第3話 可能性

「うん。実はね……。敵対勢力が、私たちの領土を奪ってね……」


「……」


 ああ。よくある話だな……。


 どこの世界も異世界だろうと、人の歴史は戦いの歴史だ。


 概ね、特定の領土を奪還したいと考えているんだろう。

本だけの知識でいうなら問題は、救出する人員だ。


 どの程度いるかによって、戦い方が変わる。

領土の広さも、もちろんだけどな。


「その場所にいた私たちの仲間は、尋常でないほど虐げられている……」


「解放して助けたいと?」


「うん……。支配している奴がかなり強力で、何度も返り討ちにあっていて……」


 やはり思ったとおりだ。やること自体は何も抵抗はない。

俺もパー勢力に入った以上は、他の勢力との争いは承知の上だ。


 俺の都合で気になることは、敵に能力がしれることだ。

どこに、神たちの目耳があるかわからない。


 奪った物を今、取り戻されては困るのもたしかにある。

最悪勢力を超えて、神界との紛争になるかもしれない。

そうした不安は、これから常に隣り合わせになるのだろうなと思った。


 だからと言ってやらないという選択肢はないけどな。

ただ単に、知られるのが早いか遅いかだけの違いしかないだろう。


 俺は、このまま話を促した。


「……相手は?」


 俺は、脅威対象が何かを知りたかった。


「チョキ勢力よ。相性は最悪……。でも、何とかしたいの!」


 確かにパーでは、チョキに勝てない……。


「身内でもいるのか?」


 必死さから、尋ねずにはいられなかった。私情で助けるのもいい。

もし助けに行くなら、勢力同士の問題になる。


「おばあちゃんがね。他にも私のお父さんとお母さんのお墓もあるし……」


 生き残りの肉親がいるなら、わからないでもない。

同じような人も他にいて、エミリーだけじゃないと思うけど、どうなんだ……。

何か別の事情もありそうだな。


「そうか……。前回の失敗で犠牲は出たか?」


「出ていないわ。そこはうまくやれたの」


「特徴は?」


「相手の? 一対一の戦いを常に要求するわ。

戦闘以外は求めないし、他には興味無いのか何もしない感じね」


 どうやら戦闘狂のようだ。


 うまくやれたというよりは、相手側の意図したことと違うだけな印象だ。

話を聞く限り、決してこちらがうまくやったわけではない。

もう少し、よく聞いた方が良さそうだ。


 自勢力に、都合よく解釈しているところがあれば、致命的になる。

命が天秤にかかる以上、慎重に越したことはない。

 

