次元界学:奈落界アビス(その2)

◇アビスの名所

 以下に記すはアビスで最も名が知られた、あるいは最も悪名高い名所であり、

アビスの境界を越えて広く知られている階層の名前である。



⛧アヴォス=コア

 類人猿・密林・専制を司るデーモン・ロード ”アンガザン” の支配する領土。過酷な自然環境の密林世界であり、怪物的な恐竜、巨大昆虫、肉食植物、知性ある邪悪な類人猿、デーモンといった怪物で満たされている。

 アンガザンの宮殿は領土内の上を走るアビスの亀裂の上に建てられた、巨大な黒曜石のジッグラトであり、宮殿の上を走る裂け目の2つの壁は厚いジャングルとなっており、重力が壁に向かって引っ張られている。


⛧アキグイェト

 アビスの最も深い領域にある支配者不在の階層。だが、この地には無数のアイアタヴォス・クリフォトが生息している。


⛧アルガボズ

 蝙蝠・血・洞窟・夜行性の捕食者を司る ”カマソッソ神” の支配する領土の一つ。広大な暗闇の洞窟であり、魔性の蝙蝠の群れが絶えず飛び回り、未知の恐怖が洞窟内の闇に潜んでいる。


⛧灰色工房

 堕ちたドワーフたる”ドゥエルガル”の守護神格であり、労苦・奴隷・不正行為を司る ”ドロスカー神” の領土。


⛧不毛の森

 冷酷・妖婆ハグ・欺瞞を司るデーモン・ロード ”メスタマ” の支配する領土。枯れたモミの木や松の木といった荒涼とした針葉樹林で満たされた暗い森であり、魔女の使い魔となる凶暴なカラスなどの動物、去勢された男性のデーモン、メスタマに仕えるハグや魔女ウィッチの配下が潜んでおり、彼女らは昔話などに伝わる伝統的な魔女の家に住み、訪れた者を罠にかける。

 森のより深い場所にはアビス固有の邪悪なモンスターが蔓延り、その奥にメスタマの住まう住処があるとされるがそこまで辿り着けた者は誰もいない。

 一説によるとこの森は、物質界の暗く人里離れた森に繋がっているとされ、それらの森に迷い込んだ行方不明者の一部は、この呪われた森に辿り着くという。


⛧ベゼルフェイスト

 最強のデーモン・ロードにしてデーモンの女神たる、”ラマシュトゥ神”に仕える4柱のゴブリンの守護神格 "ゴブリン英雄神” が住まう領土。


⛧血の裂け目

 ラマシュトゥ神の娘の一人にして、謎・戸口・強欲を司るデーモン・ロード ”アレシュカガル” の領土。現在、腹違いの妹であるデーモン・ロード”アルディナク”と抗争中。

 この地は深紅色の岩と土の領域であり、浸透する血の川で切り取られており、”まともな植物”は成長しないと言われている。この地に踏み込んだ者は、発育不全のぎこちない植物の生命が見られたと述べ、この様な”植物”は一般的に利用可能な土地で生きているが、新鮮なクリーチャーの血肉を絶えず渇望しており、見つけ次第容赦なく襲い掛かる。領土内の風景は過酷かつ不毛なものであり、断崖、深い峡谷、ギザギザの岩があり、飲食物を必要としないデーモンの性質故に飲める水が存在せず、川を絶えず流れる血だけが存在する。


⛧血葬焦土

 火・火山・サラマンダーを司るデーモン・ロード ”フラウロス” の領土。燃え盛る溶岩の海と絶えず噴火する火山で構成され、火の次元界の昏い鏡像そのものである。

 フラウロスの居城は、この領域で最大の火山のカルデラ内に吊るされたアダマンティン製の城である。この城の下には燃え盛る溶岩の湖があり、そこにはフラウロスの愛人にして騎獣である、グレート・ウィルム・レッド・ドラゴンのフェンガスマが住んでいる。


⛧セレマ大聖堂

 傲慢・禁忌・倒錯を司るデーモン・ロード ”ソコスベノス” の領土。緑豊かな森に囲まれた牧歌的な風景であり、その中心部には大都市と荘厳な大聖堂型の宮殿が建てられている。だが、この地ではあらゆる形態の堕落と性的倒錯が数多くみられ、聖堂内ではソコスベノスの常軌を逸したあらゆる欲望と性的嗜好を満たすための部屋が数多く設けられている。


