第10話 貢献度

 俺たちは、目的の物を予想より順調に手に入れて、4日間の滞在が一日で済んだ。


 今帰路についている。


――三日後


 自勢力圏に戻り、今はギルドにいる。予定より三日も早い帰還だ。


「シャナさん、戻りました! 依頼の品です」


 エミリーは、受付にいるシャナに魔法袋を手渡す。あの袋はギルドから借り受けた物だった。この時間は昼近くだったので、ほとんど誰もいない。普段は皆、早朝に依頼をとって出かけてしまうからだ。


「随分早かったのね。はい、受け取りました。中身を確認するから一緒に会議室へいいかしら?」


「わかりました。皆いこー」


「おう」


「はい」


 俺たちはシャナに連れられて、会議室に向かう。この習慣は、受け取り手と受け渡し手の認識の違いをなくすためだ。受け取った後に、足りないとなった場合、第三者の証明が必要になるからだ。割としっかりしている。こんな状況が生まれたのも、事故が多かったんだろうなとも思う。

 

 扉を開けると、パー研のソフィーが露出過多な出で立ちで待ち構えていた。目が離せない……。マズイ! マズすぎる! どうしたって見てしまうのは、透け透けなシャツに張り付く双丘にうっすらと桜色が浮かぶ。


「ヤッホー! 早かったね! さすがトリックスターだね」


 自身の姿などお構いなしに、普通に声をかけてきた。なんなんだこの女は……。


「トリックスター? なんですかその名前?」


 唐突に、好き勝手決めたと思われるあだ名で、俺は呼ばれたみたいだ。姿格好だけでなく、あだ名も合わせて内心面食らう。


「うん? 君のことね。まさに秩序の破壊者って感じだよ」


「はあ……。ありがとうございます」


 どう返していいかわからないので、その場しのぎ的なお礼をいうしかない。


「なんだ〜。気がいないね。こういう物は慣れだよ?」


「いえ、なんかめちゃ近いんですけど」


 この人はなんでこんな近いんだ? ソファーに座る俺の太ももに腰掛けてくる。しかもシャツのボタンを上から4つも外している……。


 俺はからかい安いのだろうか? もしくは、ソフィーはただの露出狂の”HENTAI”かもしれない。シャツの生地から浮き出る突起を思わず注視し、吸い付きたくなる衝動を抑えながら、視線をずらす。


「そうかい? 私は追加の依頼をしにきたんだけどね。君たちが遠くで見えたから、先にここで待たせてもらったんだよ」


 妙に押し付けてくる。この人はやっぱ”HENTAI”さんなんだー。


「ちょっ、目のやりばに困るんですけど……」


 なんというか、この人なんでこんな透けた物一枚だけなんだ? 主張する双丘の頂上から、思わず目が離せなくなる。もうまさに、俗にいう”HENTAI”だ……。


「そうか……。気になるか?」


「えー!?」


 どうしてこの人は、公衆の面前でこんなことができるんだ? 反対に開いて見せてきた。


 当然やりとりが続くわけも平和な状態であることもなく、ソフィーはシャナに、ずるずると引っ張られていく。そんな状態でも笑顔で俺に手をふる姿は、どこか逞しくさえ感じた。 


「マスターは、あのような雰囲気がお好みですか?」


「レン? 何、鼻の下伸ばしていたのよ? だらしない……」


「レンさんは、少し気をつけた方がいいかもしれないですね」


 なんだ? 俺が何したっていうんだ? リリーもエミリーもシャナですら詰め寄る。


「依頼をさ、ほら依頼……」


 シャナのもつ依頼表に視線を向けて、次の会話を促した。いち早く気がついたシャナは、咳払いをすると改めて座り直し、依頼の説明を始める。


 先に今回の依頼の精算をしたかったけど、流れ的にこうなった。


 説明を聞く分にはそれほど難しい要件ではない。名前だけではよくわからないけど、その特徴ある魔獣を倒して、体内にある特別な魔石を仕入れることだ。体の他の部位については、ギルドで買い取るとのことで説明を受けた。


 どうやら問題はその場所のようだ。


「えー! またチョキ勢力なの?」


 エミリーまたかという感じで、シャナをみる。場所についてはなんともいえず、両肩をすくい上げて見せる。なんともならないと、意思表示をシャナはする。

 

 再び敵対勢力のところに舞い戻るわけだ。対峙して勝利したとはいえ、まだ一回だけだ。どうしたって不安は残る。


 心配は、当然だと思う。


 しかも俺は、戦闘経験がめちゃクチャに浅い。片手で足りるぐらいで、自身の能力に頼りっきりな臨機応変とは程遠い存在だ。


 一つだけ可能性として大きいのは、リリーの存在だ。チョキの連中にどの程度広まっているかはわからない。あの戦闘狂がいるなら関わらないと、考える連中も恐らくは多いと予測できる。


