第5話 カルダ奪回作戦(2/3)
俺は、自身の体のこと以外に、いくつか理解したことがある。
一つめが、”女神の雫”で妹が蘇生できることだ。この情報は僥倖で、知った瞬間担いでいた妹を落としそうになった。
その代わり、かなりの量を集めなければならない。
必要な量は膨大で、入手手段もわからない内に焦りが募る。やり方は、ぼんやりと頭の中に浮かんでくる。本当に、こんな方法でできるのかと思うぐらい大雑把だ。
二つめは、すべてを破壊できる殲滅戦の武器だ。かなり物騒な武器で、体内に仕込まれた感覚。”銀の弾丸”と”黄金の弾丸”の名前がついている。
どちらも同じ”武器”の名前で、発射される物が違う。後者は”虹の種族”しか使えない。使い方は少し変わった方法になる。
種族としては神族・妖精族・虹族の三種族、神界領域に存在するようだ。虹ってなんだ? まさか二次元の二次を文字って虹じゃ無いよな……。俺の知識が偏るせいか、変な方向性に想像を膨らませてしまう。
困ったことに殲滅戦武器を使うと、存在がバレてしまう。
あの神界側に、使用者と使用場所が特定される仕組みのようだ。全域に知らせる物なだけに、非常に危険で強力な物なのかもしれない。知られた日には、一斉に三種族とも押し寄せてきそうな予感がする。
頭の中ではどんな物か、漠然としてしかわからない。使うときは慎重に、タイミングを考えようと思う。
考えている内に見つけた隠し場所は、直感。
外国人墓地のような場所で、誰かが訪問するような状態でなく荒れている。このおかげで、開いた石棺と盛り土と適当な墓標を見つけて、妹を安置した。場所は、狭間と現世の行き来できる特異点の付近だ。
そこから歩いてここに来たら、パー勢力に入ったという感じだ。俺が神から偶然奪えた”権能”は、”運よく”この世界でうまく通用する。通用する代わりに俺は、女神の雫を食っても変化がない。他にも普通と違うことは、勢力に加入しても力を得ることはない。
俺以外は、女神の雫を”食う”ことを目的にしている。自分の魔力の量が増えて、質も上がる。勢力連中らの一番の目的は、新たな種類の能力をえることという。人の性質によって得られる異なる種類は、”個性”と呼ぶのだそうだ。
ダリル曰く、人により、同じ勢力でも呼び出せる物が違う。
個性は種類が異なれば増える一方で、相殺や減ることもない。重複だけは重なり同化するだけだ。ダリルの個性は雷撃だといっていた。あの巨漢に相応のかは、分からん。
食っても太ることはないけれど、食えば何か得られるかもしれない。毎日食えるなら、食った方がいいと言われている。期待できるなら、可能な限りだ。腹にはたまる為ある意味、非常食代わりにもなる。
そうした中で、飛び抜けた力をもつやつらがいる。今の世界で最強と呼ばれる者は、”超越者”と呼ばれている。
若くして超越者の一歩手前のところまできたのが、ダリルだ。超越者は、このパー勢力にも何名かいるらしい。ここのギルドマスターとパー勢力マスターも同じらしい。
何を持って超越者とするのか基準があるようで、今度聞いてみよう。聞いた限りの話を振り返ると、なかなかに面白い世界だ。女神の雫も得られるしな。
今日は、向かう先の情報を今あるだけの分を叩き込んでおく。
――カルダ奪回作戦。
カルダの地形は山林に囲まれており、カルデラのような地形らしい。天然の要塞として、機能している。占拠されてから月日はまだ浅いとはいえ、すでに数年は経ている。敵に渡ると大変かと思いきや、戦闘する相手はいつもひとり。
こいつはよほど、戦いが好きらしい。
戦闘中は、自身の勢力にも手出し無用としている。過去、一度助けに入った時は激怒して、味方全員を殲滅したそうだ。それだけ危ないヤツと言える。
戦闘だけ楽しませておけば、満足するらしく敵陣営は黙ってみているそうだ。
