第16話 勢力幹部

 俺たちは、特に依頼というわけでもなく、勢力幹部と対面することになった。"気になることがあるから……"とすでに偉そうで、鼻持ちならない。


 気になるってなんだよな。俺たちは気にもならない。三人とも怒り心頭だ。


 エミリーかなり毛嫌いしているように見えた。過去に何かあったんだろうか? 聞くだけ聞いてみる。


「エミリー。何か勢力幹部たちと何かあったのか?」


「んー……。よくある話なんだけど、私告白されたの昔」


 意外な答えが返ってくるなり、何か複雑そうな事情がありそうだ。ひとまず続きを促す。


「ほう。モテるじゃん」


「普通ならね。ところが、その人超しつこくて、何かと後ついてくるし俺の女だというしですごく迷惑だったの」


「マジかー。きついよな……」


 思い込みの激しい奴だったのだろうか、ついてまわるなんて想像するだけでうんざりする。


「うん。あまりにも辛かったから、ダリルに相談したの。そしたら、次の日謝りにきてね……」


「それで、終わりじゃなかったのか?」


「一応はね。ただ何度も頭下げながら、ぶっ殺すと小声でいうの。キモチ悪かった……」


 典型的な、思い込みで動く奴な気がする。人格的にもやばそうだ。


「謝られて以来は、付きまとわれたりしなかったのか?」


「表向きはね。ただ偶然を装って近づいてくるし、路地の影からじっと見られている感じするしで大変だったんだ」


「だった? となるともう今は?」


「うん。キセラが入ってくれてから、トンとこなくなったよ。キセラありがとね」


「おっ? おう。役に立ったならよかったよ」


 俺はエミリーのいう奴が、幹部かはわからない。ただこの感じだといた場合、大いに私情を挟んでくる奴に思えてならない。しかもストーカーときたもんだ。かなり面倒臭い奴な気がしてならない。


 勢力幹部の集まる館は、ギルドから割と遠い位置にあった。ギルドから向かうこと約三十分ほどで、見えてきた。


 地図に書かれた道順に行き、次第に見えてくるその建物は、レンガを積み上げた赤茶色の壁でできており、合間に白く塗られた壁を挟む建物が立つ。外観からすると小洒落た建物のようだ。三階建ぐらいに見えるその大きな屋敷は、俺たちに因縁をつけてくるような輩が住む場所とは、到底思えないほどだ。


 館に着くと門番は特におらず、直接扉をノックすること数回。


 扉を開けて現れたのは、驚くほど綺麗な女性だった。制服をきていてその色は、古い藍染めによる色で、暗い青色の二重緑色に似た色だった。その色に金色の背中にまでかかる髪と制服の金色の文様が、かなり合っている。


 雰囲気はおっとりした綺麗なお姉さんといった感じだ。


 めざとくエミリーを見つけると声をかけてきた。


「あら? エミリーちゃん久しぶりね。来るって聞いていたから、待っていたのよ?」


「あっ、ありがとうございます。ギルドから皆さんが”気になることがある”というのでまいりました」


「あら、それほど硬くならなくて、大丈夫よ?」


「入らないとダメですか?」


「もうエミリーちゃん。あのことは、終わったことだからね……。さあ入って、そこの二人もね」


 言われるままに入ると、正面には吹き抜けの螺旋階段がありかなりの広さだ。高そうなシャンデリアが天井からぶら下がっており、豪華さに拍車をかける。どこかの物語に出てきそうな、貴族の住むお屋敷のような雰囲気さがある。


 近くのソファーまで案内されるとメイドたちが慌ててやってきた。


「アデルハイト様、私たちにお任せいただければ……」


「あら、かわいいエミリーちゃんがくるというのに、出迎えしちゃだめかしら?」


 悪戯っぽい笑顔でいう姿は、どこか可愛らしい。


「いえ、滅相もございません。お手を煩わせてしまい、大変申し訳ございません」


 メイドは恐縮しまくりだ。そりゃそうだ。主が好き勝手に動かれると、メイドも役割がはたせず困るんだろうな。


「はい。この話はおしまいね。色々エミリーちゃんと話したいところだけど、グライドに言わなきゃいけないからね。先に行っているわ。準備ができたら呼ぶから待っていてね」


「はあ……」


 エミリーは、気の無い返事で答えている。そんな姿を見るのは、新鮮だ。いつもとびっきりの笑顔で、元気いっぱいだからな。よほどいやなんだろうな、この場所……。


 アルデハイトか、綺麗な人だ背は俺より少し高くすらっとしている。でも出るところはしっかり出ており、なるべくジロジロと見ないように、努力をしたつもりだ。


 リリーはどこかぼんやりとしている。いつもといえば、いつものことだけど今日はどこか違う感じがした。珍しいこともあるものだと少し話を振ってみる。すると意外なことがわかった。


「リリーどうした? ぼんやりして。眠いのか?」


「マスター……。どうやらここは、元他勢力の人を排除する働きがある”何か”が存在します。先ほどから、強烈な睡魔に……襲われています……」


「いざとなったら、俺が担いででも逃げるぞ」


「ありがとうござい……」


「リリー?」


 突然、すやすやと寝息をたてて寝てしまった。もしかして、チョキの者がいると見込んで、仕掛けられた罠かもしれない。あのアルデハイトと名乗る者もどこか、今思えば怪しい。


 エミリーのチームで、エミリーのことがあそこまで気がかりなのに、直接名前すら聞いてこなかった。いくら事前に聞き及んでいたとしても、どこかおかしい。すると考えられることは、いくつかある。


 聞く価値がないのか、それともこれからいなくなるから、聞いても意味がない。


 前者も後者も最悪な展開しかない。今はリリーが術中にハマってしまい抜け出せず寝てしまった。ここで攻撃を仕掛けられると、守りながらの戦いになるから、かなり厄介なことになる。


 果たして……。俺は、経験の少なさをこの時ばかりは歯噛みしてしまう。今は、目先の対処をどうするか、考えあぐねいていた。

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