第3話
ギルド長の予期せぬ発言を聞いて、酔いが醒めたどころかこの世の終わりのような表情を浮かべた、常連のクレンコは思わず呟いてしまった 「お、オブシスダイモンだぁ・・・・・!!??」
⛧オブシスダイモン(学名:ジェノサイド・ダイモン)
鷲の翼、鋭い牙の生えた狂犬のような顔、筋肉質な骨格を持ち、巨大かつ残虐なハルバードを手に聳え立つ破壊的なオブシスダイモンは、戦争の最も暗い要素を擬人化している。オブシスダイモンは名誉と栄光に満ちた戦場の虚飾、交戦中の戦術の複雑さや甘美な大義名分や正義といった概念、戦争における暗黙のルールや秩序といった全てを剥ぎ取り、残忍で暴力的かつ無慈悲で救いようのない紛争の真実だけを核として残し、生きとし生ける全てから生ある未来を奪い去った挙句、今までの争いの歴史が焦土作戦と大量虐殺以外の何物でもないことを明確に明らかにする。
民族浄化、人口の減少、その他冷酷でシステム的なその他全てと、粛清といった市民集団の組織的な抹殺の形態といった恥ずべき人類の汚点と黒歴史を反映するオブシスダイモンは、多種多様な死を体現する
この非人道的な存在は小さな人口地域の果てから遂には大都市の中心部へと到着し、瓦礫と灰の荒れ地のみを残す。生ける戦禍であるオブシスダイモンが赴く所では哀れな死者の霊魂ですら、その悲惨な破壊や犠牲の有様を嘆くことができず、このダイモンは無実の者だけでなく、定命の存在の歴史と血脈といった全てを一掃し、言葉上のどの意味であっても犠牲者の未来が存在しないことを保証する。
定命の者が生前に大量虐殺を行い、その死後に魂が呪われた"破滅界アバドン"へと堕ちた場合、無限の悪意に満ちたこの世界にて狩人の一員として永く生き残ることができたのであれば、それはオブシスダイモンになる可能性がある。
そのような強力な個体は、裏切りに次ぐ裏切りが絶えぬアバドンの無限の蠱毒において、自身の生存権を確保するためにありとあらゆる有能かつ有害な他の味方を破壊する意志と力があることを、その身でもって既に証明しているため、執拗深い一種の"廃棄物"たる下位のダイモンらの手下の管理といった諸問題を抱えている事は殆ど無く、オブシスダイモンは破滅界アバドンの地にて一定の自由と栄光が保証される。
最終的にオブシスダイモンへと発展した悪質な魂は、その道に立つ全て者に降りかかる無差別かつ容赦無き最悪の死の前触れとして機能し、このダイモンは孤独的に虐殺を実行する為に諸世界を彷徨う。
生前、この様な魂は恐らく特定の選ばれた集団や民族だけを殺したいと願っていたことだろう。しかし、オブシスダイモンとして変成を遂げた嘗ての存在は、今や全ての定命の者の抹殺と滅亡を求めている。
オブシスダイモンを特徴づける明確な能力は、その巨大な身体から滲み出ているように見える"魂の外衣"である。それは救い無き破壊と死の象徴であり、その破滅的かつ殺人的な能力はかなりの範囲にいる観測者に明確な凶兆と死の暗示を与える。オブシスダイモンが多数か人口全てを一方的に虐殺するとき、一度に全ての魂を平らげるのではなく、後で有効利用するために犠牲者の霊を捕らえる。
抵抗勢力を相手にしたこのフィーンドは、特に強力な攻撃を繰り出す必要がある(あるいは厄介な相手を確実に殺したいと思った)場合、その力を更に強化し、完璧なる滅亡を確実に実現させるために保存しておいた魂を無慈悲に消費する事で知られ、一部のオブシスダイモンはこの魂の断片を細工して形成し、それを用いて愛用の武器や肉体を強固に包むために、秘術的かつ冒涜的な方法の数々を独自に開発するという。
