第8話 次なる依頼:(1/2)
俺たちは案内を受けてすベて見た中で、満場一致の物件が一つだけあった。外観は、城壁のごとく高い門とレンガで積み上げた塀がある。その内側に、二階建ての洋館と言える建物がちょうどよかった。
一見やや古く見える洋館であり、内装はメンテナンスが行き届いて綺麗だ。外側の壁は白を貴重にして、所々の部位には古い藍染色の二重緑に近い暗い青色を用いている。
重厚感のある深い色味を持たせていて、センスの良い色使いになっている。
”出る”と噂されている曰く付きの物件だ。過去何度も入居をする物の売りに出されてしまうため、今回は激安。売られるたびに値段が下がり、ここまできたという感じだ。
俺はどこかこの家に、歓迎されているような気配すら、感じたほどの良物件だ。エミリーもリリーも同じで、何か感じる物があった様子。
皆の意見を伝えると、驚きもされなかった。反応は、やはりそうでしたかと、まるで予感までしていたかのように言われた。
予算内で納めてくれて、500金貨と鍵を交換して売買成立だ。書類は意味をなさないため、不要とのことだ。建物が所有者を認識する特殊な物件であるらしい。
受け入れられると基本的に、敷地内に入れるそうだ。敷地内にいられることが目安となって、購入の可否が決まる。
「契約成立ですね。この広さでしたらメイドを三人雇うのが最善かと。メイドたちの住まいは、離れにある建物が宿舎になります。お雇いになられるのでしたら、私にて手配いたします。その際は、お声がけください」
「ありがとうございます。一旦、一日考えてから相談します。ちなみにお給金とかは、どれぐらい必要ですか?」
「そうですね。あのお屋敷の規模と品格でしたら、ひとり一月10金貨は必要ですね。三人でしたら一月で30金貨はご用意が必要かと。今の状況でしたら、二人を雇い入れるぐらいでも問題ないかと思いますよ」
「わかりました。ありがとうございます。明日、また相談します」
「何なりと、私ノバスチャンにお申し付けください」
一旦ノバスチャンと別れ、俺たちは改めて館内を見回した。
ノバスチャンは、”伸ばすちゃん”に見えてしまう。なんだか変なダジャレでも聞いたみたいだ。
”伸びる子育てる〜♪ 伸ばすちゃ〜ん♪”俺は心の内で歌ってしまう。
”ぶっ!”
「へ?」
思わず、まの抜けた声を出してしまった。今、”ぶっ”って聞こえたぞ。気にしても仕方がないと俺は、気にも止めずに部屋を見て回る。
一階は大きなリビングに、キッチンと風呂場にトイレ。他に部屋がふた部屋ほど。二階には大きな部屋が一つと小部屋が四つ。物置部屋が一つという構成だ。地下室もあり、ここは食料庫になりそうなほどひんやりとしていた。
各部屋には、備え付けの腰までの高さのタンスとキングサイズのベッドがある。それなりに整っており、手入れが行き届いていたのか、どこも綺麗だ。
新たな拠点を手に入れて、俺たちは思わず互いにニンマリとしてしまう。
「あっ! 私これから荷物運んでくる!」
「手伝うか?」
「そんな多い訳じゃないから……。多分、大丈夫!」
そういうと、すっ飛んで行ってしまった。取り残された俺とリリーは、とくに荷物はない。このまま屋敷に入り、今後のことを検討しはじめた。
「この広さだと、メイドがいるな……」
「私に、お世話させてもらえないでしょうか?」
げっ! マジか? と一瞬でも俺は思ってしまった。見た目がこんな美少女になんて。いい意味で嬉しいけど、そのつもりできてもらったわけじゃないから断った。
「リリーはメイドじゃないから、大丈夫だよ。リリーは、メイド以上の人だからな」
「え! 最愛の人ですか!」
なんだ? 何が起きたら”メイド以上”が”最愛”に変換できるんだ? 俺の言葉選びが間違いだったのか?
