第7話 ギルドでの評価

 どうしたものかな……。


 沈黙の戦いが、繰り広げられている。その一言に尽きる様子は、目と目で対峙する一種の無言紛争だ。目から光線と火花が、飛び散ることが起きるなら、今の事象がそうだろう。


 エミリーの葵い虹彩からの光は、粒子のように舞う。その様子は、隙間から指す光がホコリを映し出すかのようにも見える。色はブルートパーズのようでいて、螺旋を描くかのように、まっすぐ突き進む。


 方や対抗するかのように、リリーの赤い虹彩の光からも溢れ出す。その光の色は、ルベライトに近く色の粒子が吹き荒れる。まるで赤い霧を作り出して、進行を阻むかのようだ。


 二人の光が乱反射していく様は、青と赤の狂乱である。終わりの見えない戦いに終止符を打ったのは、他でもないダリルだ。


「お〜い。お前ら、何そんなところで突っ立ているんだ? さっさとこっちゃーこい」


「エミリー、リリー行くぞ」


「うん……」


「はい……」


 それぞれ答えると、ダリルのいる会議室へ向かった。


 この部屋は、個別の相談に使われる場所だ。三人がけのソファーが対になって置かれている。今回そもそもの発端は、俺の紹介がまずかった。


 エミリーに作戦成功の話をしている最中に、リリーがやってきた。”奴隷になるリリーだ”と唐突に紹介してしまった物だから、エミリーが驚く。


”そんなー聞いていないよー”とエミリーがいうのもわかる。チームだからな。


 勝手に決めるのは不味いかなとも思いながらも、ずるずると来てしまった。あんまりよくないと少しでも思うなら、即情報共有が大事。


 今は唐突な鉢合わせで、互いが警戒心を持つのは当然だ。相対している相手は元チョキ勢力の者だ。パー勢力の相性を考えたら余計に、疑わしく見てしまう。


 会議室に入る前から繰り広げていたバトルは、一旦お開きに……なるといいな。


「すまない待たせた」


 俺を真ん中にして右側をエミリーが座り、左側ではリリーが背後にたつ。奴隷だから畏れ多いと、座ることを拒んでいてようやく座らせて、話に戻る。


「よし、お楽しみを話すか。チームの前に、樹瀬良お前からだ」


 ダリルから今回の貢献について、話がさっそくでた。端的にいうと、金貨換算で千枚。女神の雫は、大人の頭ぐらいある大きさの袋に、ぎっしり詰めた物を三個。この二種類を個人として受け取れた。


「結構あるな……」


「お前さんの働きからすると、さらに出したいところだけどな。そんじゃ、お待ちかねのチームについてだ」


「はーい! 待っていました!」


 エミリーはなんだか力が入っている。


「トワイライトチームには、金貨五百枚。女神の雫一袋の贈呈だ。エミリーおめでとう!」


「うん! うん! うんッ!」


 ほんと嬉しそうにうなずく。よほど嬉しかったんだろうな。


「そんでだ。個人とチームの貢献度だけどな。評価一覧は、こんな感じだ」


 見せられた紙を見ると、書かれていた物はわかりやすかった。


 【貢献一覧】

 作戦名:カルダ奪回作戦

 トワイライトチーム 合計:1,010

エミリー 合計:0(累計10)

樹瀬良 合計:1,000(累計1,000)

個人内訳(五段階評価)

