第11話 バトルメイド


「ん〜。何か大事なことを忘れているような……」


 俺は、屋敷に戻る帰路で思い起こそうとしていた。


「ん? メイドのこと?」


 エミリーは、しっかり覚えていてくれたみたいだ。家の購入と同時にノバスチャンに頼んだやつだ。

トワイライトチームが帰還したのは知らないはずなので、今日は気にしなくても良いだろう。


 まさか、帰宅することを事前に察知していたら、一種の恐ろしさを感じる。翌日にでも店にいくことにした。パー研の人目をはばからないソフィーの誘惑に、俺はたじたじだった。


「あれ? あ……」


 俺は、まさかとは思ったことが起きていて、思わず固まる。


「あー……」


 エミリーもどこか唖然としている。


「マスターの行動を察知するとはさすがです」


 唯一、ひとりだけ反応が違った。関心までしている。


 俺たちの視線は、家の門前で待ち構えている者たちに釘付けだった。ノバスチャンとメイドらしい者が合わせて4名がおり、まだ遠目だけど俺の年齢に近い雰囲気にも見える。


 背丈は俺と同じぐらいで、全員種族が違うように見える。共通しているのは女性というだけだ。

あえて付け加えるなら、全員豊かな双丘を服の下から主張しあっている。あとは三人とも、誰もが振り返ってしまうほどの美貌の持ち主だ。


 見かけは、さておき……。


 少しおかしい感じがするのは、三名とも”戦い慣れ”しているように見える。メイドというよりは、第一線で魔獣を狩る者にすら見える。このご時世は、皆稼ぐために魔獣狩りは日常茶飯事だ。それでもこのメイドたちはどこか、他と違う何かを持っている気がしてならない。


 「お待ちしておりました。キセラさま」


 ノバスチャンは丁寧な口調と、物腰で俺たちを迎えてくれた。この情報の仕入れの速さには舌を巻く。メイドたちもお辞儀をして、俺たちを迎えてくれた。


「キセラさま。お初にお目にかかります。クレナイです」


「シノブです!」


「トモエ……です」


 なんとも見た目は和からは縁遠いのに、随分と和風な名前の三人だ。揃いも揃って、示し合わせたかのように、和に統一された名前で面白い。


 どういうことだ? 本当に偶然なのか? 疑問が過ぎる。


「ああ。俺、キセラよろしく。そこにいるのが、トワイライトチームの長、エミリーと隣にいるのが――」


「キセラさまの筆頭愛人のリリーでございます。キセラさまの一人目のややこは私にて――」


 雄弁に何か語りはじめたリリーの口を急いで抑える。なんだ? 何? この娘、何言っちゃうの?


「ちょいまった! いつから俺の愛人なんだ?」


「マスターとあの戦場で、愛し合った時ですわ」


 どうしてそこで、うっとりした目つきになるんだ? しかも崇めるような顔つきは止めてくれー!

 

「戦場?」


「はい。あの戦いで私、果てましたの……」


 この時メイドたちの目が、興味津々でこちらを見ている。そしてエミリーはなぜか超不機嫌づらに……。

なんだ? 一体全体、なんなんだー!


「おいおい、ちょっと待て待て。他の人が聞いたら誤解するだろ? その言い方だと?」


 そこでノバスチャンが知ってか知らぬか、助け船を出してくれた。


「やはり、チョキの戦闘狂を倒しただけありますな。さすが、英雄殿です。どんな戦いだったのかお聞きしたいところです。どうでしょう、これからこのまま館内を案内ついでに、お話されて見てはいかがでしょう?」


 もう乗るしかない。乗っからせてもらうぜ、ノバスチャン!


「そうしよう。すぐに依頼で旅立ったから、まだ何もしていなんだよね」


「家のことでしたら、私たちにお任せください。主殿がゆっくりとくつろげるよう最大限の努力を惜しみません」


 クレナイはそういうと、深くお辞儀をした。合わせて二人もお辞儀をする。

ようやく俺はノバスチャンのおかげで、被害を未然に防げて、内心安堵している。

ノバスチャンのわかっていますよ的なウインクは、なんだ? なんなんだー!