全ての定命の者の生命と魂を他のダイモンの種にも益して貪欲的に狩り、体系的な虐殺へと傾倒するために熱心に働く殆どのオブシスダイモンは、同様の理想を共有するダイモンの神たる"戦争の騎士"に仕えている。"戦争の騎士"の奉仕において、オブシスダイモンは組織的な虐殺を実用的な芸術に昇華するだけでなく、その優れた技術を利用するために、"戦争の騎士"の
一部のオブシスダイモンは代わりに"疫病の騎士"に仕える事で知られ、"疫病"による征服行と病死による支配を実現すべく、通過する何マイルもの地形や地域に有害な毒と病原菌の雲を撒くルーコダイモン(学名:ペスティランス・ダイモン)の巨大な軍の先頭に立つ事で、同様の役割を果たすこともある。
時には、契約を結んだか雇われたであろうオブシスダイモンの傭兵団が、侵略する
更に一部のオブシスダイモンは、
特に狡猾なオブシスダイモンの一種は、単なる定命の者風情では自身の素晴らしい力を制御できないことを知っており、愚かな悪の召喚術士や野心に満ちた未熟な術師といった"優秀な愚者"にワザと招来させることを望み、意図的に自身の真名を物質界に広める。そのような召喚者の99%は、嬉々として顕現したオブシスダイモンによって、しばしば肉体や精神はおろかその霊魂をも喰い荒らされ、その後に暴れまわるオブシスダイモンを覆い隠す、苦しむ霊の衣に織り込まれる最初の魂としてその愚かな生を終える。
基本的にオブシスダイモンは身長25フィート(約7m)、翼幅は30フィート(約9m)、体重15000ポンド(約6803㎏)以上であるが、賢者やフィーンド学者らによれば、この一般的なサイズのほぼ3倍に匹敵する個体がいると噂されている。
「・・・一体何処でそんな化け物が確認された? 発見された時間は? 見つけてからどれくらい時間が経過してしまった? 犠牲者を含めた数は? 他のダイモンやフィーンドの姿は!?」冷静さを装いつつもも微かな焦りが見え隠れするウーリは、ギルド長に矢継ぎ早に問い詰める。
「・・・確認できたのはその一匹のみ。現時点で入手できた周囲の被害状況を見る限り、単体での顕現──恐らく、誤って召喚された個体だろう。命懸けで知らせてくれたのは、カズミル平原にある"イドル村"に住んでいたという、幼い姉弟だ。夕刻の4時頃に訪れた姉弟の話を聞く限り、もう既にあの村は・・・・」
「"イドル村"だぁ!!? う、嘘だろ?嘘だといってくれよ!?ギルド長!!? あの村は俺のカミさんの実家があるところだぞ!!??なぁ、何かの聞き間違えじゃねぇのか、なお、オイ!?!?」予期せぬ不穏な情報に、カミさんに愛想をつかされたらしいジョーゼフが慌てふためきながらギルド長に詰め寄り、驚いた周囲の男どもがそれを全力で止めた。感情と情報処理が追い付かないほどの凶報にジョーゼフは最早、錯乱状態に陥りつつあった。
「落ち着け!ジョーゼフ!! まだお前のカミさんが実家に帰ったと決まったわけじゃねぇだろう!?」
「頭を冷やせよ!」
「離せ!離しやがれ!!俺は、俺は行くぞ!!アイツが、ダリアが俺を待ってるかもしれねぇだろうがぁ!!?」
「下手に出向いたらお前も殺られちまうぞ!?」
「そ、そうだ、そうだ!そう簡単にあのカミさんがくたばる様なタマかよ!?」
「クソッ!!なんて力だッ!!」
「おい、ミルコ! ジョーを店の奥で休ませてもいいか!?というか無理にも押し込めるぞっ!?」
「分かった、分かった!! 急げ!!」
「ゴーシュ、手を貸してくれ!」
常連達は錯乱しつつあるジョーゼフを急いで店の奥に押しやり、尋常でない雰囲気と事態を察した店主のカミさんは、急ぎこの店を閉め、今この場にはギルド長と俺達、そして、予期せぬ事態に巻き込まれ困惑している常連の客と酒場の店員らのみとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます