第8話
「「「『──!!?──』」」」──全く予期せぬジャオフェイの動きに、"奴"も含めた俺たち全員は、何の反応も動作も取ることができず、奴に到っては壊滅的な死霊エネルギーの波をまともに受けたようだ。
恐るべきことに解き放たれた死の波動は、オブシスダイモンに致命的なダメージを与えるだけでは飽き足らず、直線状へとただ只管に突き進み、草木や大地の生命すら容赦なく刈り取っていく。
その光景をただ茫然と見ている事しかできなかった俺は、ふと我に返り───"あの場所にはヨナのチームが潜んでいたのでは?"───という事実に気付いた瞬間、全身から血の気が急速に引いていく。
「ジャオフェイ・・・・・!!!!!貴様、まさかッッッ!!!!」──俺の怒りと動揺から全てを察したウーリの顔が大いに曇る。
『あ~あ、悪りィ、悪りぃ!? さっきからこっちをチラチラ見てやがるうっとおしい変態野郎がいるからよお~、"消し飛ばして殺ったぜェ!?"』──あろうことかコイツは、オブシスダイモンを攻撃するついでに、遥か後方に潜んでいたヨナ達をも巻き込んだのだ。
「──────ッッッッ!!!!!!」──頭に血が上った俺がジャオフェイに向かって、"とびっきりの一発"をお見舞いしようとしたその瞬間─────
「このゴミクズ野郎ッッッ!!!! もう我慢ならねぇ!!!! 今度こそぶち殺してやらぁッッッ!!!!!!!!!」──我慢の限界を超えたベルガが、俺よりも早く衝動的に飛びかかるが、ジャオフェイは鋏のような手でそれを軽くあしらいベルガは勢いよく吹き飛ばさてしまう。
「ベルガッッッッッ!!!!!!!!」
『ハッ!!相変わらず口と勢いだけは達者だな、クソジジイ。万全な状態ならともかく、満身創痍の貴様の攻撃なんぞ、痛くも痒くもねえんだよォォォ!!』──ベルガの必死の足掻きをジャオフェイが容赦なく嘲笑う。
やがて、ベルガや俺に対する興味が完璧に失せ始めたジャオフェイは、再びオブシスダイモンの方へと視線を戻し、いつもの狂った様な口調と台詞回しで奴を煽り始める。
『にしてもどうだい? 効いただろう~、俺のお気に入りの呪文は? "
そう言い終えると同時にジャオフェイは、意識朦朧としつつあるオブシスダイモンに様々な死霊術呪文を容赦なく浴びせかけ、弱り始めた奴を一方的に蹂躪する──最早、これは戦いと呼べるような代物では無かった。
『ギャアアアアアアアアアアアァァァァァッッッッッ・・・・・・・・!!!!!』
『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!!!! イイ反応だァッ!! 生きても死んでも蘇っても"お前"は、俺達の最高の玩具だなァッ!!!アビスに堕ちてたら、湿気たダイモンじゃなく俺らがもっと"可愛がってやった"んだがなァッ!!!!』
「・・・・・・もういい・・・・!!!!あとは・・・・・後は僕たちが・・・・僕達が此奴に止めを刺すッッ!!! ・・・・・・・お前にもう用は無い!!!アビスへと還れ!!!」───見れば、生気を完璧に失い、衰弱しつつあるウーリが息も絶え絶えになりながら、ジャオフェイをアビスへ強制送還させようとしていた。
「────ウーリ!!!!」───今や立っているのが精いっぱいな状態のウーリを俺が必死に支える。
『・・・チッ!!、"いつもより消耗が早い"なァァァッ!? まだ、たった3分しか経ってないぜェェェッ!!? "お愉しみ"はこれからだってのになぁ!!!?』────あの様子を見るにウーリの野郎は、もう限界か。個人的には冥約なんぞ無視して、このままアイツが衰弱死するまで居座り続けてもいいが、そんな真似をしたら俺がアスティルテ様に殺られちまう。
仕方ねぇな───不本意ながらも、俺はアビスに帰還する決意を固め───
