほくそ笑んで、手を元に戻す。


「あと、あえて名前は言いませんが、あのコメントを書いたのは、高校時代に僕をひどくいじめてきた人たちで、すでに僕のチャンネルのファンや他の方々によって、個人情報が特定されています」

「そうね、今すごくひどいことになっているんだもんね。本人たちだけでなく、子供とか親の個人情報まで出回っているんだもんね」

「ああ。というわけで、今現在、あの加害者から1000件を超える電話が来ているところです……でも、心が落ち着かなくて出ませんでした」

「1000件……もう訴えてもいいんじゃない?あ、もうしたよね?」

「うん!僕が書いた本のサイン会であの四人と偶然再会しました。あの時、彼らは僕の携帯番号を聞いてから、電話で脅しをかけながらとんでもない要求をしてきました。結局、僕はあの四人に対しては脅迫罪、恐喝罪で訴訟を起こすと決めました。後に名誉毀損きそんも入れるつもりです。今回の件は、あまりにも悪質的だから、僕がどんな脅迫を受けたのか、全部ここで公開したいと思います」


 と、悲壮感漂う面持ちで画面の向こうにある視聴者たちに話す阿久津健志。そんな自分の彼氏の姿を見て、早苗ちゃんは目尻を釣り上げて問うた。


「本当にあれ、流しちゃうの?流したら、あいつらの人生終わっちゃうよ。まあ、すでに詰んでるけど」

「裁判沙汰になるのはなるべく避けたかったけど、全部向こうが始めたことだからね」


 と、言って阿久津健志は自分の携帯を取り出し、数回いじっては、録音ファイルをカメラの前に近づける。


『もしもし?』

『よ、阿久津、早速だけど、そのチャンネル俺たちに渡せ』

『な、なに?』

『俺たちが有効活用してあげるから、よこせっつてんだよ』

『……』

『なんで黙ってんの?俺たち友達だろ?』

『いや』

『はあ?阿久津、お前今なんっつった?』

『このチャンネルは俺のものだ。なんで金剛さんらに渡さないといけないの?』

『ふ、ふああああああ!おい京介聞いた?こいつ、俺たちに楯突いてるぞ』

『なあ、阿久津くん』

『青山さん……』

『チャンネル登録者数50万人超えの人気youtuberのへびりんごが高校時代は俺たちのペットでしたってのがバレたらどうなるんだろうな』

『……』

『俺ね、丸く収めることを望んでいるの。俺と真斗はビジネスをやっているんでね。チャンネル登録者数が50万を超えるチャンネルだと、宣伝効果抜群なんだろうね。ふふふ。阿久津くんの過去がバレたくなければ早くアカウントくれよね』

『おい、阿久津、京介から聞いたよね?俺たち、あんま待てないから二日後の月曜日までにはアカウントよこせよ。あ、もちろんコンテンツはずっとあげていいぞ。俺たちの商品を宣伝するために動画は勝手にあげるからな。俺たちの動画削除したらどうなるかわかるよね?あ、ちなみに、このチャンネルはもう俺たちのものだから、広告収入が入ってくる口座番号も変更しないとな。俺たち友達だろ?』

『さっきペットって……』

『あはは!!バレましたか??おい京介、なんでペットって言ったんだよ。お前が言ったせいで友達ネタ使えなくなっただろ?』

『真斗、本人が聞いてるのにそれ言うなんて、本当ひどいやつだ』

『どの口が言ってるんだ』

『ぷ!はははははははははははは』

『あははははははははははははは』




 コメントは今まで以上に大荒れ状態。視聴者数は約30万人に達しており、みんな金剛真斗と青山京介に殺意を向けている。


「あとはこれも聞いてください」

 

 阿久津健志は真面目な表情で30万人の人たちに、次のファイルも流す。


『もしもし』

『おい、阿久津、まだアカウントもらってないんだけど?いつ送るんだよ。あまり俺たちを怒らせんな!』

『その話なんだけど……』

『は?』

『実は、二人を脅迫罪と恐喝罪で訴えたんだ。あはは……』

『はっ?』

『金剛さんと青山さんを脅迫罪と恐喝罪で訴えたんだ』

『あのさ』

『うん?』

『お前、自分の立場分かってて言ってんの?』

『立場?』

『昔散々俺たちのペットとして扱かれてきたんだろ?奴隷という烙印らくいんが押されているのに、俺たちに勝てると思ってんのか?思い上がるな!クソやろが!!!』

『おい、阿久津!何か言ってみたら!?また昔見たいにビビってんのかよ。あははは!!!ん?京介。あ、ああ。分かった』

『……』

『阿久津くん、見ない間に結構成長したね』

『……』

『でもね、阿久津くんは俺たちには勝てないよ。だから最後のチャンスを与えてあげる。今すぐ訴えを取り下げて。じゃないと、本当に取り返しのつかないことになるからさ』

『青山さん、どんな行動をするのかは君の自由だけど、それによってもたらされる被害に対して責任を負うのも君だよ。あはは』

『ふ、ふははははははははははあああ!!!阿久津くんの分際で!クズで奴隷でペットで道具の分際で!調子に乗るな!!!くそ、クソクソクソクソ!!!!あああああああああああああああああああああ!!!俺を怒らせるなんて、お前、覚悟しろ!ただじゃ済まないから!!!ああああ!全部バラしてやる!もう遅いよ。お前の過去全部バラしてやる!!!!!!!!!!!!』

『言ったでしょ?どんな行動をするのかは君の自由だと』

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』







「まあ、こんな感じですね。あはは」

「本当、クズすぎて言葉が出ないね」


 それっきり、暫しの間、沈黙がこの撮影スタジオを包み込む。けれど、ライブチャットはえらいことになっていた。


『こんなの酷すぎる』

『ぶっ殺せ!』

『犯罪者たちが何偉そうに言ってんだよ!』

『へびりんごさん可哀想すぎる……』

『へびりんごさんもっと応援したくなる!』

『これは絶対ヤフーニューストップものだな』


 と言った感じで、ものすごい数のコメントが書かれては見えなくなり、書かれては見えなくなる。コメントを書いて0.2秒ほど経てば他のコメントに埋もれてしまうくらいである。


 そして、阿久津健志は


「今は、だいぶ心が落ち着いたから、電話、かけてみようかな?」

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