次元界学:破滅界アバドン

 うんざりするような空の下に広大な荒野が広がる領域である破滅界アバドンは、黙示録的な終末の風景に覆われており、絶えず冷たい黒い霧と、終わりの無い日蝕によって陰鬱な黄昏に包まれている。

 触れた者の記憶を奪う有毒なる死の大河”ステュクス河”は、このアバドンに源を発しており、捻じれた蛇のように他の次元界へうねり流れていく。

 言うまでもなく破滅界アバドンは恐らく外方次元界で最も危険な場所である。秩序と混沌との闘争にかかわりの無い純粋な悪のフィーンドである冥魔ダイモンの故郷であり、彼らは滅亡と破壊を体現する。真なる神に近い存在である冥魔王アークダイモンに率いられるダイモンは、魂を貪り喰らう者として大いなる彼方中で怖れられている。


破滅界アバドンは以下の特性を持つ


異名:永遠なる蝕の地、ハデス、ゲヘナ

圏:下方次元界(魔界)

広さ:無限大

時間:通常(しかし、領域によっては大きく変化する)

重力:通常

霊性:中立にして悪(強度な悪属性)

神力による変動性:アバドンにその領域がある神格は考えるだけで次元界に変化を齎すことができる。

魔法の増強:[悪]の属性を持つ呪文や擬似呪文能力は増強される。

魔法の阻害:[善]の属性を持つ呪文や擬似呪文能力は阻害される。


◇黙示録の四騎士の領土


⛧カロンの領地 ”ステュクス河”

 ステュクス河の渡し守にして死の騎士たる”カロン”は、ローブとつば広帽をまとった背の高い骸骨じみた男の姿で、顔は鈍く光る目と輪郭しか分からない。だが、別の者が見れば彼は血のように赤いローブを纏った醜悪な老人か老女、また別の者が見れば、黒い着物を纏った黒髪の美少女か美少年の姿を見せ、人々が「死」について抱く潜在意識によって、その姿を変化させるのだという。

 その領土は破滅界アバドンはおろか他の次元宇宙にまで流れる”ステュクス河”であり、全ての騎士の中で最大規模の領土を有する。その本拠地は水上の浮き城である ”ネクロマンティオン”であり、噂によれば、城の中心にある 巨大な貯水池”ワール・プール”に、カロンが今までに蓄えた膨大な数の知識と秘密、ステュクス河で奪われた全ての記憶が蓄えられているという。


⛧アポリオンの領土 ”プレイグメア”

 疫病を司る騎士”アポリオン”の領土”プレイグメア”は、惑星数個の表面に匹敵する広さの、疫病の蔓延る湿地と水浸しになった森林や広大な沼地で構成され、物質界から戦利品として引きずり込まれた少数の住人が住む都市と城砦が点在している。

 アポリオンの居城は ”蝿の玉座”と称される謎の巨大生物の死体を使って造られた巨城で、この城は巨大な骨の柱と、今も脈動する血管や内臓などの臓器で覆われている。一説によれば、アポリオンによって殺害された神の身体なのではないかと噂されているが、その真実は分からない。


⛧アズリエルの領土 ”灰燼炉”

 戦争を司る騎士にして紅一点たる”アズリエル”は、“荒廃と滅亡の熾天使”として知られ、大理石のように白い肌と烏のような黒い羽、薄絹を身にまとい、グレートソードを振るう彫像のような優美な女性の姿をしたアークダイモンである。だが、その漆黒の目からは滝のように血の涙を流し、口には鮫や鋸のようにギザギザの歯が生えている。

 領土は火山地帯と生物の住めない塩で覆われた平原、戦禍の犠牲となった無数の廃墟、様々な環境の戦場、彼女の軍勢の城砦からなり、その大気は有毒ガスと皮膚や肺を傷つける溶岩ガラスの微粒子で満ちており、1時間もそれに晒されれば自らの血で溺れ死ぬこととなる。その居城は”白帝城”と呼ばれ、城の周辺が灰と白骨に覆われ、まるで雪を冠した山のように見えることから、その名が付けられた。


⛧トレルマリキシアンの領土 ”枯死法廷”

 飢饉を司る騎士トレルマリキシアンは最も若く、最も野心的で、最も狂っている。彼は3頭の黒いジャッカルの頭を持つアークダイモンであり、魂を使った実験に取りつかれている。その領土は飢饉によって荒廃した様々な土地と、成功した融合生物とグロテスクな失敗作で満たされており、どろりとした有害化学物質の川や湖が点在している。

