神から奪った上位能力複製 〜一時的に使える力は妹の蘇生アイテム集めに!〜
雨井 雪ノ介
第1話 パー勢力へようこそ!
「やあ! ようこそ! ”夢の力”の勢力へ。歓迎するよ!」
ぼんやりしていると、いきなり俺に声をかけてくる。
距離感はかなり近く、唐突に小柄な少女がやってきた。
年齢は、十五から十六歳ぐらいだろう。俺より少し年下の年代だ。
眠そうな目は透き通るような青色で、長いまつげをのぞかせる。
髪は光が乱反射するほど金色の輝きを放つ。
肩にかかるぐらいの長さは、よく似合っていた。
俺はたった今、”世界”についたばかり。
気持ち的には、百メートルを全力疾走で走った直後のようだ。
時間は、太陽が真上にあるのでお昼時なんだろう。
転移して、はじめて遭遇した”人”が、この少女だ。
偶然降り立った地は、どこかの町の門付近なのだろう。
背丈の数倍以上もある防壁に囲まれている姿は、圧巻だ。
様子からすると、”何か”から侵入を防いでいるように思えた。
観察しつつ、先ほどの発言に反応してしまう。
「夢の力?」
普段は、ムシすることの方が多いんだけどな……。
「そうだよ!」
明るく気さくな雰囲気は、警戒心をほぐしてくれる。
「へえ。なんか素敵だな」
俺は思わず、肯定してしまった。話がテンポよく進む。
「でしょ? 私たちの勢力はね、別名”パー勢力”。正式には、power of dream ね」
「……パー?」
自虐なのかそれとも、意味がここの世界では違うのかもしれない。
「そうだよ! これからもよろしくね!」
これから”も”とはどういうことだ? 強引な展開に、俺は疑問が過ぎる。
「”この辺りは、はじめて”で、知らないことばかりなんだけどな……」
「私に任せて! わからないことは、教えてあげるよ!」
頼もしいのはいいけど、親切すぎる気がする。
なんでそこまでしてくれるのか、確認した方が良さそうだ。
「初対面なのに、ずいぶんと親切なんだな?」
「そうかな? 私のチームに入ってくれる人なら当然だよ? お得だよ?」
あっけらかんと、勧誘を認めた。
「入っても俺の意思だけで、即時脱退できるなら考えて見るさ」
チーム加入特典での勧誘なんだろう。
合わなくてダメでも、条件を飲んでくるのなら、問題はなさそうだ。
「ほんと!? 損はさせないよー! 問題ないなら、誓約をしよう?」
「誓約?」
なんだか軽い割には、ずいぶんと必死な感じがする。
「うん。チームに入るには、必要なんだ。私が条件いうから
同意できるなら、同意と言ってね」
「その前に何をするのか、教えてくれないか?」
何をするのかわからないと、恐ろしい。
入った早々、何をさせられるのやら……。
「うん! もちろんだよ! ギルドの依頼を中心にこなして、
他は敵対勢力への紛争介入かな?」
「紛争とは、殺し合いか?」
「残念だけど、そうなっちゃうね……」
「随分、殺伐としているんだな……」
「力が三スクみで勢力争いをしている以上は、仕方ないかも……ね」
最後の”ね”は同意を求めているのか、あっけらかんとしている。
見かけによらずサバサバしているのか、世界の情勢がそうさせているのか……。
恐らくは、後者だろう。
俺はもう少し聞いておきたいと考えて、続きを話して見た。
「ギルドの依頼とは?」
「迷宮探索や資源や素材の回収、他は町の雑用とかだよ」
「わかった」
俺の目的は、先に話しておいた方がいいかもしれない。
最悪、袂をわかつこともありえる……。
「せっかくだ。俺がここにきた目的を先に、話して起きたい。ムリならいって欲しい」
「うん? 何を目的にきたの?」
「女神の雫だ。別名では、ティアドロップを探している。雫を集めるためにきた」
「ここにあると聞いたの?」
俺の言い方が悪かったようだ。
「聞いてはいない。単に立ち寄っただけだ」
「大丈夫、あるよ? 依頼を受けた後の報酬で選べるんだ。お金か雫かでね」
「そうなのか? かなりありがたい」
「うん。チームに入ると、貢献に応じてもらえる量が変わるよ? その分、
たくさん依頼こなして、ガッツリ報酬もらおう! 貢献度も上がるからお得だね」
「貢献するたびに、雫がもらえるのか……」
「うん。チームに入らないフリーだと、お金しかもらえない仕組みだよ。
”女神の雫”は、お金で買えるけど割高になっちゃう。
気をつけないと、倍はかかるよ」
思ったより、入手方法が早めにわかった。
今の話だとやればやるほど、得られる。やった分、貢献したことにもなる。
一石二鳥なら、やらない手はない。
他に、俺のような見ず知らずの怪しい奴を雇う、殊勝な心の持ち主はいないだろう。
きちんと、包み隠さず答えているのも好感がもてる。
短期だとしても、入って損はないだろう。結論は出たな……。
「わかった問題ない。誓約を進めてくれ」
この美少女は、嬉しそうにつらつらと条件を言い出した。
とてもシンプルで、何も問題はない。
一体どこに、問題なんてあるのかと疑うぐらいだ。
「……同意できますか?」
心配そうに上目遣いで聞いてくる。なんとも、あざとい!
