第5話 復讐①
こんな状況に
自分の胸を当ててくる結衣ちゃんに顔を向けることもできずに、視線を落とす阿久津健志。
結衣ちゃんはほくそ笑みながら体をもっとくっつけてくる。まるで毒牙にかけようと獲物を待っている蛇のように。
だが、阿久津健志は
「こんなの、いらないんだよね」
「え?」
そう言って結衣ちゃんの腕を振り払った。彼の見せた行動に目を見開いて動揺し出す結衣ちゃん。そんな彼女に阿久津健志は優しい顔を浮かべる。
「け、健司?」
「結衣ちゃんとここに入ってするメリットが一つもないんだよね」
「は、はあ?健司、なに言ってんの?」
「結衣ちゃんと付き合うメリットがないって言ってるよ」
結衣ちゃんは顔を引き攣らせる。すでにコメカミには血管が浮き立っており、爆発寸前のようだ。けれど、怒りを抑え込んでまた阿久津健志に話しかける。
「あら、そんなことも言えるようになって、だいぶ変わったわね。健司。大学通っていた頃は、いつも私のこと好き好きって言いながらついてきたのにね」
「うん。確かにそうだったけど、今は違うから」
「健司って、そんなに変わりやすい人だったの?違かったでしょ?それとも尻軽な男?確かに付き合ってた頃は尻軽な女は嫌いって言ってなかったけ?」
「結衣ちゃんって浮気してたよね?噂によれば、俺に内緒で付き合ってたイケメン先輩とめっちゃラブラブだったみたいじゃん。こんなところはその先輩と一緒に来ればいいと思うけどね。僕、冴えない男だから……あはは」
イケメンに変身した阿久津健志は恥ずかしそうに後ろ髪を掻く。その様子がムカつくのか、結衣ちゃんが目力を込めて、喉まで出かかった
「浮気したのは……若気の至りだったの……健司といういい男が居ながら……私、償うつもりだから……言ったでしょ?後悔しているって……」
「結衣ちゃん……」
「健志……いつも真面目だからご無沙汰だったでしょ?一緒に入って、お互い気持ちよくなろうね」
結衣ちゃんは
だが、阿久津健志はまた笑顔で
「やっぱり、結衣ちゃんってつまらないね」
「は?」
「つまらない女の子」
「んんんんん!」
結衣ちゃんの堪忍袋の緒が切れる寸前だ。だが、阿久津健志はそんなことお構いなしに、追い討ちをかける。
「言ってることとやってることが全部矛盾しているよ。全部見えちゃうから。あはは……まあ、必死になってるとこがかわいいっちゃかわいいけどね……でも方向性が間違っているから」
阿久津健志は全部見透かしていた。
「健志風情が!上から目線で言うんじゃねーよ……本当、馬鹿なんだよね、所詮あんた童貞でしょ?そんな性格しているからきっと、金づるになっていまだに童貞貫いてんだろうね。あ、もしかして風俗で捨てたとか?でも、大学生だった時は、絶対風俗には行かないって言ってたよね?だったら、むしろ矛盾した言動を見せているのはあんただよ!キモい。昔からあんたはキモかったよ!金を出してくれること以外、なんの取り柄もない人間クズが!」
毒を吐くように誹謗重傷を言う。阿久津健志は結衣ちゃんの言葉を聞き流すことなく全部聞き取った。利用されたことは知っていたが、さすがに初カノからあんことを言われると、誰だって気が滅入る。
けれど、阿久津健志はめげない。悲しむ表情を浮かべるのはほんの一瞬だけだった。
「僕、風俗に行ったことないよ」
「へえ、じゃ、童貞拗らせているね。あんたらしいね。本当、童貞臭い。あんたも勿体無いことをするね。大人しくしていれば、今頃、卒業できたのにね〜」
煽る口調、見下す態度。結衣ちゃんの顔には怒りが満ちている。けれど、この物々しい雰囲気は、ある人物によって変わってしまった。
「健志くん!」
「え、え?早苗ちゃん!なんでここに?」
「だって、健志くんがどうしても気になるから、後をつけてきたの!」
「後をつけたって……」
大人気美少女ユーチューバーこと早苗ちゃんの登場により、結衣ちゃんは戸惑う。突然現れたこともあるけど、彼女が驚いたのは、早苗ちゃんの外観。大人気ユーチューバーではあるが、男受けする早苗ちゃんのチャンネルを結衣ちゃんは知らない。つまり、結衣ちゃんには、垢抜けた阿久津健志となかなかお目にかかれないSS級美少女が話を交わしているように見えるだろう。
「ねえ、あの女は誰?健志くんにだいぶひどいこと言っていたようだけど」
早苗ちゃんは、冷め切った視線を結衣ちゃんに向けて阿久津健志に問う。
「あ、あはは……あの子はね、大学時代の彼女だよ」
「へえ、あれが結構前に健志くんが言ってくれた元カノね……へえ、私より不細工じゃん……おまけに口も悪い」
「は、はあ?」
「健志くんから聞いたよ。浮気したのに、図々しくも健志くんを振って、どっかのイケメン先輩と股開いてヤリまくって、その後も二股三股四股かけたくず女だって」
「嘘……そんな噂、広まらないように注意したのに……なんで」
「だから、言ったでしょ?結衣ちゃんのやっていることは矛盾しているって」
「ん!」
早苗ちゃんは結衣ちゃんに聞こえるように、わざとずうずうしく話す。
「それにしても良かったね!健志くん。あんなすぐ股を開くアバズレの中古物件に引っ掛からなくて」
「早苗ちゃん……言い方……」
早苗ちゃんは阿久津健志の腕を思いっきり抱きしめてまた口を開く。
「ねえ、健志くん……私としよう♡私が処女だった時健志くんすごく優しくて気持ちよくしてくれたから、今日もいっぱいやろうね……ふふ♡」
そう言いながら、早苗ちゃんはわざとらしく結衣ちゃんを横目でみる。挑発を受けた結衣ちゃんは、何も言えずに足をぶるぶる振るわせるだけだった。
「と言うわけで、結衣ちゃん、僕、童貞じゃないし、間に合ってるから、他の男探してね」
「んんんんんん!」
悔しがる結衣ちゃんに阿久津健志はさらに言う。
「あえて嬉しかったよ。でも、二度と会わないようにしようね!」
そう笑顔で言ってから、阿久津健志と早苗ちゃんはラブホテルの入り口に入ろうとする。
結衣ちゃんは佇んだまま二人の後ろ姿を見るともなくみたら二人の会話が聞こえてきた。
「ねえ、健志くん、健志くんってお金いっぱい稼いでいるから、絶対車買った方がいいよ!」
「車ね……そろそろ買った方がいいかもな」
「私、車好きだから、色々みてあげる!」
「そいつは助かるな。ていうか、早苗ちゃんの方が僕より稼ぐだろ?」
……
「くそ、くそ、くそ、くそ、クソクソクソクソ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
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