第14話 独演会

 思った成果を出した俺たちは、続いて二体目も同様の手口で可能性を探る。次の方法はある意味、疑問への答え合わせみたいなものだ。言語能力がなくとも、相手が理解可能な感覚で言葉を投げかけると、どんな反応を示すのかその確認だ。


 狙いはいくつかある。


 良くも悪くも神の声と勘違いをすることで、こちらの意に沿って動くまたは動かすこと。コミュニケーションを取ることで油断させること。大きくはこの二つだ。


 二体目の牛頭は、奥までいった先にいた。見かけは変わらなく、今回も単独行動で手に獲物はない。


 一つだけ気になることはあった。言語能力がない者たちに、神の概念がそもそも通ずるのかと言うことだ。


 俺たちは再び大きな岩を壁にして、様子を伺う。


「エミリー準備はいいか?」


 少し緊張した面持ちだ。特に気を利かせる言葉は、残念ながら今はない。


「うん! いつでも大丈夫だよ!」


「はじめてくれ」


 エミリーの独演会が始まった。


(我は神だ。言葉の意味がわかるなら跪け!)

 

「ブッモォー! ブッモォー!」


(我は神だ。言葉の意味がわかるならしゃがめ!)


「ブッモォー! ブッモォー!」


 さらに呼びかけは続き、何度か呼びかけを試しても意思の疎通が難しい。知能が低過ぎて、驚かす以外の用途が、今のところ無い状態だ。手に獲物を持たない牛頭については、ある程度がわかり、あとは大音量にしてショック死をさせた。


 つごう、二体目の回収にも成功だ。


 比較的近くにいた三体目も初っ端から、大音量で攻め立てショック死をさせる。予想より早くノルマは達成したので、獲物もちに通用するのか探しはじめた。


 ――探して、1時間が経過。


 まったく見つからない。獲物もちは個体数が少ないのか、探し続けても見つからない。仕方がないので探すついでに、通常の牛頭は大音量攻撃で、仕留めていく。


 数にして9体目を倒した頃、ようやく手に斧をもった獲物もちに遭遇できた。


 さすがに他の牛頭とは、一味違う風貌と雰囲気を兼ね備えていた。どこで手に入れたのか、腰には何の魔獣か知らない皮を巻いている。手には鉄塊と呼べる、金属をくくりつけただけのシンプルな、片手斧風の武器をもつ。恐らくは、知性がなければ、できないことだろう。ここはゆっくりと慎重に、ことを進めた方が良さそうだ。


「エミリー。今度は、知性もありそうだ。ゆっくりで大丈夫だからな」


「うん。わかった」


「エミリーさん頑張ってー!」


 三者三様、固唾を呑む。ただ十体目となればエミリーもさすがに慣れてきたのか、威風堂々としている


(汝に問う、我の声に耳を傾けるのであるならその足、大地に跪け)


「ブゥモ?」


 辺りを見回す。当然誰もいるわけでもないことは明白で、不思議そうにしている。少しは今までの牛頭と違う素振りを見せる。


(汝に再び問う、我の声に耳を傾けるのであるならその足、大地に跪け)


「ブゥモ? ブォォモ?!」


 すると今度は、跪いた。知性があれば、こうしたことも可能なのだと、はじめて知る。そこに、たまたまもう一体の斧持ちが現れる。さっそく試しに、言う事を聞いた方に虚言を吹き込み、行動を確認してみた。


「エミリー、もう一体が悪意を抱いていることと、先手必勝であることを伝えてみるのはどうだ?」


「やってみるわ」


(我の呼びかけに応えた褒美として、一つ助言をしよう。その目の前の者は、汝に殺意を抱いている。ヤルなら背を向けている今が、最大の機会だと思え)


「ブゥモー! ブッホ! ブッホ! ブッホ!」


 牛頭は何かに触れて激昂したのか、背後から思いっきり斧を背中に突き立て、何度も何度も力強く、激しく切り刻む。相手がぐったりしたところで、返り血で真っ赤になった姿のまま、雄叫びをあげていた。我勝利し、ここにありと言わんばかりだ。 


(汝の悲劇は、回避できた。だが、油断は禁物だ。北から多くの悪意が、汝をみている。気をつけよ。また、どこかで声をかけるだろう。しばしの別れだ……)


「ブゥモー! ブゥモー!」


 再び跪くと、仕留めた奴の斧を手にして、両手に掲げて叫ぶ。一呼吸おいて立ち上がると、猛烈な勢いで北へ向かっていく。ある意味、かなり素直に従ってくれたおかげで、今回誘導は成功した。


 相手次第ではあるけれど、かなり有効な手段なことがわかったと同時に、戦慄を覚えた。信心深い者なら、180度考えを変えてしまう恐れがあるからだ。そのため、他言無用にした方が良さそうに思う。ただ報告の手前、ダリルとシャナの二名だけには、信用が置けるので話しても良さそうだ。そこは、今までの付き合いの長いエミリーが、一番よくわかっているはずだ。


 このことはエミリーもリリーも同様の考えで、はじめて自分の能力の危険性に気がついた。そうした驚きと同時に、強い意思で戦える証にもなった。


 牛頭が走り去った後に俺たちは、倒された牛頭の魔石を確認すると、破損もなく無事だったことに安堵する。遺体ごと収納して、合わせて十体分の依頼品を集めたのが今回の成果だ。今回はエミリーの圧倒的な貢献だ。俺とリリーは何もしていない。

当初の出発前の予定とは、いい意味で大違いだ。


 依頼を早期に完遂したので、このままカルダを経由してギルドに戻ることにした。

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