第13話 意気投合する三人と来客

「な、なに?」

「俺たちが有効活用してあげるから、よこせっつてんだよ」

「……」

「なんで黙ってんの?俺たち友達だろ?」

「いや」

「はあ?阿久津、お前今なんっつった?」

「このチャンネルは俺のものだ。なんで金剛さんらに渡さないといけないの?」

「ふ、ふああああああ!おい京介聞いた?こいつ、俺たちに楯突いてるぞ」


 スピーカーモードにしているため、金剛真斗の声は友梨奈ちゃんにも、有馬真司にも漏れなく聞こえる。


「ひどい人たちだわ!」

「くそ……絶対許さん……何があってもアイツらだけは絶対許さん……」

「しんちゃん……」


 有馬真司は拳を握りしめて悔しそうに体をぶるぶると震わせている。友梨奈ちゃんは有馬真司のことが心配になったのか、彼の拳にそっと自分の両手を添え、落ち着かせる。


 しばし感じの悪い沈黙が流れる。だが、この静まり返る静寂は一人の男の声によって、破れた。


「なあ、阿久津くん」

「青山さん……」

「チャンネル登録者数50万人超えの人気youtuberのへびりんごが高校時代は俺たちのペットでしたってのがバレたらどうなるんだろうな」

「……」

「俺ね、丸く収めることを望んでいるの。俺と真斗はビジネスをやっているんでね。チャンネル登録者数が50万を超えるチャンネルだと、宣伝効果抜群なんだろうね。ふふふ。阿久津くんの過去がバレたくなければ早くアカウントくれよね」


 実に図々しい要求を突きつけてくる青山京介に編集室にいる三人は怒りを募らせている。


「おい、阿久津、京介から聞いたよね?俺たち、あんま待てないから二日後の月曜日までにはアカウントよこせよ。あ、もちろんコンテンツはずっとあげていいぞ。俺たちの商品を宣伝するために動画は勝手にあげるからな。俺たちの動画削除したらどうなるかわかるよね?あ、ちなみに、このチャンネルはもう俺たちのものだから、広告収入が入ってくる口座番号も変更しないとな。俺たち友達だろ?」

「さっきペットって……」

「あはは!!バレましたか??おい京介、なんでペットって言ったんだよ。お前が言ったせいで友達ネタ使えなくなっただろ?」

「真斗、本人が聞いてるのにそれ言うなんて、本当ひどいやつだ」

「どの口が言ってるんだ」

「ぷ!はははははははははははは」

「あははははははははははははは」


 と、金剛真斗は電話を切った。阿久津健志はヒビが入るほど強く携帯を握り閉めている。


「ひどい人たちだ」


 いつもニコニコしていてる彼の表情には怒りが宿っている。もちろん怒っているのは阿久津健志だけじゃない。


「加害者なのになんであんな言い方なの?あれは獣以外の何者でもないわ!」


 今度は友梨奈ちゃんが目を見開いて語気を強めて言ったが、有馬真司に背中をさすられて正気を取り戻す。そして有馬真司は憤怒の感情をなるべく抑えつけてから阿久津健志に話しかけた。


「健志」

「うん」

「録音、終わったよね?」

「うん」

「俺さ、ずっと思ってたんだ。加害者がいい人ぶって金を稼いで、幸せな生活を享受する世の中って正しいのかなって」

「……」

「まあ、俺ってまだ若いし、正しいのか正しくないのか、判断できるほど賢くはないけど、一つ確かなのは、戦わなければ何もかも奪われてしまうってことだよ」

「戦う……」

「そう戦う。目には目だよ。やられたからにはやり返す。俺も被害者だから、健志に協力する!」

「わ、私も!お兄ちゃんの妹だから協力する!」

「真司……友梨奈ちゃん……」


 阿久津健志は闘志に燃える二人の表情を見て、胸を撫で下ろした。それから、何かを決断したおか、ふむと頷いてから口を開く。


「わかった!」




「あれ、三人して何やってるの?」




「早苗ちゃん!?」

「なゆぽんさん!?」

「なゆぽんちゃん!?」


 意気投合している三人の前に現れたのは、チャンネル登録者数150万超えの大人気youtuberの早苗ちゃん。


「撮影終わって暇だったから遊びにきたんだけど、まずかった?」

「早苗ちゃん……」

「健志くん、どうかしたの?」


 思い詰めた表情で早苗ちゃんを見つめる阿久津健志。そんな彼を見るに見かねた友梨奈ちゃんが口を開いた。


「なゆぽんさんにも話したら?」

「え、早苗ちゃんにも?それは流石に……」

「なゆぽんさんの意見も聞いた方がいいと思う」

「ゆりちゃん……ゆりちゃんがそう思うなら俺は賛成。ここはなりふり構っていられないよ。溜め込んでいちゃ何も解決しない」

 

 話が見えてこない早苗ちゃんは小首を傾げて三人を興味深げに見つめている。


「何か悩みでもあるの?」


 阿久津健志は頬を赤くし、髪を掻く。そして自分の恋人である早苗ちゃんに話し始めた。


「早苗ちゃん、ちょっと恥ずかしい話だけど……」



……



「なるほど……健志くんと有馬さんにそんな辛い過去があったのか」

 

 早苗ちゃんは、ちょっとイラッとしながら、腕を組んで感想を言った。


「う、うん。恥ずかしながら……」


 流石に、彼女に自分の暗い過去を話したのが恥ずかしいのか、頭を下げたまま悔しそうに顔をしかめている阿久津健志。


「別に、恥ずかしがることじゃないよ。それにしても、アイツら、愚かだね」

「愚か?」

「あのクズどもはとんでもない間違いを二つも犯したわ」

「二つ?」


 意味深な言葉を吐いた早苗ちゃんに、間抜け面で聞き返す阿久津健志。だが、その問いに応える気はないらしく、柔らかい金髪を手ではらい、美しい美貌を阿久津健志に見せる早苗ちゃん。

 

「健志くん、もうすぐチャンネル開設してから2年経つよね?」

「う、うん。正確には1週間後の土曜日ね」

「んじゃ、土曜日に私のチェンネルに出演して、ちょっとしたインタビューもしつつ、カミングアウトしない?て言うか、絶対して!顔出しで」

「カミングアウト!?ち、ちなみに、な、なんのカミングアウト?」



「もちろん、健志くんと私が付き合っているっていうカミングアウト!」




「えええええええええええ!(阿久津健志)」

「ふええええええええええ!(友梨奈ちゃん)」

「おおおおおおおおおおお!(有馬真司)」

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