第17話 自業自得

 下手をしたら自分が一生懸命頑張って作り上げた「へびりんご」という付加価値が灰燼かいじんす存続の危機に直面しているというのに、三人は余裕のある態度で笑いさざめく。


「健志くん!」

「うん?」

「携帯、確認してみて」

「携帯?」

「うん!携帯!」


 あの件以来、携帯を見るだけでも拒否反応が出ていたが、三人はドヤ顔を阿久津健志に見せて、勇気づける。


「う、うん。わかった」


 まるで、最終決戦に向かう主人公のように悲壮感漂う表情を浮かべながら、ほったらかしにしておいた自分の携帯を手に取り電源を入れる。そして表示されるものすごい数の不在着信。


「金剛さんからの不在着信が680件!?」

「かけすぎだろ。まあ、あのクズども、今頃お尻に火ついて大ピンチなんだろうね。健志、心配するな」

「でも、こんなにかけてくるなんて……」

「大丈夫。健志、これからはこっちが巻き返す番だ」


 有馬真司は、ガッツポーズをとりながら、阿久津健志に力説するが、当の本人ははてなマークを浮かべて、より詳しい説明を要求している。そんな阿久津健志の意図を察した早苗ちゃんが口を開いた。


「金剛真斗、金剛唯、青山京介、青山瀬奈。4人ともXX中学校を卒業して、OO高校に進学。昔から弱いものを虐めるのが大好きで、高校を卒業してからは、名前からでもわかるように、結婚して、それぞれ一人の子供がいるとのこと」

「え?早苗ちゃん、なんでそんなに詳しく知ってる?」

「へびりんごチャンネルは、以前からずっと私が取り上げていたチャンネルでもあるから、私がちょっと探りを入れるような動画を作ったら、あっという間に炎上しちゃって、ツイッター上であの4人の個人情報と健志くん以外の被害者を名乗る人たちの書き込みが数えきらないほど投稿されてるところだよ!」

「ま、マジか」

「みてみて!」

「う、うん」

 

 早苗ちゃんに言われて阿久津健志は緊張しながら携帯をイジる。


「ほ、本当だ!」


 ツイッターを開くと、阿久津健志と有馬真司をいじめた4人の写真、居住地、どんな仕事をやっているのか、子供はどこの保育園に通っているのか、金剛真斗と青山京介の父はどんな仕事をしているのか、昔、この二人にひどいイジメを受けていたと訴える人の書き込みなど、彼ら、彼女らの犯した罪と個人情報がネット空間を通じ白日の下に晒されていた。


「すごい……へびりんごの公式ツイッターにも物凄い数のDMが……」


 中身を確認していると、ほとんどが応援のメッセージだった。きっとあざけられて、悪口言われると思っていたのだが、「へびりんごさん頑張ってください!応援します!」とか「阿久津さん!いつも面白い動画ありがとうございます!イジメは恥ずかしいことではありません。犯罪です!堂々と振る舞ってください!」といった応援のメッセージがほとんどだった。中には大手新聞社からの取材依頼も結構あった。


 そしてこんなDMも。


『阿久津、電話出て。お願いだから電話でろ。お願い』


 阿久津健志は気になり、このDMを送ってきた人のアカウントを確認してみた。が、すでに退会したユーザだと表示される。


 おそらく、あの4人の内の一人なのだろう。顰めっ面で、このメッセージと睨めっこをしていると、いきなり電話がかかってきた。


 金剛真斗からの電話。


「お兄ちゃん……」


 友梨奈ちゃんが阿久津健志の肩に優しく手を添えながら言った。もちろん、残りの二人も、心配そうな表情で阿久津健志に視線を向ける。


 今まで散々嫌味言われても、ずっと優しく他人と接してきた。もちろん、今だってそう。人間はそうそう変わるものじゃない。そのため、彼の優しい性格を利用して私腹を肥やすけしからん相手も結構いた。大学時代にできた恋人、会社の上司、そして、自分をひどくいじめた4人。

 

 けれど、この優しい性格を持っているがため、こんな素敵な仲間もできた。そして自分はへびりんごとして生まれ変わり、輝かしい人生を歩いている。


 そんな阿久津健志は納得顔でうんうん言いながら、着信拒否ボタンを押して、携帯をしまう。


 そして


「自業自得だよね」


 笑いながらその言葉を三人に向けて言った。


「ぷふ!健志!ナイス!あいつら今頃生死を彷徨っているんだろうね。考えるだけでも、気持ちよすぎて、興奮しちゃうぜ!な!ゆりちゃん?」

「もちろんよ!本当清々しいわ!あとお兄ちゃんのそのちょっと小悪魔っぽいところ格好いいよ!」

「健志くん!よくやった!ふふ。明日が頼みしだね」

「うん!ありがとう!今は金剛さんらのことなんてどうでもいいから、ここにいるみんなと一緒に楽しみたいんだ。食欲も戻ってきたし!」

「おお!健志!よかったじゃん!今日はパーっとやろう!パーっと!」

「しんちゃん!おじさんくさい!」


 阿久津健志は優しい。けれど、その優しさを全ての人に向けるんじゃなくて、自分を大切にしてくれる人たちに向けることにしようと、密かに心の中で誓った。


 阿久津健志含む4人は、買ってきた菓子やら焼き鳥やらたこ焼きやらを広げて美味しく食べながら今後のことを話しあった。



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