⛧セレヴリム

 錬金術・変化・発明を司るデーモン・ロード ”ハーゲンティ” の領土。ここは有害な悪の知識を集めた広大な大学のようであり、領土内の各部屋には”動物園”、研究所、図書館、拷問室、および人類に知られていない秘密や知識を収めた他の研究室が含まれる。ハーゲンティは、領域を支える時計仕掛けのメカニズムを利用して、自由に部屋を移動し、室内の目的と設定を意のままに変更できる。

 また、この広大な領域は、ステュクス河に直接接続されている。


⛧酷死館

 嫉妬・嘘・殺人を司るデーモン・ロード ”シャックス” の領土。邪悪な吸血性植物や食人植物で満たされた巨大な沼の上にポツンと切り立った崖があり、大都市サイズの洋館たる”酷死館”はそこに建てられている。

 館内は陰湿かつ致命的な罠の数々と数多くのモンスターで警備されており、シャックスとその配下によって物質界などから拉致された囚人は、ここでシャックスの殺人や拷問の技を磨くための実験台になり、時に館内から脱出するゲームに強制参加させられる。


⛧カルニガルス

 グール・墓地・死者の記憶と秘密を司るデーモン・ロード ”アスティルテ" の支配する領土。惑星十数個分の規模を誇る広大な領土であり、彼女が神格や強大な敵を斃したり、国や次元宇宙を滅ぼすごとに領土は拡大され、支配者である彼女の力も更に際限なく強化され続ける特性を持つ。伝承によればカルニガルスには、"食屍姫"の犠牲者と化した者達の無名の墓が数多く存在し、それは今も尚、増え続けているという。


 領土は、多元宇宙中に存在するあらゆる墓地へと通じる無数のトンネルと複雑な洞窟網から成る、果て無き地底世界にして"墓場"であり、一説には夢の疑似次元界や疑似次元界レンといった底知れぬ世界へと通じているとされる。カルニガルスには下方次元界を貫くステュクス河の一部が流れ、彼女の被造物である強大なクリーチャー達や彼女に仕えるグール達が領土内の防衛を行っているのが特徴の一つである。


 領土の最深部には、幻想的な魔法の光で照らされた荘厳な宮殿要塞"グラトリエル宮殿"が建てられており、この地に"食屍姫"と彼女のつがいが住まう。グラトリエル宮殿はその外観から計算される広さよりも3~4倍は広く、超巨大サイズのクリーチャーが何の制限も無く、自由に動き回れるほどに広大であり、彼女の従者の中でも特に強大な個体から成る精鋭部隊らが宮殿要塞とその近辺に広がる様々な拠点や施設の防衛と維持を行っている――最も、領土が創造されて以来、最深部にまで到達できた侵入者など一人として存在していないが。


 また、この領土は一種の"貯蔵庫"及びライブラリーとしての役割も果たしており、彼女が今までに入手したあらゆる情報や様々な次元宇宙から流れついた故人の記憶・知識・秘密などが領土内に蓄積されており、支配者たる彼女のみがこれらの情報等を自由に取り扱うことが出来る。

 そして、カルニガルスはその全域が負のエネルギーに満ちており、下層へ向かうごとにそのエネルギーの強度と濃さは増す。カルニガルスに踏み込んだ脆弱な輩はこのエネルギーに耐えられず死亡すると、死後速やかにゾンビ化し、"食屍姫"の下僕として未来永劫この地に縛り付けられる。


 この特性に加え、一般的な光源による明かり、光や火を使ったり生成したりする呪文や能力を領土内で発動しようとすると強制的に阻害される。カルニガルスでは全ての光源の効果範囲が強制的に半分になり、通常の明かりや光を発する呪文及び能力は概して効果が弱まってしまうのである。この為、カルニガルスの地は生ける定命の者にとって正真正銘の"死の世界"であり、領土内をまともに探索するには高位の術師や神格の助力――もしくは、カルニガルスの絶対的な支配者たる、"食屍姫"の恩寵と加護――を得なければ、探索はおろか生存することすら不可能である。


 余談ではあるが、カルニガルスの誕生には以下の伝説が存在する。定命の者で初めて”食屍鬼熱”に感染し、共喰いの罪を最初に犯したアスティルテはその死後、奈落界アビスにて生前の外見と記憶を保持したままの状態でグールとして蘇った。