問題はないので、気持ちを言葉にして伝えた。
「もちろん。同意する。よろしくな」
「うん! こちらこそ、よろしくお願いします! やった〜!」
万歳しながら、ウサギのように飛び跳ねている。
かなりテンションの高い舞いあがりだ。ここまで喜んでいる所を見ると、俺も嬉しくなる。
「俺は、樹瀬良。同じチームなら、名前を教えてくれると助かる」
「あっ! ごめんなさい。私はエミリー。エミリー・トワイライト。
トワイライトチームだよ。よろしくね」
「こちらこそ、よろしく……」
何となく、照れ臭い感じもした。
エミリーはさっそく案内したい所があると、俺を連れていく。
町はレンガ調の建物で統一していて、路面は石畳が敷き詰められている。
中世風の街並みといえば、いいだろうか。雰囲気は悪くない。
「ここよ! さあ入って!」
「……今いく」
案内された場所は、三階建ての煉瓦造りの建物だ。
入り口は、大人四人が並んで優に通れるほど幅がある。
中はカウンターで構成されていて、壁には大小さまざまな木や紙の札が刺さる。
ぼんやり眺めていると、手招きされるので向かう。
大柄の男と制服のような物をきた女性とエミリーが、ニコヤカに談笑している。
急に声がかかり、突然紹介を受ける。
「新しくトワイライトチームに入った人だよ! 遂に私のチームに……」
「紹介に預かりました。樹瀬良です。
まだ知らないことが多いので、お手柔らかに頼みます」
何かモノクルをかけて俺を眺める巨漢の男は、感嘆しはじめた。
人の二倍は優にありそうな腹回りと、二メートル以上はありそうな背丈。
顔は黒い綿菓子をつけたようなヒゲが、もっさりと生える。
頭には頭巾を被った状態だ。
丸太のような腕から延びた手が、俺に握手を求める。
「パー勢力の探索ギルド長補佐のダリルだ。
なかなか魔力の通りが良いな期待しているぜ!」
太く鼓膜に響く低い声の持ち主は、陽気に俺の背中をバシバシと叩く。
「私は、主にギルドでの仕事斡旋・報酬受け渡し・買取などもしています。
受付のシャナです。以後お見知り置きを」
ゆっくりと滑舌よく、耳に心地よい音が言葉として響く。
受付の女性は狐種の獣人だろうか……。
頭の上には狐のような耳があり、金に近い明るい茶色の頭髪は滑らかな艶を見せる。
紅い目を覆うまつ毛は影が見えるほど長く、上瞼の陰影が深くなり美しい。
節目がちな目をみたら恐らくは、惹き込まれてしまいそうなほどだ。
妖艶美女といっても、誰もが納得するだろう。
初対面の二人からのあまりの歓迎ぶりに、内心驚いていた。
まだ見ず知らずの赤の他人なのに皆、温かい。
何で簡単に信用しているのか、聞きたくなってしまった。
「不躾ですまない。一つ聞いていいか?」
「おう。なんでも聞いてくれ」
随分と、どっしりと構えた人だ。
「何で、簡単に信用するんだ? 俺は極悪の悪党かもしれないんだぞ?」
俺はごく当たり前のことを聞いてみた。あまりにも簡単に信用しているからだ。
聞くと、何か楽しげな物でもみたと言わんばかりで、含みを持たせた表情は語り出す。
「エミリーは、人をみる目があるからな。俺のモノクルでも問題なしときた。
他に、本物の悪党なら善人か普通の人というぜ?」
「言われればそうだな……。勉強になる」
「エミリーさんは、ずいぶんと面白い人をみつけたんですね」
受付のシャナはどこか楽しそうだ。もちろんダリルも暖かくエミリーを見守る。
二人の和やかな雰囲気と同じく、エミリーもまた穏やかに見える。
さっきの勧誘していた時の何か少し、必死な感じは何だったのかと思うほどだ。
今のところは人に恵まれて、幸先良いスタートだ。
ダリルは、ニヤリといたずらっ子のように表情を変えて話を続けた。
「よし、今から俺と手合わせだな。力の判断をしてやるよ?」
「補佐がわざわざするんなんて珍しいですね? 仕事は大丈夫ですか?」
シャナは鋭い視線で、ダリルを見た。
「ひとまず……問題ない……さ。エミリーもくるか? 樹瀬良も問題ないよな?」
「問題ない」
「うん! 私も見てみたい! 樹瀬良頑張ってー!」
なんとも気楽な応援だな。ダリルと名乗る者は、かなり戦い慣れしていそうだ。
俺は、神から奪った権能をさっそく試してみる機会が得られて、楽しみで仕方ない。
「ちょっくら、ついて来てくれ。シャナもくるか?」
「はい。行きます。ダリル補佐は好き勝手やりそうなので……」
「うはっ! 手厳しいな〜。そんじゃお前ら行くかー」
俺は、ダリルの強さにより、ある程度の基準が見えてくると思い向かった。
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