怪物生態学・冥魔編(その1)

⛧エロダイモン(学名:サッドラブ・ダイモン)


 アビスのサキュバスが肉欲と色欲で破壊と滅びをばら撒くのに対し、エロダイモンは失恋を筆頭とした愛欲が原因となる様々な苦悩と死を体現する存在である。彼らは対象の思考を覗き見でき、相手の性欲や性癖を最も刺激し、魅了する存在(または相手が最も愛する存在)に変身することで、相手を破滅へと導く。

 このダイモンは青い肌の美しい人間に雄羊の角、額には第3の目を持ち、唸りをあげる毒蛇の頭で終わる長い鱗状の尾を生やしており、愛が原因によって傷ついた心の悲惨さ、失われた愛の絶望、そしてその結果として訪れる心の闇といった負の感情を楽しむチャンスのために生きている。


 このフィーンドは定命の存在を装い、犠牲者へと近づいて日常生活へと身を投じ、ゆっくりと彼らを破壊する。やがて、彼らは幸福な家庭と結婚などを解体し、授かった子供や親族を殺すか、家庭内の不和を齎して他の家族を去らせ、評判を破壊し、信仰などの精神的拠り所を消し、他者や家族との絆を引き裂き、犠牲者の感情的な喜び、精神的幸福の崩壊を徐々に引き起こし、その結果として発生する身体的悪化や不調を少しずつ味わう。

 全ての涙が流され、絶望の底に落とされた遍く男女が、悲嘆と悲しみで満たされたまま死ぬと、エロダイモンは犠牲者の精神と魂を執拗に拷問し、最終的に喰らうことで、このダイモンは熱狂的な笑みと幸福感を得る。


 時折、エロダイモンは一緒に行動することがあるが、そうすることで砕かれた定命の者の魂の収穫量が増える場合に限られる。

 また、黙示録の四騎士に仕えるエロダイモンは、上記以外にも様々な有害な影響を及ぼす。疫病の騎士に仕えるエロダイモンは、性行為に対する依存症や性病などをばら撒き、不妊症などを引き起こす事に専念する(そうすることで定命の存在は緩やかに滅びへと向かう)。

 戦争の騎士に仕えるエロダイモンは、前線に赴く兵士の心を奪うことで、自身に忠実な殺人マシーンに変えたり、国や統治者に虐げられる哀れな異性を演じる事で、彼らを内乱などへと駆り立てる事だろう。

 飢饉の騎士に仕えるエロダイモンであれば、貴族や商人といった富裕層を誑かし、食糧の高騰や備蓄食料の不当な廃棄といった問題を引き起こしたり、悪政によって土地や資源を荒廃させる。

 死の騎士に仕えるエロダイモンは、高齢者や死にゆく弱者の心を奪い、死の騎士への忠誠を誓わせることでアンデッドへと変えたり、依存させて予期せぬ凶行へと駆り立てようとする。

 このフィーンドは変幻自在ではあるが、真の姿において身長6フィート(約182cm)で、体重150ポンド(約68㎏)である。




⛧メラダイモン(学名:ファミン・ダイモン)


 飢えと渇きによる死の具現であるこのしなびたフィーンドは、資源を破壊し飢餓を広めることに時を費やしている。ジャッカルの頭部を有し、餓死寸前の痩せ細った人型生物の姿をしたこのクリーチャーは、飢饉の騎士・トレルマリキシアンの助祭であり、彼らの誉れある主のために魂を収穫すべく、全次元界に渡って世界を旅し、何エーカーもの穀物を毀損し、土地や水質を汚染し、家畜や生物を殺す。


 メラダイモンは緩慢な餓死を楽しみ、さまざまな肉体的欠陥と定命の者の弱点に関する実験を行いさえする。彼らは生物が飲食物や栄養なしでどれだけ生存できるかを実験したり、様々な優雅な科学実験を行うが、以前はジャッカルの頭部など持っていなかった。トレルマリキシアンが飢饉の騎士に就任した後、全てのメラダイモンは改造され、現在の姿になったのだ。


 故にメラダイモンは高慢かつ完全に主人に縛られているため、他の同類と協力することは滅多になく、極めて稀な状況の場合を除き、他の3騎士のいずれかに仕える事はない。仮にトレルマリキシアンが望むならば、他のダイモンと共同作業を行うが、彼らは悪名高い裏切り者である。

 メラダイモンは身の丈およそ12フィート(約365cm)、体重350ポンド(約185㎏)。

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