「えっ! 最愛というか……。 大事なのでという意味なんだけど……]
「大事な人なんですよね! 嬉しいです」
「あっ……。あれ? はぁ……。はい」
なんだろう……。戦闘の時とこうまで人が変わるとは、完全に別人だ。
俺は明日にでも、ノバスチャンに三人ほど採用する旨を早急に伝えようと思った。
この後、数刻後にエミリーが荷車を山にして、人力で引きながらやってきた。三人で手分けして、部屋に詰め込む。
女性の荷物なので多いのは仕方ないにせよ、一声かけてくれれば運んだのになとも思う。とりあえずなんとかなったので、三人揃ってノバスチャンのところによってメイド三名を要請。その足でギルドに向かった。
「あっ、ちょうどいいところにきてくれました」
ギルドに入るとさっそく、受付のシャナさんがこちらを見て手を振りながら、声をかける。近くにいるのは、二十代前半ぐらいの白衣をきた医者か、研究員かの雰囲気を醸し出す人物がいた。
銀髪は長いのか、後頭部で無造作に束ねていた。
黒ぶちメガネの奥に見える虹彩は、綺麗な緑色だ。研究員らしくない薄い桃色の艶やかな唇は、どこか妖艶さを醸し出す。背丈は、すらっとしてスレンダーで高身長な人だ。
こちらの世界でも白衣ってあるんだなと、ボンヤリと思ってしまう。
応接室のような部屋に通されると、対面には研究員とシャナさんがすわる。俺たちは三人とも腰掛けると、話がさっそくはじまった。
「紹介からしましょう。この方は、通称”パー研”で研究員をしているソフィーさん。念のためパー研は、power of dream 勢力総合研究所の略称ね」
「はじめまして、トワイライトチームのリーダーでエミリーです。
こちらはチーム員の……」
「キセラくんね? その隣はリリーさんかしら? ソフィーよ、よろしくね」
すでに調べていたのか、エミリーは少し警戒をした。
「エミリーさん、驚かせてごめんなさいね。指名依頼がきた物ですから、こうして席を設けさせてもらったところなの」
シャナは心得ているのか、このあと指名依頼について説明を始めた。俺にとっては初めてのことなので、勉強になる。エミリーは知っていることなので復習だろう。
「いえいえ、大丈夫です。事情があったので、思わず警戒してしまいました。今は大丈夫です」
エミリーも状況がわかったのか、落ち着いた様子だ。
するとソフィーが今回の依頼内容を淡々と語り出した。要約すると、チョキ勢力の領土内にクレタと呼ばれる地があり、そこを調べてきて欲しいとのことだ。
天使像を重点的に調べて、見つけたものをすべて記して欲しいと記録用紙をもらう。まあ、紙に書かれた物品が見つかれば確保を希望とあった。
敵対勢力の地のため、パー勢力の人ではおいそれと入れない。
そこで、白羽の矢がたったのは俺だ。
先日、チョキ勢力の戦闘狂を軍門に降したのは、すでにパーの勢力内では有名な話。
そこでその腕を見込んで、依頼が舞い込んだわけだ。今回成功したら、次も指名をしたいという。まだまだ依頼したいことはたくさんあるとのことで、我チームの大きなスポンサーになりそうだ。
そんなわけで、エミリーも気合いが入ってきた。
「わかりました。お受けいたします!」
俺は問題ないため、頷いて同意の意思を表した。
その後は、シャナさんとエミリーで契約をかわして受理完了だ。ソフィーさんは気さくな感じで、”頼んだよと〜”と説明が終わると一言いって、ギルドを後にした。
正確にいえば、指名依頼は今回で二回目だ。一回目はこの間の奪回作戦だ。
依頼書を受理してでの対応は、今回が初めてになる。報酬は金貨100枚。かなり破格だと思う。その報酬以外には、ギルドから貢献度に応じて出る。女神の雫と場合によっては、特別褒賞もある。
期限は十日で、往復して調査報告を送らなければいけない。どんな理由があっても、期限を過ぎたら減額……。
リリーの話によると、クレタは遺跡が多くある地域だそうだ。木が生い茂り、魔獣もそこそこいるらしい場所とのことだ。
俺はまだ魔獣との戦闘は皆無だったので、立ち回りに意識をしよう。戦闘員が訪れるのは、研究員を引き連れていく場合に限る。
研究以外に立ち寄ることの無い場所だという。
少なくとも非戦闘員には、ガードする人が必要なぐらいの場所なのだろう。どちらにせよ敵の勢力地なので、何かが起きると考えて、行動した方がいい。俺たちは早速準備を整えて、明日向かうことにした。
ノバスチャンに十日ほど不在にする旨、シャナさんに伝言を頼み出かけた。まるで探検隊の気持ちでもある。
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