チョキの召喚士、”Choice of destiny ” 略して”チョキ”は、パーの天敵だ。直訳で”運命の選択”とも言われている。”異界召喚”がチョキの特徴だ。直近では、サラマンダーを召喚して駆使したらしい。他にもガルムの目撃情報がある。
さすが異界召喚だけあって、どこの神話からも連れてきている。
俺自身が”制圧”で何を召喚できるかは、対峙してからのお楽しみだ。やってみないことには、脳裏に浮かんでこないから今は、わからない。”制圧”が使えたとしても、戦闘経験が多いわけではないから危うい。
経験が問われる物になると、少なさが裏目にでて戸惑ってしまう。自由度が高ければ高いほど、経験が物をいう。
俺の心配をよそに、勢力内では盛り上がりを見せているのが現実だ。今度こそ勝つぞ! と大いに意気込んでいる。
プレッシャーにならないと言ったら、ウソになる。どんなことであれ、女神の雫を得る機会なら、今できることをやるだけだ。そうは言っても、そこまで気追うわけでもないけどな……。
夜になると、ギルド御用達の偵察隊が戻り、聞けるのは最新情報の共有。
変わらず、チョキ勢力の戦闘狂は滞在中。他の者は概ね変化がない。非常に暇そうにしているとの情報から、俺がきた瞬間勃発しそうだ。意気揚々と出張るのは、間違いないだろう。明日の夜には出発して、明け方ごろに強襲をかける。今のところ手はずは変わらない。
俺は明日の夜をまった……。
――翌日の夜
満月の夜が俺を照らすころ、ギルドの裏手にあるゲートで移動を開始した。
方法は、転移ゲートを使い移動だ。馬車などの移動手段と思っていたら違う。
ある程度の距離から、少しずつ近づいて潜入するかと思っていた。世の中そんなに甘くないようだ。俺は、唐突に敵の目の前に放り出された。
誰だ? 目の前に設定した奴は……。デタラメすぎるだろう……。
俺の気持ちや不安は蚊帳の外で、相手勢力の恐らくは戦闘狂に目撃される。
当然だろう。目の前、数十メートル程度の近くに現れたら、嫌でも目につく。
「ふふふ……。待っていたよ”パー”」
「……チョキ!」
敵は不敵な笑みと、どこか歓喜する顔つきを見せる。どう見ても期待感の入り混じるような表情に変わっていく。勝手に自分で盛り上がるタイプなんだろう。危険極まりない。
「さあ、はじめようじゃないか。待ちくたびれたよ……」
俺は聞いた話だけで判断すると、戦う前はてっきり男だと思っていた。
どう見ても見た目は、”綺麗なお姉さん”だ。声も透き通るようだ。背丈は俺と同じぐらいか、やや低い。
背中にまでかかるストレートな髪は、艶やかな金色。ツンとした目つきと紅い虹彩からは、どこか幼さまで感じさせる。恐らくは、ツインテールにしたらよく似合いそうな顔つきだ。
白地に金色の文様を施したローブは、神聖な感じすら見せる。胸のあたりが非常に窮屈そうなほど、存在を主張している姿は少しエッチだ。
俺は一言聞きたい。お前はちょっとエッチな聖職者か? と。
見た目と言動が真逆な人は、久しぶりに見た気がする。舌なめずりをしながら、高揚とした顔で召喚をはじめる。
「チッ!」
俺は、若干戦慄を覚える。
相手のことではない、俺自身のことでだ。はじめて触れる脳裏に見えた姿は、すさまじい……。異界召喚で俺が、何を召喚できるかわかったからだ。
「グギャオォ!」
チョキの召喚士が呼び寄せた物は、火の精サラマンダーだ。事前の情報にある通りだけど、体のサイズまでは情報がない。なんかデカくないか? どう見てもカバの数倍はあるぞ?
「さあ、パーの召喚士くん。君はどんな超能力を見せてくれるのかな?」
あの顔は相当楽しでいる……。圧倒的に不利で、相性ではまず勝てないと思っているんだろう。
純粋に、戦いを楽しんでいるだけのようにも見えはする。果たして、俺の力をみて、今の表情を維持できるだろうか……。
「見せてやるさ! 行くぜ!……制圧!」
俺の脳裏が震え、異界から”力”が顕在化していく……。
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