第13話 人身牛頭魔獣

 エミリーはどんな力を持っているのだろう……。


 転移ゲートで現地に到着後、唐突に気になりはじめた。


 俺たちは、先日解放したカルダを経由して、目的の地へ向かう。ダリルとはここでお別れだ。


 俺の力とリリーの力は、すでに知られている。具体的にエミリーがどんな力の持ち主かはまだ聞いていなかった。特に何か隠しているわけでもないし、本人に直接聞いた方が早そうだ。


「エミリー。ちょっと能力について聞いても良い?」


「ん? いいよ。そういえば教えていなかったもんね。ごめんごめん」


 うっかりしていましたと言った風だ。心配していたような、ネガティブなことでなくてよかったと、少しは安堵する。


「もしかして、戦闘系ではないってやつか?」


「うん。そう。感応系かな?」


「何かを感じとるとか? なんか?」


「――そうね。やってみた方が早いよね。サイコ召喚!」


 慎ましくも何かがエミリーを光の速さのごとく直撃すると、彼女を中心に何かが広がった。波動といえばいいのか、よくわからない物だ。


(もしもーし! 聞こえる?)


「ん? 頭の中でエミリーの声が……」


「マスター! 私もです!」


 唐突に頭の中に直接声が響いいてきた。耳で聞くのと何か感覚が異なる。


(聞こえた? テレパシー。今みんなも繋げるから、双方で口に出さずに、念話みたいなことができるよ)


(こ、こうか? エミリー、リリー聞こえるか?)


(マスター私も聞こえます!)


(大丈夫そうね。この力を使うと、三人でほとんど距離関係なく、会話ができるわ)


(すごいな……連携によって戦略がかなり変わるな)


(それでもね……。圧倒的な力には叶わないよ……)


 自嘲気味にエミリーはいう。

 本当にそうだろうか。人数制限はわからない物の距離に関係なく、リアルタイムで意思疎通が可能なことは、幅広い戦術が生み出せる。


 恐らくは、今までその力を余す所なく、活用できる人がいなかったのかもしれない。他に、通信の重要性をあまり理解していない感じもする。だからと言って俺が活用できるかはまた、やってみないと有用性は証明できない気がする。口で伝えても実感がなければ、絵空事にしかならない。


 ただし視点を変えれば、遠方の安全な場所に待機していて、何もしていない錯覚に陥るのは、仕方ないかもしれない。


 現場の戦闘と通信オペレーターでは役割が違う。皆がそれぞれの役割に応じて動くことが成功につながる。現実も通信オペレーターが現場の戦闘で、銃を握らないからと言って避難されることもない。


 それぞれが自らの役割を果たしているに過ぎない。


 今のこの世界情勢なら、ある意味仕方ないかもしれないとも思う。目先で繰り広げられる力が圧倒的すぎるからだ。


 エミリーの力の有用性を理解している人は、どれぐらいいるんだろうか。ダリルがいるギルド側でもその素振りは見せないし、他の人も無関心なようだ。はっきりしていることは、皆通信の重要性を理解していないし、活用する機会がなかったのだろう。そうであるなら、今後このトワイライトチームの依頼成功率は、かなり上がるに違いない。


 それに、物理的な破壊に目を向けがちだけど、精神破壊に最強なのはエミリーのような気がする。今回、これから試すことでハッキリしていくだろう。かなり楽しみである。


 ボンヤリと考察をしてしまったけど、他のメンバーに伝えるならこの一言に尽きる。


(この力で世界が変わるぞ! エミリー期待してくれ)


(え? どういうこと?)


(マスターすごいです)


 俺はこれからの依頼で行う、牛頭狩りでの有用性を、エミリーとリリーに説明をした。恐らく俺の力も相手に合わせて種類が変化することから、今回対峙する魔獣のもつ何らかのスキルの種類によって変わる。


 現地に着くまで俺は、今回の予測しうる内容を話して、作戦を提案した。作戦の成否は、エミリーのテレパシーの能力が欠かせない。


――作戦の説明を終えると皆おどいていた。


 まだ、念話の状態は維持している。再召喚するより、維持していた方が効率的らしい。エミリーはそんな使い方があるなんてと驚く一方、かなり興味が沸いたようでやる気に満ちている。俺たちは訓練がてら、念話をしながら足を進めていたため、思ったより早く牛頭の生息領域に入った。


 少し変わった地形で、この生息領域の外側を囲むように大森林が広がる。その木々に囲まれるような形でこの草原地帯が存在する。遠目に何か動きが見えるさっそくお出ましのようだ。


 ところどこに、背丈二メートル以上の岩が転がっている。その岩に身を隠しながら、様子を見つつ単体撃破を狙う。


 まずは一体目を見つけた。身の丈五メートルで筋骨隆々なのでより大きく見える。特に手に獲物は持っていない。初の相手にしてはあつらえ向きだ。


 ――さて、料理の開始と行こうか。


(エミリー作戦通りだ。まずは実験も兼ねてみるぞ! さっそく試してみてくれ)


 三人揃って岩陰から牛頭を見守る。小声で話さずとも、この念話を通じて、普通に会話可能なことがいい。


(はーい! いっくよー! とその前に、一樹とリリーの方は下げないとだね。危ない危ない)


(ああ頼む。ゆっくりで大丈夫だからな。焦らずに行こう)


(エミリーさん期待です!)


 エミリーはここで深呼吸をして、もう一度はじめた。


(コラー! 聞こえるかー! コラー!)


「ブッホゥ!」


 牛頭は体を垂直に飛び跳ねさせて、全身で驚いている。そりゃそうだろう。未知の意思ある言語が突然頭の中に届けば驚くどころの騒ぎじゃない。


 予想通り周りを見回して、音源を探している。ところがいくら探しても見つかるはずもない。無駄な動きなんだな。エミリーは唾を飲み込み再び試す。


(コラー! 言葉がわかるなら右腕上げろー!)


「ブッホゥ! ハァハァハァハァ……」


 さらに驚きで周囲を確認している。どうやら”理解させないよう”話すと音にだけに反応している様子だ。ただ、知能があるなら、その声が意図的なのかはある程度、察知はできるだろう。よし、次の段階に行ける。


(エミリー、今ので確認が取れたから、次の段階だ。最大音量で、奴にだけ聞こえるようにして、何か言い続けてくれ)


(うん! わかった! やってみる!)


 ここからはエミリーの独演会だ。罵声を最大音量で浴びせ続けて数分、大きな地響きをたてて倒れてしまう。

近寄り確認すると、こと切れてた。


「エミリーやったな!」


「私が倒せたんだね! やったー!」


 俺がチームに加入した時のように、飛び跳ねながら喜ぶ。どんな物でも”意思ある力”は脅威なことが、今回で示されたわけだ。まずは成功したのでこのまま遺体は、ギルドから借りた魔法袋に収納する。俺の方が、魔力は圧倒的に多いらしいので、今回は俺が袋を持ち、収納をする番になる。


 まずは一体目、ノルマ完了まで残り二体だ。

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