樹瀬良

合計:20

 無血:5:流血なしに貢献

 依存:5:作戦の成否は100%依存

 対象:5:チョキ勢力

 成果:5:戦闘狂リリー捕虜

短時間対応

特別褒賞:980

チョキ勢力の戦闘狂リリー捕虜は

                                   誰一人としてなし得ない成果


「すごい! 特別褒賞を省けば、樹瀬良ひとりで普通のチーム員の六〜七人分だよ?」


 見た目の紙には箇条書きで淡々と成果が記されている。意外とロジックは明確なんだなと思った。


「その計算だと普通は、一人あたり三点ぐらいが多いのか?」


 五段階評価って、いつの時代の成績表かと思ってしまった。


「うん。およそそんな感じかな? 普通は、すべてに点数はつかない。どこか0点がある。人数が多ければ多いほどお得」


「頭数でも稼げるのか……。うちのチームはこれからだな」


「そう! そう! これからだよ」


 よほど嬉しかったのか、テンションがかなり高い。この機会にリリーの件を納得してもらうかと思い、話を振る。


「今回一人増えて、戦闘狂と呼ばれたリリーもいるからな、強いぞ」


「うーん。悔しいけど、認めざるを得ないね。実力は折り紙付きだし……」


「他のチームにはない特徴だしな。他勢力がいるチームなんてないだろ?」


「うん……。言われてみたら、そうだよね。前向きに見てみるね」


「エミリー頑張ろうぜ!」


「うん! リリーもさっきはごめん。これからもよろしくね」


「ありがとうございます。マスターにもエミリーさまにも、認められるようになりたいです」


 なんだろう……。戦闘の時とはまるで別人だ。車のハンドル握ると人格変わるタイプがいるけど、その口だろうか。この世界はそこまで文明が発展していないから、わからないけどな。


 時間はかかったけど、解決かな……。なんだか、めちゃ疲れたぞ。


「よし、お前ら全員、理解と納得をしたところだな?」


「はーい!」


「評価については大丈夫だ。ダリル一つ相談がある」


 二人からも予期せぬことだったのか、視線を一気に集めた。


「ん? 樹瀬良どうした?」


「人も増えたし、ここにいるのは元別勢力の人間だ。やはり鑑みて、家を借りるか購入したいと考えているんだけど、何かあるか?」


「えーっ! それなら、私も引っ越す!」


 エミリーも便乗してきた。宿屋を借りるのも方法だけど今回は違う。俺たちだけならいざ知らず、不特定多数がいるところは避けた方がいい。

 好意的な奴もいれば、悪意の塊みたいな奴も世の中いるからな……。ダリルは、顎をさすりながら天井を仰ぎ見る。


「ん〜。そうだな……。俺の知り合いを紹介しよう。

悪いようにはしないさ。ちょい待ってな」


 ダリルは紙に何かを書いて封筒に入れると、蝋で封をして俺に手渡す。


「何?」


「俺からの紹介状さ。刻印は俺のダリル個人のマークだ。こいつを渡すといい」


 知り合いの居場所を地図で教えてもらい、俺たちはこの場所を後にした。今改めて町を見渡すと、身につけている物では勢力の違いはわからない。行き交う人はまばらで、灰色の石畳は広がりが見渡せる。


 人通りが少なくなってきた路地に、目的地が見えてきた。赤い屋根でレンガ作りの二階建ての建物は、蔦植物に覆われて趣がある。扉は深みのある木製のドアがついており、壁にあるガラス窓から中が見えた。そのまま扉を引き開けると、備え付けられたベルが鳴る。


「いらっしゃい」


 俺は何かを間違ったのか、それとも相手が間違っているのかわからない。

高級なお店に来たのかと、少し狼狽えてしまった。


 細身の体に黒いスーツが映えすぎた、老齢で白髪の男性はまるで執事だ。オールバックにして、長い髪は後ろで結ってある。


「ダリルから、紹介を受けてきました。手紙を……」


 手紙を手渡すと両手で丁寧に受けとる。飾り棚の引き出しから、ペーペーナイフを取り出すと一瞬にして封を切った。

 

「ふむ、ふむ……」


 室内はバーカウンターで構成されていて、気の温もりが感じられる作りだ。それでいて、黒く塗装された木なりの家具たちは、高級感で統一されている。


 ボックス席が二つありその内の一つに案内された。


「家を買いたいです。一番安い物から平均的な物まで、どのぐらいの価格帯ですか?」


 何か意を汲み取った、そんな表情をしながら語る。


「申し遅れました。私は、ノバスチャンと申します。ダリルさんの大事な知人ですから、五つ紹介可能でございます」


「今の全財産は、ここにあるだけなんだ」


「ほう……。ダリルさんのいう通りな人みたいですね」


 奥に何かを取りに行ったかと思うと手にいくつか物を持ってきた。


「何ですか……?」


「鍵ですよ。今から見に行きましょうか。もちろん予算内に収まる物ですよ」


「ぜひ」


 すべてが徒歩圏内とのことで、ついていった。

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