第12話 依頼、再びチョキ勢力圏へ


 翌朝俺は窓の外に広がる庭で、繰り返し模擬戦をする、メイドたちをみた。あそこにいるのは、シノブとトモエだ。

 両者とも小太刀を構えて、接近戦を挑む。朝日が汗と刃を反射しさながら銀色の狂乱と言える輝きを放っていた。


「綺麗だ……」


 思わず、声に漏らしてしまうほど体幹がしっかりしているように見えて、動きや技にもキレがある。

しかも、実践で鍛え抜かれた物に見えてしまう。


「――ありがとうございます」


 不意に耳元で何故かお礼が響く。すると頬を赤らめて、全身をくねらせながらよりそうリリーがいる。


「なぜ? ここに?」


「マスターが朝から綺麗だなんて褒めるからですよ」


 俺は戦慄が走った。ヤンデレの凄さなのかと。気配を一切させずに気がつくと、隣にいる状況。まさに、暗殺者向きではないだろうかとも思う。


 ここで気がついた事がもう一つあった。


「その格好……。ヤバイぞ……」


「え? そんなによいですか? 仰って頂いたので今からします?」


 なんだ? なんでこうなるんだ? ヤンデレちょっと怖いぞ。


「ちょっ! どうしてそうなるんだ? まて! まて!」


 レースのようなほとんど透けた状態の衣類は、否応なく俺の視線を一カ所に釘付けする。


 いつの間にかいたのか、先ほどまで訓練していたトモエとシノブがリリーの背後におり、左右からそれぞれで腕をつかむと、二人の力で引きずられていく。


 俺も男だ。あのような美少女に言い寄られたら、正直どうなるかなんて、わかりきったことだ。さらに、子供が出来た日には大変なことになる。


 エミリーのこともあるし、おいそれとは手を出せない。今は、妹の蘇生を優先したい。


 はあ……。


 なんだか、大変な人が身近にいると、ため息が絶えない。そうした中で、今回の二人のメイドには、感謝しても仕切れない。俺は身支度だけ行い、いつでも出発できる状態にして、1階に向かう。


 今回の依頼はチョキの勢力圏といえど、実は俺にとっては二回目の場所だ。前回リリーと戦ったカルダから、ほど近い場所にある。そのため今回は、ギルドの好意で転送ゲートを行き帰りの両方とも利用できるので、大幅に旅程が短縮できる。


 討伐対象の魔獣は、ミノタウロスで人身牛頭の筋肉の化け物だ。身の丈、約五メートルと聞く。体内には他の魔獣とは異なり、紫色をした魔石が存在するという。今回は、最低三個以上を仕入れてきて欲しいとのことだ。


 どのぐらい生息していて、単騎なのか複数でいるのかも不明だ。単に、対象の”魔石が必要だからとってきて欲しい”だけの要望で、他の情報はない。だからこそ高いのと、四個目からはボーナスがつく。


 破格なようでいて、難易度はかなり高い。


 敵対勢力圏であることと、対象その物の強さだ。魔獣グレードを上から順番に数えると、上から四番目の強さのグレードCだ。一番上がSで次にA、後はアルファベット順番になり、最後はEとなる。ここまでは教えてもらった通りだ。そのグレードが体感的に、どの程度の強さなのか、検討がつかない。


 俺は、戦闘経験だけでなく、討伐経験も圧倒的に少ない。


 俺とリリーの力の強さは理解されている物の、ギルドはよく許諾したと思う。やはり力押しでいけそうなのと、リリーの存在が大きいのかもしれない。


 それに、ギルドにとってはスポンサーとして大きい存在のパー研の案件だからだろう。多少リスクがあっても、ゴリ押しでいけるなら、やらせるつもりでいたんだろうなとボンヤリ思っていた。


 いわゆる大人の事情という物もあるんだろう……。

 

 1階のソファーに腰掛けてボンヤリと考えごとをしていると、エミリーもリリーも準備ができた様子だ。

リクエストはしていなかった朝食が用意されているとのことで、リビングに向かう。パンと温かいスープが身に沁みる。


 素早く済ませたあとは、いよいよ出発だ。俺たち三人はギルドへ向かう。


 今回わざわざ、ダリルが出迎えてくれた。ちょうど同じくカルダに用事があるとのことで、そこまでは同行だ。


「ようお前ら、しっかり飯は食ったか? 今回はCのミノだって? あいつは単騎だから、なんとかなるだろうな……。けどな、斧を持っている奴がいたら慎重にな! そいつは他の奴と、頭の中が違う」


 変わらず、気さくな人だ。色々と情報も教えてくれる。


「魔獣というよりは、武人という意味での頭なのか?」


「おっキセラよくわかったな? その通りだ。頭を使って攻撃も回避もするし、騙し打ちやフェイントもする」


 少し想定外の敵であることがわかった。道具を使えるぐらいだ、その程度はやはりこなすんだろうなとも思う。


「私も頑張ります!」


「おっ! やる気あるな。ただ気をつけてくれよ? 恐らくリリーの火力だと魔石まで消し炭にしそうだからな。もちろん、キセラもだぞ」


 確かにダリルのいう通りだ。それでは、依頼がこなせない……。


(使え……)


「ん? ダリル今何かいったか?」


「いいや。もちろんキセラもといった以外、何も? どうした?」


 なんだ今の声は……。


「悪い。なんでもない気のせいだ」


「ん? そうか。気をつけてな。エミリーも今回は、力加減、気をつけるんだぞ」


 そういえばエミリーの力はまだ知らなかった。どんな力を持っているんだろうか……。


「はーい。大丈夫よ任せて」


 こうして俺たちは、ギルドの用意したゲートにダリルと共に向かった。

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