第4話 カルダ奪回作戦(1/3)

 ギルドからの依頼を受けることにした。

もちろん、エミリーたちとは協議ずみだ。


 俺たちの作戦は、非常にシンプルだ。

俺の”制圧”を使いねじ伏せる。たった一つだけだ。


 敵一人を倒した後に今度は、絨毯爆撃にて殲滅戦の実行だ。

このどさくさに紛れて、救出の運びとなる。


 大事なことは、パーがチョキを倒して、知れ渡ることに意味がある。

さらに戦闘狂を倒したとなれば、おいそれと近寄ってこない。


 もう一度大事なことだからいうと、パーがチョキを負かすのだ。


 普通に聞いたら、イカれていると思われる発言らしい。

俺ができると信じてもらう以外、他にない。


 被害を極力減らすためと作戦失敗でも犠牲を減らすため、先行は俺。

うまくいった場合、合図の煙玉を上げる予定になる。

煙を見て、他のパー勢力が捕虜たちを誘導して救出する作戦。


 決行は、三日後。


 この期間に捕虜と戦闘狂の存在確認だ。不在では意味が無い。

今ギルド内にいる会議室では、皆一同に顔を揃えている。

各配置の代表となる者、数十人たちだ。


 決行に備えての打ち合わせなのに、熱気が強い。


 俺の動きは、標的を見つけたあと、全力で挑むだけ。非常にシンプルだ。


 俺の突入と戦闘後の動きは、概ね理解はしていた。残りは実戦あるのみ。

立ち回りは素人ゆえ、なるようにしかならない。


「樹瀬良、初陣だ。ムリはするなよ? 命あっての物種だ。

俺たちの期待の星でもあるからな」


「え? いつの間に?」


「そーだよ! 私も期待しているね!」


 エミリーは天然なのか? ちょいとお出かけ感覚のようにいってくれちゃう。


 すでに俺に対する説明はしているみたいで、期待の星らしい。

ダリルを負かしたのは、大きいようすだ。


 いつの間にか見知らぬ連中からも、好意的に受け入れられている。


 力が気になるのか、手合わせを希望する者も現れてきた。

もちろん受けはする。時間的に、作戦後に時間があえばと濁しつつ答えた。


 少し気になることは、今大きい動きの中で、ギルドマスターの不在なことだ。

何やら、ある物を見つけたとかで出かけてしまい、しばらく戻れないらしい。

今回は間に合わないし、どうにもならないか。


 勢力マスターとその幹部連中らも今回は、不干渉だ。

おそらく、大事の前の小事で関わらないのかもしれない。

本当は、イカれた奴の戯言だと失笑している可能性もあるな。


そんなわけで、勢力ギルドと勢力マスター達は、一枚岩とではなさそうだ。


 今回の件は、あくまでもギルド単体での依頼になる。

情勢も考えると、組織内にもう一つの実働隊があるのは、弱者の味方だ。


 声が届くし、フットワークも軽くなる。

意見が採り入れられていけば、柔軟な組織になる。と勝手に思った。


 お開きになると各々、戻っていく。


 俺はまだ無一文なので、ギルドの簡易宿泊施設での寝泊まりだ。

食事は質素だけど、固いパンと冷えたスープがお情けで一週間もらえる。

つまりその間に、自分で食う分は自身でどうにかしろというわけだ。


 場所は、ギルド訓練場に併設されていて、二階建ての木造で長屋だ。

それなりに年季は入っていても、頑丈で軋みもしない。


 現代社会で生きていた俺からすると、木なりの作りでむしろ

癒しの空間と言える。

内装は、ベッドと机と椅子だけのシンプルな部屋で、広さは四畳半ぐらい。

そんな小さな部屋が十個ずつ、一階と二階にある。


 トイレは外で、風呂は公衆浴場。


 最近は、勢力加入がこの時季には無くて、宿泊所は誰もいない。

その分静かで、他人のいびきを気にせず寝られるのは、僥倖だ。


 色々考えている内に、強烈な睡魔に襲われる。

俺は慣れない場所で、疲れてしまったのかもしれない。

今夜は、この眠気に誘われておもむくままに、寝てしまおう。


――翌朝。


「おはようございます。樹瀬良さん」


「あっ、おはようございます。シャナさん」