 やがて、彼女の存在と誕生を認識した奈落界アビスそのものの意志は、彼女が蘇った土地を共喰いや死体喰いの罪を犯した魂が辿り着く新たなアビスの領域として創造し、これが後にカルニガルスの階層へと変化したのだという――最も、この伝説の真偽は一切不明であり、数ある"食屍姫"伝説同様、様々な憶測と推測を生んでいる。


⛧ガハジ

 暴食・廃墟・ガーゴイルを司るデーモン・ロード ”ソヴェロン” の領土。何処までも続く広大無辺な廃墟の世界であり、この光景はソヴェロンが目指している最終目標そのもである。

 これら廃墟の都市は無数の鋭い岩と鋼鉄の丘に囲まれており、廃墟の下には少なくとも、12のアビスの階層に辿り着くことができるほど深く掘られた、秘密のカタコンベがあり、その詳細かつ正確なルートは支配者たるソヴェロンしか知らない。


⛧大喰らいの闇

 洞窟・爬虫類・トログロダイト(洞窟に住まう邪悪な爬虫類人)を司るデーモン・ロード ”ゼヴガヴィゼブ” の領土であり、既存のアビスの階層で最も深く、最も広大な領域の1つに数えられている。

 この地は地下を流れる川と無数の裂け目が結合された巨大洞窟であり、少なくとも19の主要な洞窟が記録され、この数の最大2倍が存在する可能性があることが示唆されている。無論、その中には未踏の場所、封印されたか廃棄された場所、単に通行不可能の場所も存在する。


 ”大喰らいの闇”は、多数の連結された球状世界であり、これらの領域のサイズは、大陸から惑星規模まで様々様ある。それぞれにジャングル、山、沼地、海などの多種多様な自然環境と生態系が含まれており、重力は領域内において通常とは異なる働きをする。

 これらの領域は回転楕円体の洞窟の壁に付着するため、重力は洞窟の内面に引き下げられる──つまり、海はジャングルの「上」にあり、まるで「空」にあるように見える。さらに各洞窟の中心には、洞窟ごとに異なる通常の昼と夜のサイクルをシミュレートするために明滅を繰り返す星が設置されている。


⛧ハイ=マヴァニア

 ラマシュトゥ神最大の宿敵であり、天空・誘惑・有翼生物を司るデーモン・ロード ”パズズ” が支配する”ハイ=マヴァニア”は、アビスで最大の裂け目に垂直に並べられた領土である。

 パズズの住まう宮殿であり私的な鳥類群生地は”シバクセト”と称されており、領域である広大な崖には、高原や鳥類の高巣が設けられている個所もある。これらの高巣の1つには、ハイ=マヴァニア最大の都市があり、これらの崖に加えて、パズズは自身の領土の下に存在する全ての階層(実質的に言えば、アビス全階層)と広大な裂け目の周りにある「空」の支配権を主張しており、自らを”下方空中王国の大公”または”風の魔王”と称しているが、それを称するに相応しいだけの圧倒的な実力を有するため、それに異議を唱える者は皆無である。


⛧ヰ=シュサー

 海洋・畸形・海の怪物を司るデーモン・ロード ”ダゴン” の領土。広大な海域たるヰ=シュサーは、アビスの様々な海域や下方次元界を貫くステュクス河はおろか、多元宇宙のあらゆる海域に通じている事実を考慮した場合、恐らくこの領土は、奈落界アビスに存在する全ての階層の中で最大規模の広さを誇ると思われる。


 領土は奇妙で悍しい島々が点在し無数の海溝と海底都市が散らばる大海原で構成されており、ダゴンに仕える恐るべき水棲モンスターの群れやダゴンに「聖別」されたデーモン達が海域の深みに潜んでおり、ヰ=シュサーの海上に浮かぶ無数の島々には、数多くのデーモンと忌まわしい怪物達の混血児が棲み付いているが、この地を支配するダゴンよりも恐ろしいものは存在しえない。


 そんな彼は、ヰ=シュサーの最も深い海の底に建てられた"ウゴタノク"と称される荘厳なる海底宮殿に住んでいる。彼はこの宮殿の奥に設けられた聖所からゴラリオンの海域を筆頭とした次元宇宙の様々な海域に眷属達を送り込んでおり、彼の穢れた種と血族は有害な混沌と災厄の数々を広めながら、今も尚、世界に拡大し続けている。


