第2話 小手調

「そんじゃ。中央に来てくれ。エミリーとシャナは見学な」


「は〜い」


「わかりました」


 俺は、ギルドに併設された訓練場に、連れてこられた。

土の地面と石壁で囲まれたこの場所は、軽く百人程度は収容できそうだ。


 楕円形に広場は、作られていている。

縁に設けられた数段の段差は、椅子代わりになり、客席もかねている。


 かなり荒く使われても、多少のことではびくともしないのだろう。

壁には所々黒ずみが目立つ。よく使われる地面は、平に慣らされていていた。


 今の時間はちょうど誰もおらず、貸切状態になっている。

わかっていて、あえて選んだのかもしれない。


 ダリルはおもむろに、中央で仁王立ちとなって構える。


「俺も真剣に取り組ませてもらう」


 不意に何かを召喚したのか、あたりが白一色なほど光り、轟音が落ちる。

ダリルの掲げた右腕へは、避雷針のように輝きを吸い込んでいく。


 ――雷だ。


 何が起きたのか、全身は弾ける金色の粒子がまとわりつく。

さながら、金粉を撒き散らす妖精のような姿に見える。

光の粒と金色の粒子が、まさに今周りにも洪水のように押し寄せてきた。


 俺は力の正体と、何を呼び寄せられるのか……。答えはすぐに見つかった。

疑問という名の濃霧が、一瞬にして強風で吹き流されるかのように晴れた。


「そういうことか……」


 俺の呟きに反応したのか、ダリルは語りかける。


「わかったか? 樹瀬良。俺たちパー勢力は、全員が召喚士だ。

もちろん、他の勢力も召喚士で特定の種類のみ召喚できる」


「ほう……」


「俺たちは、”超能力召喚”が可能だ。なっ? まさに名前の通り”夢の力”だ。”power of dream”だろ?」


「そうかもな……」


 肯定せざるを得ない。


 まさしく圧倒的な力は、存在するだけで威圧という暴力を振りまく。

周囲の空気は、痺れるような感覚がつきまとう。

触れている肌は、乾燥していないはずなのに静電気を当てられたようだ。


 今俺に対して、一直線に降り注ぐ何かがある。

目の前数センチの距離で、太陽から直に熱を浴びているようにすら感じる。


 感じるものが”覇気”なのかと、疑問に思う。


 表面は痺れて焼かれるような感覚でさえも、今は味わっている。

一言でいうなら”凶暴”以外、何ものでもない。


 エミリーの話によれば、個々の力量で召喚できる物が変わると聞く。

まるで、個性とも言える。


「お前は何を見せてくれるんだ? チームに入った時点で、

恩恵を授かったはずだぜ?」


 戦いにど素人な俺が、ここまで感じる物だ。相当脅威なんだろう。


 俺が授かったのは、パー勢力の証である変わった刻印だった。

今手首を見ると刺青に見える。

蛇が自らの尻尾を喰らう姿は、ウロボロスその物だ。


 実は、神の権能が阻害するから、俺自身授かることは無い。


 俺は常在戦場のつもりで、神の権能を発動させている。

一つだけ奪えた力だからこそ、常に使い続け詳細の把握もしたい。


 今からやることがどうなるかは、理解しているつもりだ。

頭で知るのと、やるのでは大きく違う。


「見せてやるさ! 行くぜ! ……制圧!」


「何っ! バカなっ!」 


 ダリルはすぐに気がつき、焦りを見せる。

俺は、これからやってくる超能力を”感じた”。


 まるで”ここにいるぞ”と、自ら主張するように俺の脳天に落ちてくる。

召喚というよりは、共感して飛びついてきたに近い。

愛犬が飛びついてきた感覚だ。何がきたかというと……。


――イカヅチ。


 雷から感じる衝動は、体の隅々までを鋭敏にしてくれる。

見かけだけは、ダリルとまったく同じ物だ。


 エミリーやシャナが、どんな表情をしているのか窺いしれない。


「次は、どうする?」


 俺はダリルに尋ねた。


 同時に腹の奥底から湧き出るこの感覚。

なんだろうこの全能感は……。


「俺も意地があるんでな、やらせてもらうぞ。

安心しろ、蘇生技術は発達している」


 やるつもりでいくと言いたいのだろう。それだけ本気なわけだ。