 その居城は”鬼哭の塔”と呼ばれ、絶えず泣き叫び、喚く魂をレンガのように用いている事からこの名がつけられた。塔内は迷宮のような構造をした様々な実験室、成果の保管庫、リンパ液のような液体で満たされた、他の種のダイモンには出入りが困難な小部屋などからなる。


⛧アバドン王

 ”最初のダイモン”、”孤独の王”、”縛られし王”などの異名を有する、かつてのアバドンの支配者。ダイモン達から神のごとく崇められていたが、側近である四騎士に裏切られる。だが、"アバドン王"を殺すことが不可能であったため、破滅界アバドンの中心にある尖塔に封印され、四騎士達は一定の周期でこの地に集い、何らかの儀式を行っている。この塔の遥か天辺には、赤い満月があるが、それは月ではない──絶えずこの世界を凝視する彼の眼だ。



 また、アバドンに居所を定める神格として、最初のアンデッドの神祖にして疫病と暴食の女神たるウルガソーア神と不慮の事故死を司るジーフェス神などがいる。だが、これらの神々の殆どは、四騎士の領地からは遠く離れ、ダイモンとは関わらないようにしている。



◇主な名所


◦胆汁水門


◦封印の地


◦ヴォラシアの領土・身悶えする宮殿


◦嘆きの海


◦ウルガソーア神およびジーフェス神の共有領土・ジュスヘル


◦ヴァルシャルクの火口

 破滅界アバドンの初期の時代において、その忌まわしい罪状によって配下ごと記録と存在を抹消された、初期の騎士である”ヴァルシャルク”の墓にして、かつての領土。

 永劫とも思える時が過ぎた今も尚、彼の行った罪深い所業とその行為に対する嫌悪は未だ残っており、現在もこの火口は溶けたガラスと彼に殺害された犠牲者の怒りに満ちた血液によって絶えず沸騰している。この地に近付くダイモンは、圧倒的な未知の恐怖に襲われ、殆どのダイモンはこの地を忌み地として避けている。


◦共通の墓・シオウル


◦忘却の羅針盤


◦パヴヌリの領土・燃え盛る高巣


◦消費待ちの奴隷都市・ロスレイヴェン


異名:消費待ちの奴隷都市

霊性:中立にして悪

規模:大都市

人口:2900万

人口統計:1200万の定命の者、850万の冥魔ダイモン、250万の邪幻魔ディヴ、600万のその他の種族

支配者:ジャカルカス


◇政府

 消費待ちの奴隷都市として知られる”ロスレイヴェン”は、”蒐集家”の異名を持ち、

歩行不安定・ロボトミー・奴隷を司る先苦者ダイモン・ハービンジャーの”ジャカルカス”によって統治されている。


◇住民

 都市の人口の大部分は、血統、失敗や冥約違反、味わい深い精神的な傷のために厳選されたダイモンの飼育下の定命の家畜であり、彼らは”人畜”と称される。

 ダイモンと様々なクリーチャーは、これらの人畜を自身のカルト信者を利用して効率よく繁殖させ、商品として取引し、専門の奴隷または戦力として利用できる剣闘士として訓練し、喰い尽した時にできるだけ美味しくするように努力しており、都市の商人はその味と品質を出来得る限り保証する。


 ロスレイヴェンは非ダイモンの存在を受け入れる唯一の都市であり、ダイモンや狩猟された請願者と並んで、物質界などから訪れた豪胆な商人や訪問者を見つけることができるアバドンで数少ない場所の1つである。これらの訪問者は、ダイモンと彼らの飼育する人畜の保護や買収に多額の金(もしくは同等の価値のある魔法の品や貴重なアーティファクト、上質な魂を封じた宝石類など)を支払っている。


 夜・鼠・盗賊を司る東方の悪しき女神”ラオ・シュ・ポー”神は、この都市の路地や下水道に専用の領土を持ち、アバドンを本拠地と定めた他の悪しき神々と同様、ダイモンとは一種の不可侵条約を結んでいる。


◦壊れた天使の夢

 永遠に傷ついた終末的風景の中と虚無的な破滅界アバドンの空の下には、”壊れた天使の夢”と称される美しい自然環境があり、天上界の美が反映されたこの場所は、陰鬱なアバドンの地には全く釣り合っていない。