⛧象牙色の迷宮 

 獣・迷宮・ミノタウロスを司るデーモン・ロード ”バフォメット” の領土。この迷宮の廊下と部屋の壁、天井、床は、あらゆる生物の数え切れないほどの骨によって構築され、完璧に覆われている。

 それに加え、領域内は幾つかの惑星と同じほどに大きく、あらゆる種類の建築物、地理、形而上学の紛らわしい捻じれが多数存在している。この地へと踏み込んで無事生還できた侵入者は、その多くの危険な地形には、都市のような密集した通り、曲がりくねった小道が交差する大規模な山脈そのもの、ギザギザの骨の突起がある平野、広大な地下トンネルが広がるカタコンベや地下通路、通行不能な沼地、捻じれた川、そして侵入できない森が含まれると報告しており、その全容は未だ掴めていない。


⛧ジャハラル

 菌類・寄生虫・病気を司るデーモン・ロード ”シス=ヴィサグ” の領土。惑星を遥かに超える規模の巨大洞窟内に、白く細かい糸状の菌類や身悶えする寄生的細菌類によって構築されたコロニーが存在しており、その中心部にシス=ヴィサグが潜む。

 シス=ヴィサグはこの領土を自身の肉体と精神の延長として操ることができ、この穢れた触手の巻きひげを他の次元宇宙に放出して、腐敗させ、最終的に世界全体をこの地に引きずり込むことができる。


⛧ジュヴュミラク

 冷気・巨人・復讐を司るデーモン・ロード ”コシチェイ” の領土。極寒の冷気に覆われた氷の世界であり、広大な山岳地帯と凍てついた海、荒野と深き森、高くそびえる氷河で構成され、絶えず唸りを上げる猛吹雪に覆われている。

 コシチェイの住まう居城”スカイスカー要塞”は、領土内最大の規模を誇る”スカイスカー山脈”内の中心部を深く削岩して建造されており、この地には彼を崇拝するフロスト・ジャイアント、ホワイト・ドラゴン、イエティといった寒冷地や氷の元素に由来するクリーチャーが数多く生息している。


⛧カハヴァク=ヴォグ

 害虫・束縛・ドライダー(下半身が黒蜘蛛と化したダークエルフ)を司るデーモン・ロード ”マズメズ” の領土。粘つく蜘蛛の巣で構築された湾曲した分厚い壁と天井、そして無限の迷宮の如き洞窟網や通路で覆われた巨大な巣であり、夥しい数の害虫の群れや蟲の特徴を有する怪物が数多く蔓延っている。

 この地には彼女の最大の被造物である”べビリス”と称される悪名高い蜘蛛の怪物が、他のアビスのどの階層よりも数多く生息しており、幾つかの固有種化した強大なべビリスは、彼女の巣の深部で守護者を務めている。


⛧クルヌギア

 アビス最大の規模を誇る領土”クルヌギア”は、最強のデーモン・ロードにしてデーモンの主神たる ”ラマシュトゥ神” の支配する階層であり、かの女神は怪物・悪夢・狂気を司る事で広く知られてる。

 クルヌギアは非常に広大であるため、誰もこの地を正確に表現することも説明することもできない。一つだけ確実に言えるのは、物質界にある惑星全体を含むのに十分な広さの領域であり、凍てつく山から乾燥した砂漠、嵐に覆われた海域、密林で覆われた巨大な島、そしてアビスの性質ゆえに通常の価値観では到底理解では理解できない場所まで、考えうる限り全ての既知の環境が含まれている。


⛧クタム

 太陽・無意味な戦争・砂漠を司るデーモン・ロード ”ネルガル” の領土。広大な砂漠地帯とサバンナが混ざった領域であり、永遠に沈まぬ真っ赤な太陽が、領土内の遥か上空を照らしており、過酷な熱と光でクリーチャーを焼き続ける。

 クタムにある長い峡谷は、ネルガルの恋人である”アレシュカガル”が支配していた、”囁く砂の海”と称される砂漠地帯と接続されていたが、彼女が妹であるアルディナクによって追放された今、この地には境界を見張るデーモンが絶えず配置されている。

 

 

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