 相手の特性については、倒さない限りいつまでも続きそうだ。

このタイプへは勝ちさえすれば、意外とあっさりと引いてしまいそうだ。

あくまでも、本で見聞ききした話だけでしか無いけどな。


 再びヒアリングを続けた。


「どの程度の広さで、敵勢力はどのぐらいの人数がいるんだ?」


 規模感を確認すべく必須事項だ。


「広さはこの町の十分の一ぐらいかな。人数は、百人ぐらい……。

その中で常に戦闘を求めるのはただ一人だけよ」


「救出したい味方はどれくらいだ? 現地にそのまま残るとしてもだ」


「百人ぐらいはいるわ」


「なんか敵の数が住民に対して多くないか? 妙だな……」


 ダリルが何かを知っているのか、説明をしはじめた。


「俺から説明する。住民は、実験台にしているんだよ。

敵勢力の一人一人の個人用にな。ひでぇ話で、

毎日健康確認という名の暴行実験が、繰り返されていると聞いている」


「本当ならば、救出に行かない理由は何だ?」


「ほぼ洗脳に近い状態でな。救出しよう物なら、密告されるし騒がれる」


「本当に救いたい者だけだと何人だ?」


「十人未満だ」


 命は選ばれる。そういうものだ。

俺も妹のことを最優先にするのと同じだな。


「その十人が、それぞれ救い出したい者が増えたら、同じことが起きるぞ?」


「ああ。難儀しているのさ……」


「苦労しているな……」


 なんだか身内に甘すぎたのか、それとも手際が悪いのか何とも言えない。

しのごの言わせず連れていき、ぐずぐずしているのは見捨てるしかない。

聖人君子じゃないから、全員まで面倒見切れない。救えるやつだけ救う。

冷たいかもしれないけど、俺の考えの根幹だ。


 疑問は、一人さえ撃破すれば、本当に敵対勢力は撤退するのかだ。

そこは誰も確証は今のところ得られないだろう。


 もう一つ、奇妙なことがある。


 一人で対峙しようとする者以外は、兵士ではないと聞く。

明らかに、パー勢力に対して油断をしているのか……。

それとも、対峙する際にひとりで戦うのを喜ぶ、ただの……戦闘狂。


 突出した戦力なら、本当にひとりが落ちればこの戦い勝ちかもしれない。

それがたとえ、相性の悪いチョキでもだ。


 とくに周りが非戦闘員であれば、戦闘員の方が相性関係なく強い。

だとすると、千載一遇のチャンスかもしれない。

俺のこの”制圧”を駆使することで、圧倒的な同質の力でまさしく制圧だ。


 武道において、入門生と師範では同じ武器を取っても、明らかに強さが違う。

それと同じ状況を、俺は作り出せる。


 たった一人さえ制圧すれば、すベてのことが片付く。


 俺が持つ本来の力のことはまだ、誰も知らない。

いう相手も慎重に考える必要があるか……。


――ダリルか。


 たしかにダリルなら口は固そうだし、口外をしないことは明らか。

少し考えて俺は、ダリルに話をふる。もちろん別室で話す必要がある。


 相談という体で、俺とダリルは別室に向かった。


「んでなんだ? 相談て?」


 三人掛けの皮張りのソファーがずしりとダリルの重みで揺れる。

俺も正面にある三人掛けに座り、対面しているところだ。


「他言無用で願いたい」


 俺はゆっくりと慎重に伝えた。それだけ重みがある内容だからだ。


「もちろんだとも」


「ギルドマスターにもだ」


 念には念をだ。俺が信用しているのは”ダリル”であってギルドではない。


「ああ。わかった誓おう」


 意図は汲み取ってくれたようだ。俺は話を進める。


「……俺はチョキに勝てる。というより、圧倒的な力で制圧ができる」


「どういうことだ? 詳しく聞かせてくれ」


 ダリルは純粋にわからないという顔で俺に尋ねてくる。普通ならそうだ。


「ああ。実はな……」


 俺は、”異界召喚”が使えること”だけ”を話た。

別にチョキにいたわけでは無いことも、合わせて伝える。


 ただ残念ながら、ここでは証明ができない。

対峙した時に証明できる。信用してくれとしか言いようがないことも伝えた。


 当然ダリルは、あの綿菓子のような顎ヒゲを抱え悩んでしまう。

それもそうだ。新人が信用しろと言っているんだムリもない。

会ってまもない奴で、加入したばかりの新人じゃ尚更。


 どう聞いても眉唾物だ。普段信用する人間からの発言でも危うい。

俺はそんな、荒唐無稽な話をダリルに振っているのだ。


 一つだけ、信用に足りるところはある。


 ダリルを負かした得体のしれない圧倒的な強さだ。

俺はその強さが、今の話の信頼性へ担保になっている。


 昨日の今日入った奴を起用するにも、リスクはあるだろう。

勢力間では、裏切りは盛んらしいからだ。


 ただし裏切っても複数の勢力の召喚はできない。

はじめに加入した勢力の力しか使えない。

このことばかりは、世界の仕組みらしくどうにもならないとのことだ。


 そこで、俺のようなイレギュラーな存在が、特異点となる。

ある意味、どの勢力に鞍替えしても、活躍も制覇も可能な存在だ。


 もちろん俺は、移る気はさらさらない。

能力を知らないのに、ここまで親切にしてくれる人の良さは、本物だ。

まだ短い期間とはいえ、愛着は湧いてくる。

 

 ようやく悩んでいたダリルは、答えがでたようだ。


「わかった。お前に賭ける。やってみよう」


 俺たちはこうして決まり、ガッチリと握手を交わした。

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