 エミリーは俺に近寄ると二の腕をつねる。


「痛っ。 どうしたんだ? エミリー」


「なんでもない……」


 どこか膨れっ面だ。なんだか微笑ましい可愛らしさがある。比べてリリーは……。なんで、ここで舌なめずりをするんだ? 完全に病んでいるとしか思えないほどだ。


 玄関を開けて入ると、ノバスチャンは案内を終えたとのことで、お給金の支払いについて再確認したのち、店に戻っていく。契約書は手元にあり、あとは主の血を垂らして完了だ。


 音なると俺の血かと思い、それぞれの契約書に血をたらし完了だ。


 まずは先に整える必要もあるかと思い、100金貨を手渡す。エミリーとは相談ずみでもちろんOKだ。


「メイド長? でいいのかなクレナイに100金貨渡しておく」


 するとメイド三人は、驚きの表情をこちらに向けてきた。そんな驚くことなのかと不思議に思いながら話を続ける。


「最初の各自の給金10金貨を三人分で30金貨。あとクレナイは長なので、プラス10金貨上乗せる。もちろんシノブもトモエも、頑張りに応じて検討するからそのつもりで」


 皆元気よく、返事をしてきた。お金の力は偉大だ。


「残りは足りない家財道や食材、修繕などに割り当ててくれ。足りなくなったら、また言ってくれ。金の管理、任せたよ」


「はい。キセラさま。はじめてなのに、ここまでして頂いて信用で持って尽くします」


 三人とも深々とお辞儀をしてきた。家を任せるんだ、それなりに信用を示して置かないとな。ある程度渡しておけば、人となりがわかりそうだし何より、目先のお金の扱いで今後がわかる。また30日後に給金は渡すことを話して、一旦家は任せて見た。


 なんでかというと、睡魔が辛い。


「エミリー、リリーすまない。俺先に寝るなー」


「うん。わかったわ。疲れたもんね。キセラおやすみ」


「ああ。おやすみ」


 俺は部屋に入るとベッドと椅子とソファーしかおいていない、だだっ広い部屋に入った。

衣類を適当に脱ぎ捨てて、ベッドに潜り込むと何か手に当たった。


「ん? なんだ?」


 シーツをひっくり返すと、そこにはなぜか頬を赤くして見上げるようにして俺を見つめるリリーがいた。

いつの間にきたんんだ? なんだこの異常なほどの速さは……。俺は驚愕してしまう。


「マスターお待ちしておりました。今宵契りを交わしませう……」


 生まれたままの姿でいるリリーは、俺ににじり寄ってきた。なんというか、据え膳食わねば何とやらなのだろうか……。白く透き通る肌に豊かな双丘が主張する。桜色の先端が俺を誘うようだ。思わず唾を飲み込む音が響く。


「ちょっと待ったー! リリー! あなたそこで何しているの?」


 何かいきなり部屋を開けて、飛び込んでくる者がいた。さすが危機管理能力の高い? エミリーだ。

シーツをめくり上げて、瞬間的に衣類を着せたかと思うと、リリーの腕を引っ張る。


「うわ!」


 リリーはどこから声を出したのか、すごいダミ声で驚く。まるで天敵が来たかのような顔つきだ。


「キセラ……。その様子なら……大丈夫そうね。ようやく安心して、寝られるわね。じゃあね、おやすみ」


「ああ……。おやすみ」


「マスターとの契りが……」


「リリーはこっち! 私のところに来なさい」


「マ・マスター……」


 エミリーに腕を引っ張られ、体ごと引きずられていく。もちろん衣類は着せてある。リリーはまるでこの世の終わりみたいな表情をこちらに向けてくる。


 なんだか無茶苦茶行動力ある娘だよな。あのリリーって娘は。だからこそ、その向かう方向性が戦闘になるとヤンデレ仕様に変貌するんだろうか。なんだかとんでもない娘に好かれたもんだな。俺はどこか大きなため息をついてしまう。


 そういや、義理の妹も病んでいた気もしなくはないか。蘇生した暁にはダブルヤンデレになるのか?


 俺はもう一度大きなため息をついてしまう。なんだか疲れたな。俺はようやく一人になったこの部屋のベッドに飛び込んだ。

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