 だが、透き通った水と豊かな森林に囲まれたこの湖は、呪われたアバドンの地に相応しい秘密と恐怖が確かに潜んでいる。この付近に近付いたか、湖を見ている人々は、湖の水面の奥底に響く不快な太鼓のような音を耳にする。そして、少しでも湖をの覗いてみれば、その者達は恐怖に凍り付く──湖面の奥底には数え切れないほどの溺れた天使やクリーチャーたちが、見えない何かによって縛り付けられ、絶えずもがき苦しんでいるのだから。

 これらの犠牲者は溺死を繰り返し、死ぬと急速に腐敗して骨と化し、湖面の奥底に沈む。だが、未知の魔法のような力(または呪い)によって、死後まもなく復活を遂げ、新たに溺れる苦しみを味わい続ける。これらの天使やクリーチャーが何故この地におり、何故拷問されているのかといった真実の数々は、今や時間の経過とともに失われ、永遠の秘密と化している。


 湖面のもう一つの特徴は、岸から見える距離にある小さな島である。この島には、数十フィートの幅で、爪のある巨大な爬虫類の手または足跡が刻まれており、この跡地には、奈落語に酷似した未知の言語による数百行の文字が記されており、この地の秘密を知る外部の存在を強く惹きつける。

 しかし、この島に到達するのは決して簡単な作業では無い。ダイモンを除く全てのクリーチャーは、魔法または基本的な方法(船などによる渡航、水泳、飛行、テレポート等の瞬間移動の全てを含む)による移動を行ったとしても、不可思議な力によって湖の底へと引っ張られ、永遠に溺死している犠牲者と同じ運命を辿る。


◦破離島

 嘆きの海に囲まれた”破離島”は荒れ果てた孤島であり、その唯一の住民は嫉妬・墓地・不名誉・亡者を司る東方の神・フメイヨシ神のみである。 

 この島を訪れた侵入者は圧倒的な倦怠感と喪失を感じてから、突如として肉体と魂が2つの別々のアンデッドに分離され、それぞれがお互いに失ったものを嫉妬しながら蠱毒を繰り返し、その後、何処からともなく顕現したフメイヨシ神によって破壊される。


◦アーリマンの領土 ガフ山およびアーリマン・アーバード

 破滅界アバドンの端にある終末的な風景の下には、邪幻魔ディヴと称される堕ちた幻魔ジンニーの支配者たる邪神”アーリマン"が住まう”ガフ山”が存在する。

 彼はこの山の山頂にある闇黒の宮殿”アーリマン・アーバード”から、ディヴ達を支配しており、自身が望む虚無的な破滅を実現すべく、ここで様々な謀略を巡らす。


 アーリマンは美しいフィーンドと言った出で立ちで、角の生えた灰色の獅子の頭部、その手は虎のような爪、その足には鷹のような爪を持つ。傷だらけの黒き肉にはてらてらと不気味に輝く蛇が這い回り、その主人と彼に近づくものを恐ろしい毒で排除しようとする。古き呪いが刻みつけられた角がアーリマンの獅子のような顔の上から生えており、魂を奪う牙が無数に生えた口の奥には、永劫の忘却と虚無のみが比肩できる闇黒の領域へのゲートが開いている。


 古代の悪であるアーリマンは最初のジンニー達を創造物する際に発生した。神学者によればジンニーに命を齎す創造行為の際に、破壊の影も続いて現れたのだという。この影は世界に自らを流し込み、それが落ちてきた場所の光と創造を打ち消した。何千年も過ぎた後、この消滅の精霊はアーリマンと呼ばれるようになった。

 アーリマンの究極の目的は忘却である。彼の終わることのない計画における目的のために、彼は数え切れない時をかけて無数の冒涜を産み落とした。ディヴとして知られる堕落したジンニーは最も多い彼の奴隷である。アーリマンとその部下は定命のものを、破壊的な決定や知識の放棄に向かわせることに喜びを見出す。彼は邪悪である上に年をとらず忍耐強いため、この古代の悪の力は一度に1つの失敗を解消する方向に向けて世界を弱める方法を探す。


 共謀する邪神であるアーリマンは、彼とその部下が悪なる定命の存在を嫌っているにもかかわらず、そのような存在からの信仰を受け入れている。アーリマンの聖職者クレリックは虚無主義者か、他者を堕落させ、不運を広め、ジンニー類の作品を取り壊すために行動する勘違いした狂信者かの何れかである。

 アーリマンは虚無主義・ディヴ・破壊を司り、自らの信徒に悪・死・破壊・闇の領域への干渉権を与え。アーリマンの邪印は、薄い銀の光がちらつく日蝕であり、その好む武器はウィップである。

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