 雷撃超能力の最高峰と言わんばかりの、超加速で肉薄。

空気抵抗すら無意味なほどで、正面わずか数十センチの距離まで一瞬だ。


 加速と同時に、腹に目掛けて拳が迫る。雷を帯びながら掌底が直撃。

全身が落雷を受けた衝撃に襲われる。

体幹を中心に、上下に激しい痛みと痺れを撒き散らす。


 雷による打撃の力を、身をもって知った瞬間だった。

全身への衝撃と同時に、後方に大きく吹き飛ばされた。


「樹瀬良ー!」


 エミリーの絶叫する声が、頭を殴るかのように響く。

なあに、大丈夫さ。これからが本当のはじまりだ。


 俺は吹き飛ばされながらも、思わずほくそ笑む。

一回転して、無事地面に着地すると再び、対峙する。

耐えられるのはわかっていたかのように、ダリルから声をかけてきた。


「樹瀬良やるな! 雷打を食らって無事なのはお前がはじめてだぜ」


 もう終わりのつもりでいるのか、余裕そうだ。

今からその顔を少し歪めてみるか。


「まだ続きがあるんだぜ? ……雷神! 召喚!」


「何だとっ!」

 

 天空から、全長十メートルはくだらない巨体が現れた。

雷をまとい、肌は灰色で統一され、文様の刺青がほうぼうに入る。

筋骨隆々な体で、顔は何かのっぺりとした白いマスクを被せてあり表情は見えない。

唯一目の位置にだけ、横長の細いスリットが入る。

残念ながら表情は、伺いしれない。


 半透明な状態のまま俺と融合し吸収される。


「雷翔! 雷刹!」


 雷の羽を生やして飛翔するだけでなく、雷の刃はギリギリを狙い放つ。


 加減なしで雷の刃である雷刹を放つと、一瞬にして様相が変化した。

世界は光、空気が裂け、地面が割れた。


 力の痕跡は、ダリルを残して、周囲をくり抜いた形で終わる。


「お前……」


 唖然としたまま固まってしまう。


「決まりだな?」


「ああ。俺の完敗だよ……。樹瀬良お前一体……。

何だか、凄すぎるだろ? 何者だよって感じだぜ」


 会話をしていると、場に似つかわしくない歓喜が聞こえてくる。


「樹瀬良ー! やったねー!」


 ゆっくり降下して行くと、エミリーが大はしゃぎだ。


 俺の権能は、対峙する相手の属する力を例外なくすベて扱える。

問題は、超能力には超能力しかできないように、対峙する相手次第で変わる。


 いずれ出会う他の勢力連中は、魔法なら魔法だけで、異界召喚なら異界召喚だ。

有利な対極となる物は、選べない。


 弱点は、対峙する相手と同じ種別しかできない。

トドメを指すことが難しい場合は、神から奪った武器がある。


 利用するのはまだ、今ではない……。


「樹瀬良さん? あなたは何者ですか? 補佐をあそこまで追い詰めるとは……」


「樹瀬良、お前驚いたぜ。わかっているだろうけど、力の扱いだけは気をつけてな」


 あの場所の修復については、そうしたことを得意とする連中がいて即時に治るそうだ。


「ああ。気遣いに感謝する」


 ほんの数十分前に接点をもった人らから、親しくしてもらうとは思いもよらず。

俺はいつの間にか、短期間で居心地が良い”場所”を見つけた気がしてきた。


「樹瀬良〜! 凄かった! ほんとビックリしたよ!」


「ああ。ありがとな」


「ううん……。安心して、依頼受けれそうかも……」


 どこかエミリーはほっとしている様子にすら見えた。

同時に、何かを決意するようにも見えた。

何だ? 何かをしようというのか……? 


「ああ〜なるほどな〜。エミリー、今度は樹瀬良と挑戦するのか?」


「うん。虐げられている人は、見過ごせないよ……」


「樹瀬良がいれば大丈夫だと思うけどな、用心に越したことはないぞ?」


「……うん」


 どこか暗い。何だか、暗すぎる。


 何かに過去失敗して、思い悩んでいるのかもしれない。


「何の話をしているんだ?」


 俺は、置いてけぼりの状態なので、聞くだけはしてみる。

やるかやらないかは、内容を確認してから判断すればいい。

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