第18話 シェイプシフター

「おやおや、手厳しい。相応の能力をお持ちなのかな?」


 何か思考を切り替え、随分あっさりと認めた物だ。グライドはアルデハイトに視線を送ると不可視になっていた人物が現れた。どちらもアルデハイトと同じ制服をきた女性だった。顔は覆面をかぶっていて見えない。


「おかしいな……」


 俺は思わず出かかった言葉を飲み込んだ。俺の前にいるグライドと左手前方にいる者アルデハイトは、人でないことを言いそうになった。今はまだ、いうタイミングではない気がしたからだ。


(エミリー、グライドとアルデハイトは人じゃない。人の皮を被った化け物だ)


(え? どういうこと)


(視覚を共有できないのが、残念だけどな。みたままをいうと、のっぺりとした顔にまさに人の皮を被っている感じさ)


(え? 何そのお化け。そんな者がここにいるの?)


(ああ。二人な)


(もしかすると、シェイプシフターかもしれないわ。過去の大戦で暗躍したね)


(知っていることで、今気をつけることは何か、教えてくれ)


(うん。元の当人の記憶と能力は全て受け継がれているわ。当人はおそらく食べられているね)


(全て能力は使えて、さらにシェイプシフターとしての能力があるわけか)


(ええそうね。シェイプシフターなら、身体能力は人を軽く超えるわ)


(まずいな。リリーが眠ったままだと、ここでは戦えない)


「さて、君達。相談は終わったかね? エミリー君のテレパシーで会話をしていたんだろう?」


 すべてお見通しというわけか。エミリーを知る者がいれば当然と言えばそうかもしれない。


「そうだな。何者かを相談させてもらっていたよ」


「それで? 答えはどうかね?」


「ひとつ聞きたい。話すことのメリットはなんだ? 俺には何もないんだけどな」


「我々も手荒な真似はしたくないんだよね。分かってくれるかな?」


「脅しときたか。いつもの”得意な方法”で記憶とやらを見れば早いんじゃないか?」


 さすがに、グライドもアルデハイトも反応してきた。シェイプシフターとして相手を食らって、すべてを吸収し知り尽くす方法が、今までのやり方だろう。他にもグライドの監察者としての能力で相手の能力を探る方法があるだろう。


 どちらとも受け取れるし、どちらでもない第三の単なる拷問とも考えられる。ゆえに、俺が何を指しているのか、反応に困ったというところか。


「分かった。それならば対価を支払おう。今最も欲しているのものではないか?」


 グランドとアルデハイトは示し合わせると、先の仮面をつけた者に指示を出す。すると銀色のトレーに乗せられた袋は人の頭ほどある大きな袋が一個乗せられてきた。


「なんだ?」


「開けてみたまえ」


「こっこれは……」


 確かに欲しい物だ。この大量にある”女神の雫”は、ガルダ奪還作戦の時以来だ。ある意味ここが、これから逃げられるかのターニングポイントだろう。俺は、わざと大きなため息をついて、素人ながら仕方ないと演出してみせた。


「どうかね?」


 やはりここまでが、安全に譲歩できる限界のようだ。今以上は、もう厳しいだろう。


「――神界」


 この一言の瞬間、周りの空気はすべて入れ替わった気がするほど、変化した。冷静を装っていた彼らの動揺が手にとるようにわかる。俺が知る限りこの”神界”のことは普通誰も知らない。この反応からすると、何か重大な接点があるのだろう。


「……何が目的だ?」


 やはりそうきたか。しらを切らずにストレートに聞くところを見ると、惚けてもムダなことが、俺に対する身辺調査で明らかなのかもしれない。それなら、少しかましてやるか。


「我々はみている……」


 この瞬間、固唾を飲み込む音が少なくとも一つ以上聞こえた。どうやら当たりの様子だ。グライドは何か言葉を慎重に選んでから発しようとしている気がする。


「もしもだ”あれ”がうまくいかなければ、どうするのだ?」


「――これが答えだ」


 俺はここが勝負所だと思い、禁忌の物に手を出す。胸の位置で地面から水平に腕をあげて、拳を胸の前で突き合わせる。直前、高周波の音が鳴り響く。そして拳と拳の間から、銀色のマグネシウムを燃やしたような、激しく強い光を放ち始める。


 するとグライドとアルデハイトさらにあの仮面の二人も露骨に慌て出し、グライドに至っては突然立ち上がり、逃げ出そうとまでする。


「ば、馬鹿な! この場でやりよるとは! 貴様ら神界のやつは、皆狂ってやがる! もうやめだ! 雫をもって、好きなところへいってくれ。必ず成功はさせる! だから、物騒な物をしまってくれ頼む……」


 俺は賭けに勝ったようだ。力の解放を少しずつ止めて、再度光を体内に収める。


「もらっていく。――我々はみている。それだけだ」


 俺たちは立ち上がると、驚愕した顔で全員が見つめていた。このまま扉を開けて、部屋を出る。そのまま館の外まで出ていった。


 今回は、二つ余計なことを知られた。神界と関わりがあることと、”銀の弾丸”の所持者であることだ。この力の解放は、神界に俺の居場所を知らせることにもなる。


 ただあの場を切り抜けるためなのと、今後手出しをさせないためにも、この方法が最善だったと思いたい。あとは、エミリーとリリーにも説明をしないといけないかもしれないな……。


 さっきからテレパシーで質問攻めだ。


 リリーは館から出ると、急に目が覚めた。俺がお姫様抱っこをしているのに気がつくと、しがみついてきて離れようとしない。この状態には、また困った。


「マスター……。申し訳ありません寝てしまいました」


 それでもしおらしく、反省の弁を述べるところは、可愛らしい。


「あの睡魔は、奴らの罠だ。仕方がない」


「いえ。大変なご迷惑をおかけしました。お詫びに私の……」


 そういうや否やこの真っ昼間の中で、半裸になり迫る。


「おい! やめろって、町中だろう」


 ああ。なんでこうなるんだ。俺の苦難は続く……。

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