 俺はギルド裏手のちょっとした広場で、顔を洗っていた。

ここの井戸水は冷たくて、あっという間に目が覚める。

同時に受付のシャナさんに遭遇した。


「いつもですか?」


「そうですよ?」


 水桶に食器が数個入っており、洗っている。

今洗っているのは、お気に入りのティーカップとソーサーだそうだ。


 互いに朝の挨拶だけで、会話はない。

ムリして話す必要もないし、気になればどちらかが声をかける。

必要以上に気を使わないで済む。


 俺としては、気楽で居心地がよかった。


 部屋に戻ると、ボンヤリと昨日の続きを考えていた。

”女神の雫”である。俺はなんとしてでも集めたい。

すべてを差し置いてでも実現が重要な、最優先事項だ。


 どうしても必要なのは、唐突に義理の妹が、神に殺された……。


 その事情から別の神で、女神と名がつく物を使い蘇生とは、変な感じがする。

義理の妹を蘇生するには、女神の雫が大量に必要なる。


 神界と現世の境に、とある俺しか知らない場所にて、妹を安置している。


 なんでこんなことになったのか俺には、検討もつかない。

どうして、妹が死ななきゃならなかったのか……。


 今でもまったく、理解ができない。

あの時のことを、もう一度振り返って見る……。


 

――その日俺は、大学へ向かっていた。


 いくつか講義を受講しようと、ごく普通でいつものことだ。

妹も同じ大学で、たまたま構内の道ですれ違った時に、ことは起きた。


 突然地面に穴が空いて、二人だけ落ちてしまう。時間にして数秒だ。


 そう思っていたら今度は、神界の上空からゆっくり降下している。

二人揃ってわけが分からなく、混乱していた。


 到着すると急に目の前に現れたのは、高身長の金髪イケメンだ。

周囲の状況や自身のこともそして、突然現れた人のことさえ何も確認できない。

見えてはいるけど、上の空と感じたのは、後になってからだ。


 見かけは、白い羽衣をまとい全身が金色の粒子で包まれている有様だ。

神々しく見えて、人とは一線を超えている。

直感で、神様だとわかるぐらいの何かを持つ、雰囲気だ。


 初対面でいきなり妹に、手刀を突き刺してくるぐらい相手はイカれている。

外傷は見えなくても、そのまま心停止で倒れてしまった。


 ブチ切れた俺は、持っていたフラッシュライトで目眩を食らわす。

俺も真似事で、神の体に手刀で腕を突っ込んでやるとできた。


 まるで、綿菓子に手を突っ込んだみたいに、押し出される抵抗感がない。

手に”何かある”感覚があって、二回とも引き抜いた。

どういうわけか、おもむろに自身の胸に押し込んでしまった意味は無い。


 そこから何か体に異変を感じて、妹を担いで一目散に逃げ出す。

イケメン神風の奴がどうなったのか、知る由もない。


 途中、なぜか手助けしてくれる奇妙で異形な奴らがいた。

ここの雰囲気に似つかわしくない姿形だ。

俺の腰ぐらいまでの背丈で、紫色の肌をしておりずんぐりとした体型だ。


 顔はマスクをつけていてわからない。

唯一わかったのは、俺に対して好意的なことぐらいだ。

 

 好意に甘えて、神界から抜け道や妹の安置場所の助言をもらった。


 無事、神界を抜けて現世との狭間の世界で、うろつき探していた。

この場所は森林のようにも見えて、丘もある。

霧が立ち込める中で、銀色の粒子があたりを煌めかせる。

神秘的なこの場所で、妹の隠し場所を探していた。


 このまま妹を連れて行くのは困難だし、腐ってしまう。

防腐のためにも、神秘な力の作用する場所が適していると、異形が告げた。

助言通り俺は、目立たず人の手が入らない場所を探していた。


 そういえば、”何か”を引き抜いてから、変化したことがある。

体力と力だ。妹を担いでいても疲れ知らずだ。

他にも力加減で気をつけないと、岩石ですら握りつぶしてしまう。


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