『全くしょうがないなァ、ウーリ君は~!! 折角の物質界を堪能出来ないのは少し心苦しいが、俺様は素直にこの世界を去るぜッッ!!!────"この程度の事"で俺を喚んだら、次は無えぞ!?ヒヨッ子共ッッ!!!』───いきなり地面に現れた魔法陣の光に包まれながら、そう吐き捨てたジャオフェイは、このままアビスへと帰還する───そう思わせた瞬間───
『折角だから、最後に置き土産だ────"
すると平原に無数の夥しい霊魂が集まり始め、それが一つの忌まわしい"カタチ"を凄まじい速度で形成し始める───まさか、コイツ、"イドル村"の犠牲者を!!!──そんな考えが浮かんだ時にはもう既に遅かった。
夜の平原に突如として身長10フィート(約3m)ほどの悍ましいアンデッドの巨人が誕生し、その開かれた胸の中には村の住人と思わしき無数の霊魂が、苦悶の表情と怨嗟を浮かべながら渦巻いていた。
『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!!!! お疲れだろうが精々頑張れ~!!───もしかしたら、"次"に遭うことなんてもう未来永劫無いかもしれないなァッ!?』───そんな言葉を残して、ジャオフェイはアビスへと戻り、後に残されたのは疲弊しきった俺達と"奴"───そして、"ディヴァウラー(貪る者)"と称される"脅威度C"の忌まわしいアンデッドの怪物のみとなった。
⛧ディヴァウラー
その名に"貪る者"の意を持ち、"魂を喰らう者"として忌み嫌われるこの強壮なるアンデッドの怪物は、多次元宇宙の遥か彼方で死んだフィーンドや邪悪な術者の遺骸から構成される。歪んだ肉体、異質な感情、生命への飢餓と共に最悪の形で現世に戻ってきたディヴァウラーは、全ての魂を貪り、脅かし、恐るべき苦痛に満ちた滅びを与えようとする。この痩せ衰えたアンデッドの身長は平均10フィート(約3m)だが、その体重はわずか200ポンド(約90㎏)である。
ディヴァウラーは殺害した生物の魂を体内に閉じ込め、その魂を消化する事で様々な魔法の力を発揮することができるだけでなく、自身に有害な魔法や類似した効果を中に捕われた魂に強制的に押し付けることができる。だが、ある意味でそれ以上に厄介なのは、最高位の死霊術師であれば、このディヴァウラーを"死霊術で創造することができる"のだ。一部の賢者や秘術使いによれば、この様なディヴァウラーは、一般的なゾンビやレイスといったアンデッドのように死体や霊魂から創造されるのではなく、それらを触媒に"召喚"されるのではないかという仮説を立てており、特定の邪悪な死霊術呪文や類似した系統の呪文は、何らかの邪悪な存在によって創造され、意図的に広められたのではないかと推測している。
「・・・・不味い、不味いなぁ、こりゃあ・・・。いよいよ俺達のチームも年貢の納め時か?」──珍しくベルガが弱気な発言を見せる。
「・・・・・まだだ、まだ諦めるな!!俺達はここで終わるわけにはいかない!!」──何の根拠もなくベルガを励ますが、さしもの俺も本能的に不味いと感じ始めていた。
朝から魔力を消費した挙句、ジャオフェイを召喚し、その代償として生命力の一部を奪われたウーリはもう戦えない。
ベルガは何事も無かったかのように平然に武器を握りしめているが、付き合いの長い俺達から見れば、最早満身創痍の状態──朝早くから"一仕事"を終え、殆ど休む間もなくオブシスダイモンと死闘を繰り広げたのだ。無理もない。
そして、俺もウーリを抱えながらの状態では、まともな戦闘はおろか逃げ回るのですらキツイ──せめて、せめて俺達が万全な状態なら、ディヴァウラーなんぞ如何にかできるのだがッ・・・・!!!
そんなことを思いながら、ふと思い出したかのように俺がオブシスダイモンの方を見ると──"奴"がまた煙のようなものを1つほど貪り、その傷を徐々に癒し始めていた・・・・!!
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