第9話 次なる依頼:(2/2)

 俺たちは旅立って三日目にして、ようやく目的地付近についた。実質、往復六日間と考えて間違いない。中四日で、調査と調査レポートまとめが必要だ。


 目先に広がるのは、大森林と呼ぶに相応しい場所だ。今は小高い山の上から、眼下に広がる緑の絨毯と呼べる森林を眺めていた。地図はわかりやすくて、現地の目印もかなり目立つ。


 このまま下山して、真っ直ぐ北に進むと目的の調査地帯だ。


 思った以上に平和で、魔獣や盗賊もおらず、他勢力にも遭遇していない。こんなことはよくあるのかエミリーやリリーに聞くと、普通は遭遇するらしい。どこかよほど大物の魔獣がいて、皆恐れおおくて出てこないのかもしれない。ただ単に、運がいいのかもわからない。


 考えても仕方ないので、まずは進む。


 どんなに遅くても今日は、調査地点に到着したい。他には、軽く周囲を調べるぐらいはしておきたいと思う。そうしないと、かなり調べる必要な物が出てきたら、時間が足りなくなる。


 ”そんなこともあろうかと、ソフィーの調査ノート”


 このA4サイズほどもある大きさのノートに、書き込めとのことらしい。ひとまず優先順位が書いてあり、めぼしい物順番に探し物をすれば良いとのことだ。図解付きで説明があり、事前準備が優秀すぎて泣ける。マジこの人できる人だわーと思いながら読み進む。


 下山してから小一時間ほどで現地に到着。


 ほとんどが獣道を通って森の中を進んだ感じだ。この場所から少し開けてきており、遺跡にまとわりつく木々や蔓などから年月を感じさせる。


「さて、ここいら辺りでテントをはるか?」


「そうね……。平地だし、周囲より高くなっているから、雨でも大丈夫そうね。あとは、周りの木々を利用してバリケードを築けば良さそうね」


 エミリーは、サバイバル慣れしてそうだ……。もしかして、この世界だと当たり前なのかもしれない。


「それなら、私に任せてください。”異界召喚”で召喚した魔人にさせます」


「うわ! すごい便利ね。一家に一台ほしーわー」


「いやいやエミリー。もう仲間だって……」


 俺は突っ込むべきかわからないけど、一応いってみた。


「たしかにそうね。リリーお願い!」


「うん。任せて」


 思ったより、エミリーとリリーは問題なさそうだ。俺がヘタレすぎか?


 リリーが召喚したのは、灰色の魔人だ。額の辺りに一本ツノが拳大ぐらいの大きさで生えている。銀色に淡く光る様子は、何か魔力的な力を溜め込んでいそうな気配すら見せる。

 髪は青黒くオールバックにして、後ろに束ねている。視線だけで、獲物が死んでしまうのではないかと思えるほど、鋭い目つきだ。


 五メートルほどの巨大な背丈と、体を活用して木々を薙ぎ倒しはじめた。集めた木は、一箇所を残して残骸を積み立てふさぐ。出入り口は、簡単に侵入できないようにバリケードをおいた。


 ここまでするのに、たったの数時間程度で完成だ。作業用魔人なのか? だとしても有能すぎる。


 俺たちはこのあとテントをはって、周辺の探索だ。まだ日があるうちに調べておきたい。


――数刻後


 ソフィーの調査ノートに書かれた内容で、関係ありそうな物をエミリーが見つけた。


「キセラー! そのノート見せてー。何か怪しいのがあるー」


 手を振りながら声をかけるエミリーは、指差す仕草で訴えている。さっそく何かを見つけたみたいだ。なんせ金貨100枚の依頼だ。どうしたってハリキッてしまう。


 リリーと俺はエミリーのところに集まると、さっそくノートの説明書きと比較して見た。


「あたりだな!」


「エミリーさん、やりましたね!」


「やったー! 大発見?」


 俺は手のひらサイズのハニワなのか土偶なのか、何か人型の人形を眺めていた。俺がいた世界にあったのと少しは似ているけど、どこにでもありそうな物だ。


 今日はこの辺でテントに戻る。意外と日が落ちるは早い。


 夜はすぐに寝てしまい翌朝は早朝から探索だ。そのつもりだった。


 どうしてこうなる?