 当時、リリーがチョキ勢力にいたころは、味方ですら何の躊躇もなく抹殺する危険人物だったからだ。


 そんな奴が現れた日には、例え勝てると思ってもどこで反撃されるかわからない。こんな危険人物とは、尚更関わらない方がいいと思ってしまうぐらいだ。


「リリーがいるなら大丈夫じゃないか?」


 俺はシャナの助け舟というわけではないけど、話に入ってみる。


「う〜ん。そうね……」


 腕を組んで、何か考えている素振りを、エミリーは見せていた。


「何か気になるのか?」


「キセラの力は信じられるわ。困ったことに、相手がとんでもない数きたら、対処できるかなってね」


「そういうことなら大丈夫です。私には範囲殲滅の魔神が呼べます」


 どこか自信のある力強い視線だ。


「もしや、あの時のか? イフリート?」


「はい。マスターには遠く及びませんけど、それでも広範囲を火炎の海に、変えられます」


「大丈夫そうじゃないか? エミリーどうだ?」


「んーそうね……。やって見なきゃわからないか……]


 突然、渋々納得した姿を見せた。エミリーの視線を追うと、机の上に置かれた依頼書に移る。よく見ると、300金貨と報酬が記されている。


 さてはこの金額を見て、態度を変えたなと思う物の、あえてそこは言わない。


「それでは受けてくださるのですか? エミリーさん」


 エミリー・トワイライトのチームはエミリーの意思で決まる。彼女がYESといえばYESなのだ。


「うん、いいよ。やってみる。キセラもリリーもいるし、なんとかなりそうな予感」


「そうね。そこの二人がいれば、最悪の事態になっても逃げてこられそうだし」


 シャナもどうやら安心して胸を撫で下ろしている。そりゃそーだ。ソフィーのパー研は、ギルドにとっても大のお得意さんだ。可能な限り成功率を上げたい。


 あとは依頼受理のサインだけして、今回の依頼の精算だ。報酬の金貨は、予定通り100枚だ。


 さてと、今回の貢献度はこんな感じになる。


 【貢献一覧】

 案件名:クレタ探索

 成果:必須事項三種全て回収

・人形 x 1体

・石版 x 三枚

・宝玉 x 二個

 納期:締め切り三日前納品


 トワイライトチーム 合計36:累計1,046

エミリー 合計:12(累計22)

樹瀬良 合計:12(累計1,012)

   リリー 合計:12(累計12)

個人内訳(五段階評価)

エミリー

合計:12

 無血:1:流血なしに貢献

 依存:1:作戦の成否は100%依存

 対象:5:チョキ勢力

 成果:5:依頼品全て収穫

  特別褒賞:0

 特になし

樹瀬良

合計:12

 無血:1:流血なしに貢献

 依存:1:作戦の成否は100%依存

 対象:5:チョキ勢力

 成果:5:依頼品全て収穫

  特別褒賞:0

 特になし

リリー

合計:12

 無血:1:流血なしに貢献

 依存:1:作戦の成否は100%依存

 対象:5:チョキ勢力

 成果:5:依頼品全て収穫 

  特別褒賞:0


 ここからは、貢献度だ。今回は手のひらに乗るぐらいの小さな物を一袋だ。はちきれんばかりの状態で、女神の雫が詰まっている。


「わあ! 結構たくさんあるね!」


 思いの他、エミリーは大喜びだ。普通だと、予定の内容を予定の通りに納品の場合、ここまではもらえないらしい。今回の要因は、早めの納期とお得意様の案件だからだそうだ。


 いいね! やっぱ、お得意さんの案件は美味しい。


 ところが、誰でも受けられるかといったらそうではなく、そこはギルド側で選出しているのだそうだ。成功率が下がれば、信頼を失う。こうなるとギルドを仲介せずにやり始めてしまう。


 手間暇はかかるにせよ、自分たちでコントロールもできるし報酬設定も自在だ。ススメの涙ほどの時もあれば、屋敷が買えるほどの額の時もある。不安定な報酬をやりだすと、秩序が乱れまくるので、あえてしない。


 ギルドが仲介に入り、円滑にしていくのだ。もちろん手数料は差し引く。


 秩序は安定・仕事も増える・世間もギルドも潤い依頼者も喜ぶ。こうなることが、ベストな図式だ。安定を維持継続するため、ギルドは日々苦労をしているわけだ。


 俺たちは一日だけ休憩してから、向かうことに決めた。


「久しぶりに我が家に戻るかー」


「ベッドで寝られるねー」


「マスターのベッドで寝たい……」


 うは! この娘なんだか爆弾発言していない? していない?


 俺は妙な汗をかきながら、三人で屋敷に戻った。

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