 三人で入っても余裕なテントなのに、俺たちは中央で川の字になって寝ている。さらに、両者の腕やら足やらが絡んでくる。しかも柔らかい双丘が張り付く。


 どんだけ、地獄なんだここは……。


 俺は悶々としながら、この夜を乗り切る必要があった。


 ……鎮まれ! 俺の足よ! 呪文に囚われたのか、真ん中の足が起き始めた。


 心頭滅却すれば、なんとかも図々しいだっけか?


 わけがわからなくなってきた……。


 ヒナミ……。お兄ちゃんは、まだ頑張れるぞ。


 俺は、テントの隙間から見える夜空に向けて、誓った。


――翌朝


「あれ? キセラ寝不足?」


 朝からエミリーは元気いっぱいだ。本当に知らないのか……。まあいいだろう。


「おはようございます」


 リリーも特段変わらない。まあいいか……。


 寝不足でふらふらになりながらも、森の中で朝のひんやりとした空気を吸い込み、目を覚ます。気を取り直してノートを見ると、重要なものはあと二つだ。


 文字が記された石版と石像に埋め込まれた宝玉だ。


 というか、宝玉は外して持ち帰るのってありなのか? なんだか、賽銭泥棒みたいでちょっとなと思ってしまう。


 ひとまず三人で、ノートに書かれた地図を頼りに進むと、探し物があった。そこには、腰の高さまである石でできた正方形の台座が、九個たち並ぶ。マス目状に置かれた台座の上には、黒光する黒曜石にも似た石版が六個存在した。


 そのうちの三つはおそらく、完全な形で残っており残りは破損している。残念ながら他の壊れた石版は、欠片ですら文字が読めないほど摩耗していた。

 

「この石版が目的の物っぽいな……」


「そうね、多分そうね。まだ入るかな……」


 エミリーは魔法袋を持ってきていた。この袋は、見かけ以上に物が入り重さも感じない。遺跡で見つけた採取の品は、この袋にすべて納めている。


 容量が心配な理由は、魔力量だ。袋の性能と当人の魔力が合わさって、はじめて有用な物になる。エミリーは自称”それほど”魔力は多くないとのことらしいけど……。どうやら入った様子だ。


「あとは残すところ、宝玉だよな?」


「ええ、そうね。でもこの宝玉がある位置は、少し厄介かも?」


 エミリーはノートを見つめて唸る。そこにリリーが顔を覗かせると、何か知っている様子


「ああー。私この場所知っています。以前一度付き添いできたことがあります。とても得意です」


「ええー。ナイスだよーリリー」


 エミリーはかなり嬉しそうだ。得意? とはどういうことだと思わず首をかしげる。行けばわかるとのことで、百聞は一見にしかずなんだろう。


――数刻後


「なるほど……。そういうことか」


 あたり一面黒光する奴らが蠢いている。埋めるだけいたらゾッとする。まさしく、ホラーだ。例のアレかと思いきや、よくよく見ると違った。


 ――クワガタだ。


 大クワガタサイズの奴らが地面にも壁にも天井にもみっしりといる。コの字にかたどる石の壁があたりを囲む。そこの中で二体中央に並んでたっていた。直立不動の姿勢で立ち姿の石像は、確かに目の位置に二体ともある。片方は右眼にもう片方は左目だけにという具合だ。


「リリー行きます!」


「え?」


 突然、両腕をハの字に後方へ広げ、そのまま勢いよく走っていく。俺はてっきり何か召喚するかと思ったら、生身で突撃しやがった。


 なんて奴なんだ……。突拍子もなくて、驚きっぱなしだ。


 お構いなしに突き進むと、まずは左手にいる石像の目を目掛けてナイフを目尻に突き刺した。いつの間に持ってきていたんだか、用意周到だ。簡単に外れたようで、もう一体も同じくとった。


「終わりました!」


 満面の笑みで戻ってくると、手に握られた親指の爪サイズの宝玉をエミリーに渡す。


 ひとまず気色の悪いこの場所から、一旦離れる。


「リリーありがとー。私アレは、どうもダメで……」


「任せてください! 苦手な物はほとんど無いです」


 思わず顔がゆるむほど、とびっきりの笑顔を見せてくる。あの嬉しそうな顔を見ていると、思わず妹を思い出してしまう。


 早く蘇生してあげないとな……。


 女神の雫を手に入れるべく、俺ももっと奮闘しなくてはなと思う日だった。

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